12


夢を見ていた気がする。あたたかくてさみしい夢だった、気がする。
結局、あのまま再び眠っていて。目覚めてから、握りっぱなしだった携帯をよくよく見たら、不在着信が9件。きっかり1時間おきの非通知着信に、変な笑いが漏れた。彼は留守番電話というものを知らないのだろうか。
落ち着いた気分で遅めの朝食を食べ、ゆっくり支度をした。鏡を見れば、いくらか顔色も良くなったようだ。あれだけ寝れば当たり前か。軽く化粧なんかしてみたりして。馬鹿だなあなんて思いながら、携帯をポケットにねじ込んで家を出た。



「おはようございます、主任」
「お、みょうじ。体調はもう大丈夫か」
「はい。ご心配おかけしました」
「昨日のお前の分の仕事は山下が代わってくれたから、礼を言っとけ」
「は、はい!」

主任に挨拶をして、同僚の山下さんの元へ走った。もう大丈夫なのかい、心配したよ、なんて言ってくれるこの人は優しい人だ。ひとしきり頭を下げて、今日のスケジュールを確認する。ホワイトボードの前でうんうん唸っていると、突然背後に巨大な影が差した。ばっと振り返る。

「Hey!」
「…なんだガンマックスか」
「おいおい、ひっでえなその言い方。今日の顔はひどくねえみてえだが」

オーバーアクションで首をすくめてみせるガンマックスを一瞥してボードに向き直る。今日の担当は特にないようだ。

「なあ、昨日の電話。カゲロウからだったのな」
「ん?…あ、そうか。会ったんだ」
「お前、あいつの事、どう思ってるんだ?」
「どうって…」

返答に詰まりながら振り返ると、しゃがみ込んで覗き込むようなガンマックスの顔が予想外に近くて、思わず後ずさる。
どう思ってるかだなんて。言いよどんで視線を落とした――瞬間襲った浮遊感に、ひい、と声が漏れた。

「ガンマックス、なまえさんに何をしている」
「カ…カゲロウ?」
「さすが忍者だな、気配がねえ」

片手で掬い上げられ高くなった視点に、思わず座っている指にしがみつく。カゲロウはガンマックスを見て、口をへの字にしていた。

「藤堂さんになまえさんが来たって聞いたから、迎えに来た」
「そ、そう」
「行こう」

そう言うなりカゲロウはスタスタと歩き出して、私は困惑することしか出来なかった。指の隙間から見えたガンマックスは、珍しく苦笑していた。



「あの…カゲロウ、どこ行くの?」

ずんずんと歩き続けるカゲロウの手の中で、声をかける。薄暗い倉庫の通路まできて、彼は立ち止まった。

「…すまない」
「いや、別に構わないけれど…」
「休めたか?」
「うん。たくさん寝たし」
「そうか。…その」
「うん」
「…あの、話の、ことなんだが」

なんで彼はこんな表情をするんだろうか。こんな、顔を。

「…私でいいの?」
「あなたがいい」
「そう。わかった」

よろしくね、そう言えば、彼は笑ったから。私も、笑った。
元通りになるのは、どうやらもう少し先みたいだ。





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