幸村


どうぞよろしくお願い致します、と頭を下げたのはまだ若い女子だった。どうしてよいのか分からず言葉に詰まると、隣でくのいちがホラホラ、と肘で突付いてきた。

「幸村様、挨拶くらい返してあげなよ」
「あ、ああ…真田幸村だ。その、よろしく、頼む」
「はい。この命に代えても、幸村様をお守り致します」

この度新たに護衛隊長としてやってきたこの女子は、名をなまえといった。その面差しがひどく見覚えのあるもので、ごくりと喉が、鳴った。それでは失礼致します、と一礼して去る背中をただ見つめて。くのいちは目を細めて、こちらを見ていた。



戦がある。上杉との、いわゆる闘争、である。行軍の最中、自身の前を進む彼女に声をかけた。

「なまえ殿」
「どういたしましたか、幸村様」

振り返った彼女の目は澄んでいる。見覚えのある目だ。そう、たしか。

「…そなたの、兄は」
「はい、兄も幸村様をお守りしておりました」

そうか、と出した声は震えていたように思う。

「兄は私の誇りでございます。己の務めをまっとうしたのでございます」
「…そう、か」
「私も兄のように、幸村様を必ずお守り致します」

遠くで法螺貝の音が響いた。彼女が道の先をさっと見据える。ああ、戦が始まる。

「なまえ殿」
「はい」
「そなたは、死なずに私を守ってくれ」

承知致しました、と微笑む彼女を見て、ようやく私も笑えたのだ。



 消えやしない








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