夏侯覇


「お、っも…」
「いやいやいや、なまえ様には無理ですって!」

鍛錬所で夏侯覇殿と会って、二人でひとしきり武器を振るった休憩のとき。
隣に腰掛けた彼の大剣をまじまじと見つめていたら、持ってみますか?あ、でも無理ですよね、なんて私の槍を見ながら言われたからカチンときて。こうなった。
彼の剣は恐ろしいほど大きくて、柄を握って持ち上げることすらできなくて。もうヤケクソだ。

「なんのこれし、き…っうわあ!」
「ああもう言わんこっちゃない!」

ずる、と汗で滑った私の手はすぽんと抜けて、勢いよく尻もちをつく。夏侯覇殿は苦い顔をして駆け寄ってきたから、尻に刺さった小石の痛さも妙に腹立たしくて悔しくて、唇を噛んだ。

「怪我してませんか?」
「ええ…心にざっくりと」
「はは…」

立ち上がらせるために差し出された手を握った。彼の手は大きくてごつごつしていて(お父様や師兄様とは全然違う)、ああこれだけ男らしい手ならあんな剣も容易く扱えてしまうんだろうなあ。そんな風に考えながら握ったままの手を見つめていたら、夏侯覇殿はぱっと手を離してしまった。

「えーと…ほら、なまえ様は女性なんですから」
「私がそのように扱われるのが嫌いなの、知っていますよね?」
「あー、その、すみません…」

困った顔をして頭を掻く夏侯覇殿を横目に、自分の槍を手に取った。私でも扱える重さの、しなやかな長槍だ。夏侯覇殿にとっては、鳥の羽根くらいにしか思われないのだろう。

「やはり私にはこちらがあっているようです」
「あー…」
「夏侯覇殿?」
「あ、いやいやいやなんでも!」

一振り、二振り。

「夏侯覇殿、お手合わせ願います」
「お手柔らかに頼みますよ、なまえ様」

女だから、なんて言いながらも、鍛錬にはちゃんと付き合ってくれる優しい人だ。
がぎんと伝わる重い振動に歯を食いしばりながら、日を浴びてきらめく刃の向こうにいる彼を見つめていた。



そう悪いことじゃない





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