抱き合えば/慶次
寝苦しさを感じて目が覚めた。ぱちり、と開けた目に飛び込んできたのは、蝋燭の明かりに照らされた慶次の顔。
なんだ、起きちまったのか、と残念そうな声音とは対照的に、楽しそうに笑うその顔に一発お見舞いしてやろうと振り上げた手は簡単に止められてしまった。
「武士にそう手をあげるものではないぞ、ナマエ」
「手をあげさせる状況を作っているのは誰」
「お前だ」
「こら!」
ばたばたと暴れてみるが、腕をぐいと引っ張られて布団に押さえつけられた。
重ねられた手は大きい。指が絡まる。顔が近づく。これは、まずいんじゃないか。
「…顔が赤いぞ」
「…見ないで下さい」
「暗い方がいいのか」
「そうじゃなくって…!」
あーもう、と顔を背ければ、ふ、と慶次が笑った。
「冗談だ」
「意地悪」
「なんとでも言え」
ごろん、と隣に横になる。やっと解放された、と思ったらやんわりと抱き寄せられた。
「一緒に寝るくらいはよかろう」
「何もしない?」
「して欲しいか?」
「追い出そうか?」
「すまん」
ぎゅ、と力を込められる。慶次の匂いがする。
この匂いは、嫌いじゃない。ゆっくり、目を閉じた。
抱き合えば、ほら
(好きだなんていってやらない)
(今は、まだ)