02


「え、助右衛門様、もう帰ってしまったの?」
「ああ。あの次の日、早くにな。使いが来てなあ、なんでも向こうで問題が起きたとかで」

どうやら私は二日ほど眠っていたらしい。彼には迷惑をかけてしまった。お礼も、何も、言えていないのに。

「なに、またすぐに会えるさ。ほれ、こっちへ来い。髪を結ってやる」

慶次の太い指は器用に私の髪をまとめて、すっと簪を挿した。あの、緑の石の。鏡に映ったそれを見て、私はすこうし、笑った。

「ふむ、あいつめ。妬けるな」
「な、」
「今度はおれも何か買ってやろう。あ、そうだ!」

思い立ったように慶次が立ち上がるのと、捨丸が部屋に入ってくるのは同時だった。

「旦那、お客人ですぜ」
「おお、来たか!」

ぱん、と手を叩いて、慶次が部屋をどたどたと出て行く。あっけに取られながら捨丸を見ると、ヘヘヘ、と笑っていた。向こうから、慶次が声を上げて私を呼ぶ。

「ほれほれ、呼んでるぞ」
「う、うん」

慌てて立ち上がって部屋を出ると、慶次が庭から覗きこんでほいほいと手招きしていた。そちらに駆け寄る。

「慶次、どうし…あ」
「紹介しよう兼続殿、こいつが名前だ」
「おお、あなたが」

にこりと微笑んだ彼に、出るようになった声がまた引っ込んだ。気がした。





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