01


「は、あっ」

がばりと身を起こした。ここは。そうだ、慶次の家だ。じん、と頬が痛む。私、あの後、覚えてない。
布団からずるずると這い出して、襖に手をかける。開けようとしたら、先にガラリと動いた。

「…起きたか、名前」
「けい、じ」
「うん」
「けいじ、わたし」

慶次はただ優しく私を抱きしめて、大きな手で背中を撫でてくれた。
しばらくそのままでいて、慶次が口を開いた。どうしようかと思った、と。

「驚いた。助右衛門が血相変えて、お前を抱えて帰ってきて。あいつはひどく慌てておるし、お前は目を覚まさないし」
「…う、」
「聞いたら襲われたとか言うし、声が戻ったとも言うし、でもお前は気を失ったままだし」
「慶次っ…」
「…良かった。本当に」

ぎゅうと力を込められて、私の涙は全部、慶次の着物に吸われていった。
私は本当に、死んだのだろうか。ここは、天国?だってこんなにあたたかい。どうしてこうなってしまったのか全く、分からないけれど。ただ一つだけはっきりとしているのは、私にはもう、帰る場所はないということだ。否、帰れない。

「ねえ、慶次」
「なんだ」
「私、ここにいてもいい?」
「ああ、もちろんだ」

触れられた頬はまだ痛い。私はここに、生きている。ここでは、生きていていい。






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