04


「料理を出すのが遅いといちゃもんをつけて暴れたらしい。どこにでもああいう輩はいるものだな」

帰り道で先程の騒ぎの原因を教えてくれた。辺りはもうすっかりと暗くなっている。
助右衛門はそれから、他愛無い話を続けてくれた。今更ながら、喋る事ができないのはとても不便だと思った。慶次の屋敷にいる時はいい。書くものがある。夜には明かりがある。昼間に外に出るのはいい。太陽が顔を照らしてくれる。表情で気持ちを伝えられる。
こう、暗いと。ぼんやりと青白い顔が浮かんで見えるだけ。はっきりしているのは、隣から絶えず聞こえてくる優しい声と、繋がれたままの手から伝わる温かさだけ。試しに少しだけ、力を込めてみた。

「…ん」

ぎゅうと握り返される。ひどく、安心する。ほう、と息をついた瞬間のこと。
視界の隅に、影が映って。頬に激痛が走った。衝撃で地面に叩きつけられる。ぐわんぐわんと響く頭に、助右衛門の叫ぶ声が聞こえた。ぎらりと、暗がりの中で光るものが見えた。
あれは、刀、だ。ぎん、がぎん、と打ち合う音。地面にへたり込み呆然とその光景を見つめていると、目の前に男が立ちふさがった。
暗闇の中でも分かる下卑た笑みを浮かべた男は、刀を振り上げる。ころされ、る。
ずきん、と頭が痛む。同時に脳裏にある光景が流れ込む。いたい、いたい!

「い、やああっ」

喉の奥から、悲鳴にも近い声が出た、次の瞬間、男の首が落ちた。崩れ落ちる男の身体の向こうで、息を切らした助右衛門が驚いたように目を見開いていた。

「名前殿、声が」

駆け寄ってきて、膝をつく。頬に、先程離れたぬくもりが触れる。私は泣いていた。
ああ、分かってしまった。分かってしまった。
そっか、わたし、あの時、死んでたんだ。





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