03


日暮れ時である。まだがやがやと賑わう往来を、茶屋の店先で助右衛門の隣に座り眺めていた。

「さて、そろそろ帰らねばいけないな」

慶次が拗ねているだろう、と楽しそうに笑う彼につられて私も笑うと、少しだけ寂しそうな顔をした。
勘定をして店を離れようとした時、通りを挟んだ向こうから怒声が聞こえてきた。びくりとしてそちらを見やると、数人のごろつきが女の人の髪を引っ張って、外へ連れ出しているところだった。おねがいだ、やめてくれ、と叫んでいるのは彼女の旦那さんなのだろうか。彼らが出てきたのは定食屋だ。何があったのだろうか。

「名前殿、下がっていなさい」

厳しい顔をした助右衛門様が、彼らの方に歩いていった。周りに野次馬達が集まってきていて、後姿はあっという間に見えなくなってしまった。
やいやいと騒ぐ声で、何も聞こえない。輪の外で待っていたが、どきどきと不安になってきて、人ごみを掻き分けた。
やっと抜け出せた、と視界が開けた瞬間、鈍い音と共に目の前に男が倒れてきた。助右衛門が殴り飛ばしたらしい。ごろつき達は皆倒れ、先の夫婦は隅で抱き合って震えている。

「ああ、ありがとうございます、お侍さま…!」
「大丈夫ですか」
「なんとお礼を言ったらいいか…」
「無事ならば良かった」

頭を下げる夫婦にニ、三言葉をかけ、そうして私の姿をみとめると、ふうわりと笑った。

「帰ろう、名前殿」

差し出された手にそろそろと自分の手を重ねる。助右衛門は足元に転がる男達を一瞥して歩き出した。慌てて足を動かしながら後ろを振り返ると、夫婦はまだこちらを見ていた。小さく頭を下げると、笑ってくれた。





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