03


帰ってきた二人と一頭を迎えると、松風がブルルと鳴いた。しきりに鼻を近づけてくる。

「名前、何かあったのか?松風が心配しておるぞ」

慶次が顔を覗きこんできた。近い。名前が困ってますよ、と捨丸が言うとしぶしぶといた風に離れた。松風はまだ離れない。
後ろで岩兵衛が申し訳なさそうにしている。

「岩、お前のせいか」
「…そうかもしれません」
「なんだと?」
「昼にちょっと、話を」

そうして先程の会話をかいつまんで話す様子を見ていた。
無くした記憶の大方の予想はついている。多分、きっと。しかし信じられないし、自分自身もそうであって欲しいとは思わない。
だから思い出す時まで、何も考えないようにしようと決めた。
しかしながら、松風は敏感に気が付いたらしい。知らないうちに落ち込んで、いたのだろうか。
ごめんね、と口を動かして顔を撫でた。

「名前、小屋に連れて行ってくれ。あと飯も」

慶次に言われ、松風と小屋へ向かった。
水桶と、野菜の籠を運ぶ。それらに口を付ける様子を見ながら、胸に痞えるものを感じていた。私は、あの時私は。
ぽん、と肩に手を置かれた。びくりとして振り返ると、慶次がにっこりと笑っていた。

「おれ達も飯にしよう。手伝う」

そう言って頭に置かれた手はあたたかい。松風がヒン、と鳴いた。

「な、名前」






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