02
昼になると、慶次は松風、捨丸と共に出かけていった。岩兵衛と二人、庭の鳥を眺めながら茶を飲む。隣にいるのは鬼のような男だが、和やかなこの時間が好きだった。
「なぁ、名前。あんさんに言いたかった事があるんや」
菓子を咥えたまま彼の方を見ると、なにやら神妙な顔をしていた。じっと見つめられると、不思議な感じがした。そういえば七霧の者は、心が読めるんだ。今、読まれているのだろうか。
「…やっぱりあかん」
額に手を当て、首を振る。何があかん、のだろうか。
「名前、ワシら七霧の者はな、人の心が読める。けど」
読めんのや。あんさんの心が、見えん。
その言葉を、どう受け取っていいのか分からなかった。特別な修行をしたわけでもない。心を閉ざしているわけでもない。なら、何故見えない。
俯いていたのをどう取ったのか、岩兵衛が慌ててすまんな、と謝り始めた。
「すまん、気味悪かったやろ。勝手に覗いて、しかも分からん言われて」
そうじゃない、という事を伝えたくてぶんぶんと首を振った。
困ったように眉を下げて笑う彼に申し訳なかった。悪いのはきっと、私のほうなのに。
「やっぱり記憶無くした時、なんかあったんやろな」
何かが押し止めている、そんな感じがする。彼はそう言った。
私が本当に無くしてしまったあの瞬間の記憶に、その原因があるのだろうか。それを思い出せば、見えるようになるのだろうか。
そうしてこの優しい鬼は、私をどう思うだろう。
鳥はいつの間にかいなくなっていた。
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