04
用事を思い出した、と慶次は岩兵衛を連れて屋敷を出て行った。捨丸は部屋の中で武器の手入れをしている。
助右衛門と二人、縁側に腰掛ける。松風が近づいてきて、手を伸ばすと鼻面をぴとりとくっつけた。
「随分と懐かれているんだな」
驚いたように言う彼に笑ってみせると、目を細めた。
松風を撫でる様子を見ながら、そうだ、と何かを思いついたように口を開いた。
「名前殿は、町に行った事は?」
首を振ると、それなら、と楽しそうに。
「怪我が治ったら、一緒に行こう。きっと楽しい」
思ってもいない提案に、嬉しくなって何度も頷いた。そうして小指を伸ばす。首を傾げる助右衛門に、棒切れを拾って地面に「約束」と書くと、ああ、と笑った。
「約束だ」
指切りをして、笑いあう。松風が鼻を鳴らした。
しばらくして慶次が小脇に酒瓶を抱えて帰ってきて、助右衛門が立ち上がった。
「そろそろ帰らねば」
「なんだ、つれないのう」
「お前と違って仕事があるんでな」
自分も立ち上がって、慶次に並んで見送る。助右衛門が耳打ちをしてきた。慶次の耳がピクリと動く。
「名前殿、約束は必ず」
「…約束って何だ?」
「じゃあな」
「おい、助右衛門!」
去っていく後姿を見て声を上げる慶次に、話を聞いていたのだろう捨丸がおかしそうに笑った。
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