02
餌やりを岩兵衛に任せて、慶次の隣に座り茶を飲む。のんびりとした午後、来客があった。
「失礼するぞ」
「おお、助右衛門か!」
庭に入ってきたその人物を見て、思わず咽そうになった。
そうだ、ここは慶次がいる世界なのだ。彼らが居たっておかしくない。こうして訪ねてきたっておかしくない。そうは思っても、実際に会うのは頭がくらくらするような思いだった。捨丸や岩兵衛にはもう慣れて、麻痺してしまった感覚である。
「京に用事があってな。ところで、こちらは?」
「うむ、拾った」
「馬鹿を言うな」
「こいつは奥村助右衛門。おれの友だ」
慌てて立ち上がり頭を下げる。
「こいつは名前。おれが拾った」
「よろしく、名前殿。…本当に拾われたのか?」
小さく頷くと、訝しげな顔をされた。ろくな挨拶もせず失礼な女子と見られたかもしれない。
慶次は助右衛門の肩に手を置き、口を開く。
「名前は声が出ないんだ。ゆっくり説明する。まあ座れ、な」
驚いたように目を見開いた彼だったが、すまない、と言われてこちらが申し訳ない気持ちになる。
美形は困る、と心底思った。
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