02




何か冷たいものが額に乗せられた感じがして、心地よい冷たさに熱でもあったのだろうかとぼんやり考える。
二度目の目覚めは至極穏やかに訪れた。
薄く目を開ける。木目の天井が目に入る。そしてひょっこりと視界に入ってきた男は、嬉しそうに笑った。

「おお、起きたか!」

見たことあるぞ、この人。いやしかしありえない。ありえないことの連続でとうとう頭がおかしくなったのかと、重い腕を上げて目を擦った。
そうして腕に巻かれた包帯に気が付く。うっすらと血の滲むそれを見て、どこかに消えていた痛みがぶり返してきて、顔が歪んだ。

「一応医者を呼んで手当てはした。しばらくは大人しく寝ていた方がよいぞ」

寝かされている布団の横にどっかりと腰を下ろしたその男、正しければ前田慶次は、ふんふんと顔を覗きこんできた。
近くで見ても、間違いなく天下無双の傾奇者その人である。

「しかし驚いたな、松風がやたらと騒ぐと思うて走らせてみたら、お前さんが倒れとる。いくさから逃げてきたのか?」

まあ無理に話さなくてもよいがな。と彼は言い、優しく笑う。

「おれは前田慶次。お前さんの名を聞いてもよいか」

わたしは、と答えようとして口を開く。
そうして目を見開いた。

声が、出ない。





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