Tears are bundles of love. | ナノ

02





「今日からよろしくね!ジェイド君……じゃなかった、大佐殿!」


マルクト帝国の首都、グランコクマの軍基地本部にて軍の制服に身を包んだガウナが、直々の上司となったジェイド・カーティスに敬礼する。
初めて会った頃とは比べ、ガウナの身なりがだいぶ変わり、見違えるように整っていた。

ボサボサに絡み合った髪の毛は、ベリーショートの長さにまで切り分けられ、根本から毛先まで滑らかさに仕上がっていた。
療養期間で削ぎ落とされた筋肉も本来の形を取り戻し、健康的な肉体美が軍服を着ていてもわかる、スレンダーな体型が様になっている。


「ええ、よろしくお願いします」


ジェイドもそれに短く答える。


「では早速ですが、明日からのスケジュールについて説明します。まず……」


そう言ってジェイドが説明する内容に、ガウナは真剣な表情で耳を傾ける。
こうして、ガウナは軍人としての新たなセカンドライフを送ることになった。



「一通り、説明しましたが、他に何か聞きたいことはありますか?」

「そうね……なんで私って、ジェイド君の隊に配属されたんだっけ?」

「ここでは"大佐"と呼んでくださいね、一応。確かに貴女の前の経歴を鑑みると、情報部に配属させた方が天職だと私も良案だと判断したのですが……実技試験での印象が強かったので、周りが情報部に留まらせておくのは勿体無いと決断に至ったんですよ」

「ああ……」


思い起こされる、一ヶ月前の入隊試験。
実技という名の一対一の模擬戦でのことだった。


初回の相手は、かの有名な軍人一家の次男坊である男だったのだが……彼はあろうことか、他の受験者の女性に対して暴力を振るったのだ。
殴る蹴るだけでなく、暴行まで加えようとしていた。

その時たまたま通りかかったガウナは、それを見て見ぬ振りをすることができなかった。そして、つい手が出てしまい、病院送りにしてしまった。
次男坊の取り巻き兼対戦相手のほとんどを。


−−いやー、我ながら若かったなぁ……。


その行いでまさかとは思うが。


「そのまさかですよ」

「えっ!?」

「顔にわかりやすく書いてありましたから」

「うそぉん……」


こいつエスパーかな?エスパーなのかな?
そんなことを思っていると、ジェイドが急に立ち止まった。どうしたのかと思って彼の傍から盗み見ると、一つの両扉が二人の前に聳え立つ。


「着きましたよ、ここが本日の目的地です」


真新しそうなミルベージュのスリットデザインの扉を同時に開けると、見かけによらず、立て付けの悪そうな音を出す。
味のある両扉をくぐると、数台の書棚、部屋の角には積み重なって崩れた本や書類の山ができていた。


アンティーク調のシステムデスクが二つ、L字型に配置され、恐らくこの部屋の主人が使うであろう重厚なデザインのシステムデスクの前には、来客用のポップで存在感のあるソファとローテブル。対面にあるアンティークチェアも、この部屋の色合いとマッチしている。


「こんな素敵なお部屋が、私の仕事場で良いの!?ジェイド君!」

「大佐、と呼んでください。貴女には索敵や内偵の仕事を重点的に任せることになりますからね。演習場やら寮に入り浸れると、用がある時にわざわざ呼びに行くのが手間なので」

「そういうこと……ま、了解しました、大佐殿。それで?寝泊まりもここ?」

「そこまで冷遇するつもりはありませんよ~。いつでも呼び出せるように、特別待遇の一人部屋を用意してますから」


ジェイドは満足げに微笑みながら、部屋の隅にある本の山をどかし、床のタイルを剥がした。
すると、地下に繋がってそうな穴が現れる。
……ここが通勤経路ってことなのか。


「何かあった時は、こちらから行き来して頂ければすぐに対応できますよ」

「そんな機密保持レベルの抜け道、私に教えていいわけ?」

「複数の上層部の人間にはバレてますからね。大して機密保持になっていませんよ。陛下が勝手に作った通路ですし」


お手上げと両手を上げながら解説するジェイドに、ガウナは苦笑して、抜け穴に入って行く。
洞窟のような入り口が待ち構えており、奥へと続く地下道。

冒険者のような心持ちで薄暗い道の先を進んでいくと、道を抜けた先に出てきたのは……



「豚箱?」

「陛下が作った抜け道なので、必然と陛下の私室に辿り着く設計になっているんですよ」

「この国の皇帝って人間よね?」

「ガウナはおかしなことを聞きますね~。と言いたいところですが、初見でこの状況を把握するのは、私でも理解し難い」

「この国、大丈夫なの?」

「ええ。私室が"こんな"でも、威厳と政治的手腕は持ってますからね。あの人」

「誰が、こんなだ。可愛くない方のジェイド!」


二人が他愛ないやり取りをしていると、皇帝の私室のドアが開かれ、貴族的なテノールの声質が降りかかってくる。

声の主が豚箱にいるジェイドとガウナの近くまで歩いてくると、肩までとどく金髪、青い瞳に浅黒い肌。
左サイドには、瞳と同等と思われるトルコ石ののうな髪飾りをつけている二十代後半から三十代前半の男だということが判別できた。


「あんたか……数ヶ月も俺のジェイドをこき使ってくれたのは」

「あらぁ……大佐殿、もしかして私、御二方の逢瀬の邪魔をしてたのかしら?」

「そんなわけないでしょう。陛下も誤解を招くような言い回しはおやめください」

「おまえがいなくて退屈だったのは本当だがな。……改めて、挨拶をさせてもらおう。ピオニー・ウパラ・マルクトだ」

「お会いできて光栄です、陛下。ガウナ・ヴァレンタインと申します」

「ああ、作法は気にしなくていい。公の場じゃないからな」


朗らかに笑うピオニーの言葉に甘え、佇まいをガウナは緩めた。

そういえば、ピオニーは皇帝なのだからもっと偉そうな態度でもいいはずなのに、そういうところはあまり威厳がない。
ガウナとしては、威厳があるよりはずっと親しみやすさを感じられる方が随分とマシに思えた。


「陛下、このタイミングでわざわざ顔を出したということは、何か話でも?」

「まあな……お前の新しい部下に興味を持ったのもあるが、この子……ガウナと二人きりで話したい事があるんだが、しばらく借りてもいいか?」


ジェイドの目を見て話すピオニーの考えを読み取ると、即決してジェイドは二人から離れた。
去り際、これから起こることを今一つ理解してないガウナへ同情的な光を赤錆色の瞳に浮かべた。


「ガウナ、貴女の住まいを紹介できなくてすみません。ですが、この埋め合わせは必ずさせてください」


心からの謝意が伝わってくる口振りに、嫌な心象は受けないが、ガウナはなんだか落ち着かなかった。


「お気遣い、ありがとう。大佐殿」


ジェイドがピオニーの私室から出て行くと、残されたガウナの背中にしれっとピオニーの手が回される。
ぎりぎりセクハラに思わない程度の接触にガウナはピオニーの顔を見つめた。


「ここではなんだ、俺があんたの部屋に案内するとしよう」


頷くだけの返事をしたガウナに、どこか困惑混じりの嘘くさい笑みを返して、ピオニーは彼女の貸し室へと歩き始めた。





× × × ×




ピオニーの私室を出、目の前の階段を上がって謁見の間の、左隣の大部屋にガウナは通される。
国主ということもあり、ピオニーの部屋もかなりのグレードの高さを誇ったが、ガウナが間借りするこの大部屋も目を見張るほどのクラシックでノーブルな客室だった。

海都だからか、この街の建物の外壁や内装は全て、心地よい潮風を感じるインテリアコーディネートになっている。
光と風が通り抜ける出窓は、高さが天井にまで達し、家具が持つ木の質感や透明感のあるガラスの透け感、そこに爽やかなブルーが加わって、都会にいながらリゾートのような暮らしが満喫できそうだ。


「ちょっ、タイムタイム!私は寄宿舎で生活するんじゃなかったの!?」

「そんなこと、誰も言ってないし、ジェイドに言われなかったのか?」


−−あンの、クソ眼鏡。


殺意の波動を入手しそうになるガウナに、ピオニーは淡々と彼女に求めているルーティンを語り出す。


「ま、そのうち慣れるから心配すんなって。それにあんたがこれから優先しなきゃならんことは、他にある」

「なにを……ですか?」


ぽかんと口をあけていたガウナに、ピオニーがじりじりとすぐそこまで迫っていた。
本能的に身の危険を感じて、ガウナは後退する。
ピオニーはガウナの手首を掴み、引っ張って行くと壁に彼女を押しつける。


「生娘じゃあるまいし、これから何を要求されるかぐらいはわかってると思ってはいたんだが……」

「っ……そういうこと……」


耳元でピオニーの声がし、彼の甘くかすれた声に腰がゾクゾクする。
情事にふけるのが、一年ぶりだからだろうか。


「つまりは、ジェイド君に娼婦として貴方に売られたって事、ですか?」

「せめて愛妾って言ってくれないか?俺はあんたをそこまで見下げちゃいない。……この歳になるとな、周りの年寄り共がうるさくてなぁ。どうせ、噂になるなら、あんたが良いと思っただけだ」


濡れ事にも慣れてそうだし、とまるで悪魔のようなことを言い、目の前でピオニーがニイと笑う。
長身を丸めるようにして壁と自分の間にガウナを閉じ込め、ピオニーの手がガウナのミニタリースカートの上からお尻を揉んだ。
疼く感触にガウナは息を飲んで堪えていたが、ピオニーの淫らな指の動きに、ガウナが喘ぎ声を上げそうになる。


「あんたは知らないと思うが、俺達は今日が初対面じゃない」

耳元で囁かれた言葉の意味がわからず、ガウナは眉を寄せた。


「え……?」

「なんでか、初めて会った時からあんたが気になって、しょうがなかった……」

「やめてください!」


ピオニーの言葉を振り払うように、ガウナは首を振った。しかしピオニーは構わずガウナの首筋に舌を這わせてくる。

「あ……んっ……」


全身を襲う甘い痺れに抗うことができず、ガウナは思わず声を上げた。


「眠ってた時とは違って、可愛い声で鳴くじゃないか」

「やめて! 私は貴方の配下でしょうが!!」

「だからだろう?俺はあんたの上司だ。それも、この国で誰よりもあんたが優先にしなきゃいけない対象だろ」

「そんなの屁理屈……あっ!」


首筋を強く吸われ、ガウナは身体を大きく震わせると、ピオニーが民族衣装の上半身部分を脱いで荒々しく放り投げた。
臀部を這い回っていたピオニーの指が、ガウナのワンピースをたくし上げる。


「天下の皇帝が、一般兵に性的暴行ですか!?」

「嫌なら抵抗すればいいだろ?入隊試験で同じ受験者を再起不能にしたお前さんのことだ。あれほどの力があれば俺の指をブチ折るのだって簡単だろうに」


ピオニーの言葉にガウナは唇を噛む。
確かに自分は非力ではない。
だがここで本気で暴れたら、間違いなくピオニーを傷つけてしまうだろう。

しかし、このまま行為に及べば、元いた世界に産み落としてきた子供を裏切っているようでならない。
不本意とはいえ、手放してしまった我が子。
その子の存在を無視して、母親が平気で色んな男を受け入れる売女で良いわけがない。

自分の体にがっしりと纏わりついたピオニーを振り解こうと足掻くが、彼の唇がガウナのそれに力強く重なり、抵抗する事ができなかった。


「…………ン、……あ、……ン……」


ヂュッ……ヂュゥウ!

唇を強く吸われてとっさに口を閉じようとしたが、上唇、下唇を舐められては吸われ、頭の奥がとろけていきそうだ。
ガウナはピオニーの腕を力なく掴む事しかできず、彼にされるがままに唇を貪られていた。

キスをされながらガウナは切なく腰を揺らし、彼女の脚の間にピオニーの膝が入る。
彼の太腿がガウナのあらわになった臀部を擦り、太腿の付け根辺りにズボン越しの強張りを押しつけられた。


「ぁ……っ、あ……、ダメ……だってばぁ……っ」


ゴリッゴリッと腰にピオニーの硬いモノを押しつけられ、彼の興奮を嫌でも知る。
拒否しなければいけないのに、一年ぶりのご褒美を差し出された身体の疼きは抑えが効かず、性欲の証を擦りつけられても嫌だと思わない自分に、ガウナは恥ずかしくなった。

−−むしろ彼の興奮に当てられて、ガウナも秘部に蜜を滴らせていた。
けれど脳裏には産んだばかりの我が子の顔がある。子供を裏切りピオニーを受け入れれば、再会出来るかもしれない子供に軽蔑され、一生消えない後悔が残るかもしれない。


「皇帝なら、こういう事してくれる相手、いっぱい……いるでしょ。どうして、私じゃなきゃいけないの……」

「俺の親父は、女癖が悪くてね。腹違いの兄弟が山ほどいた。俺以外全員死んだけどな。例え火遊びでも、その相手は慎重に選ばなきゃいけないだろ?」


一方的に人を手篭めにしておいて、一国の君主として賢明な判断を下したという結果が、これか。
ガウナは胸の奥が痛くなるような思いでピオニーを見つめた。


「それにしても意外だったな……。下着を一切着けていないとは。ジェイドの計らいか?」


ピオニーの手はガウナのスカートの中に潜り込み、指がしっとりと濡れた割れ目に触れる。


「ジェイド君に指示されなくたって、元から下着は着けない趣味なのよ」

「それはありがたい」

「んん……っ!いや……っ」

「『いや』って言ってる反応じゃないんだがなぁ」


言葉で辱めながらも、ピオニーはくちっくちっとガウナの秘部を指先で這い回して遊び、時折思い出したように揉む。


「まだ、ジェイドのはここに受け入れてないよな?」


とっくにぬるついている秘唇を指の腹が何度も往復し、静まりかえった貸し室に粘ついた音が響く。


「じぇ……ジェイド君と……っ!こんな……するわけ……ないっ、−−ぁ!」


反論している途中でピオニーの指がぬぷっと入り込み、ガウナは両手を彼の胸に、顔を彼の肩に埋めて体を震わせた。
そしてゆっくりと顔を上げるとピオニーは彼女の顎を掴んだ。


「やっぱり無理矢理にでも俺のものになってもらうしかないな。あんたには」

「諦めてよ」

「安心しろ。優しくするから」


優しいキスとは程遠い乱暴な口付けに、ガウナは必死に抵抗する。
しかし圧倒的な力で押さえ込まれ、再び壁に押しつけられた。


「いやって言ってるでしょ!?あんたに選択権があるように、私にも拒否権があるのよ!!」

「諦めの悪い女だな……だからこそ、気に入ってる」

「いやあああっ!」


耳元で不本意な論難を囁かれ、ガウナは懸命に首を横に振りながら、何かを言い返そうとするのに、愉悦で頭の中がぼんやりとして言葉が出ない。
膣内をピオニーの太い指が掻き回す感覚を、ガウナは貪欲に味わう。


「……あ……ああ……」


あまりの気持ち良さに力が抜け、抵抗できなくなってしまう。
そんなガウナを見て、ピオニーは満足げに笑みを浮かべた。


「どうだ? 俺の手はなかなか"イイ"だろ?」

「……」

「このままだと最後まで行くが、それでも構わないか?」

「……」

「黙っているということは、同意したとみなすぞ?」

「……もう、好きにすれば」


精一杯の強がりだったが、ピオニーはその言葉を素直に受け取ったらしい。
嬉々として裸になっていない自分の下半身の衣とガウナのワンピースを鎖骨まで捲り上げる。


「さて、どこから攻めようかね?」

「やめてください! そこは駄目です!」


ガウナの言葉を無視して、ピオニーは亀頭を秘唇に押し当ててくる。


「力、抜けよ?」

「ん……」


息を震わせてピオニーの侵入を待っていると、小さな蜜孔を押し広げて彼の亀頭がぐぷりとねじ込まれた。


「ァ……っ、ア!」


初めてではないはずの男の肉棒に、違和感を味わいながらもずぷずぷと埋まってくるピオニーの淫刀の全貌を感じ、ガウナはうつろな目で室内の壁を見つめた。
元いた世界では、それなりの人数と肉体関係を結んできたが、ピオニーのは今までで一番太い気がする。

自分の蜜口が目一杯拡がり、ピオニーの肉棒を咥え込んでいるさまを想像し、ガウナは全身を火照らせて彼を締め付けた。


「ガウナ……っ、締め付けすぎだ……っ!」


「いけない」と分かっていながらも、ピオニーの切ない声が聞こえ、それを「愛しい」と思ってしまう。


−−気持ちいい。
−−でも、あの子を裏切れない……!
−−ダメなお母さんでごめんね……。


快楽でねとついた思考のなか、ガウナは必死にピオニーに抗っていた。
しかし抵抗できるのは頭の中だけで、体はもうすでに彼の手管に陥落している。

野太いモノが蜜壁を擦るたび、悲鳴を上げたくなるほどの心地よさがガウナを襲った。


「ああぁあうっ、あぁっ、や、ダメぇっ」

「ここまでっ、相性が良いとはなっ……!」


体を痙攣させ、何度も達しているガウナはピオニーの体に、絡みつくように抱きついている。
ピオニーが歯を食いしばって呻き、やがて彼はガツガツと激しく腰を叩きつけてきた。
ぐちゃぐちゃにちゃにちゃと凄まじい音が続き、脳天まで貫かんばかりの激しいピストンに口から悲鳴が衝いて出た。


「あぅっ、あ、あーっ、ダメ、ダメ、あうぅっ」


いやいやと首を振り全身で快楽を示した直後、とぷりとすべてが限界を超えた。


「っっあァああぁっ、−−−っ!っ……ぁ、あ……っ」


子宮がわななき、溢路が男を締め付ける。
奥をふわんと広げてた女の本能は、何度も収斂して男の精を誘う。


「ガウナ……っ、ガウナ!」


最後に叩きつけるかのように腰を送り、ピオニーが胴震いした。
彼の分身が体内で脈打っているあいだ、ガウナは力強い腕で抱きしめられる。
何が起きたのか理解できないまま、ガウナは呆然と天井を見上げていた。


ぼんやりとした視界の中にいるピオニーの姿が、段々と輪郭をはっきりとさせてくる。
そこでようやく自分が彼に犯されたのだという事実に気がついた。


ガウナの中で何かが崩れ落ちる音がする。もうこれ以上、自分を支えているものは残っていなかった。
心が完全に折れてしまったガウナの様子を悟ったのか、ピオニーはゆっくりと身を起こした。
荒く呼吸をしながら、ガウナはただひたすら涙を流す。
その姿を見て、ピオニーは困ったように頭を掻いた。
やがて彼はガウナの上から離れると、乱れた服を整え始めた。


無言のまま床に座り込んでいるガウナには一顧だにもせず、そのまま部屋から出て行く。
一人残された彼女はそのまましばらく放心状態に陥っていたが、不意に湧き上がってきた感情に突き動かされるように、自分の下腹部に右手を当てた。

そこにあるはずのものが無い。
先ほどまで確かにそこにあったものが。
それを認識した瞬間、ガウナの目から再び熱い雫が流れ落ちた。


「うわああああっ!!」


声を上げて泣き崩れる。
どうしてこんなことになったのだろう? 自分は一体何を間違えたというのだろう? 答えのない問いを頭に浮かべながら、彼女はいつまでも泣いていた。



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