04



フキ達が魔晄炉内に潜入してから、しばらく時間が経つ。
爆弾の設置には成功したが、フキ達は、相変わらず魔晄炉の中を走り続けていた。


ジェシーが先頭になり、その後ろにクラウドが続く。
さらにその後ろから、フキ、バレットがついてくる。四人は、まるでひとつの生き物のように息を合わせて走り続ける。
だが、いくら足を動かしても、一向に出口に辿りつく気配はなかった。

ジェシーが後ろを振り向くと、フキもバレットも同じことを考えていたようだ。
二人とも、疲労困ぱいといった表情を浮かべている。
ここまでの道程が、決して楽なものではなかったからだ。


魔晄炉に侵入した当初は、順調だったのだ。
通路は複雑に入り組んでいたものの、迷うことはなかった。

魔晄炉内はかなりの広さがあり、迷路のような構造になっていたが、ジェシーの案内があったおかげで道を見失うこともなかった。
しかし、途中で予想外なことが起こり始めた。


何の前触れもなく、炉心で爆弾の設置をしていると、大型警備兵器のガードスコーピオンが出現したのだ。

幸いにも、フキ、クラウド、バレットの三人で撃退し、難を逃れることができたのだが……火の手が上がっている魔晄炉から、余儀なく制限時間内に脱出を迫られた。そして、現在に至るわけだ。


フキ達の体力は限界に達していた。それでも、なんとか気力だけで走っているような状態だ。
体力に余裕がありそうなクラウドは、彼らを少し休ませてやりたいと思ったが、時間がない。今さら引き返すことはできない。

それに、この先にあるコントロールルームに行けば、脱出用のリフトがあるはずだ。そこまで行ければ……。
クラウドは、再び前を向いて走ることに集中した。











『緊急事態発生、緊急事態発生。こちらは神羅カンパニー危機対策本部です。壱番魔晄炉が何者かの攻撃を受け、爆破されました。現在も断続的な爆発があり、火災が発生しています』


街中に、緊急放送を知らせるアナウンスが流れる。
それを耳にして、ジェシーは思わず足を止めた。


「予想……以上」


ジェシーが、か細い声を漏らす。これほど早く事態が悪化するとは思っていなかった。
よほど爆弾の製造技術に腕があったようだが、その考えは甘かったようだ。
魔晄炉だけが綺麗に爆発するだろうと思う反面、不安もあった。


もしも、沢山の人が犠牲になってたらどうしよう? 自分のせいだ。自分が火薬の量を間違えたからだ。


「こりゃ、いくらなんでも」

「やりすぎッスね」


ビッグスとウェッジも立ち止まる。ジェシーは唇を噛み締める。


「今さらなにを」


その時、背後からクラウドの声が聞こえてきた。
振り返ると、クラウドの姿が見える。


おまえ達は、いまさら何を言ってるのだ。
そう言いたいのだろうか。

ジェシーは申し訳ない気持ちになる。
クラウドは、こんな状況でも冷静さを失わない。

そんな彼を見ていると、フキは自分もしっかりしなければ、と思える。
バレットも、クラウドの意見に聴従して口を切る。


「ああ、そのとおり。オレたちはこの先も、もっともっと魔晄炉をぶっ壊す。星の命を救うためにな」


バレットの言葉を聞いて、迷いが生じていた三人に、彼の決意が伝染していく。
そうだ。自分たちには、まだやるべきことがある。
バレットが、皆に向かって言う。


「ハッ!上等だ!!ぜーんぶ俺が背負ってやる。不安、疑問、悩み事……それから、報酬も」


自分のせいで、たくさんの人を傷つけてしまったかもしれない。
だけど、それでも自分は、星の未来を救いたいと願っている。

その思いが伝わったのか、ジェシー、ビッグス、ウェッジは力強く頷いた。
やっていることは無茶苦茶だが、バレットは、いつだって真っ直ぐだ。フキは思う。


(星の命運。ずいぶんと大げさなものを背負い込んじまった……)


しかし、なぜだか、バレット達と一緒にいると、不思議と勇気が出てくる。


彼らは、命を懸けて戦う覚悟を持っている。
それに比べて自分はどうか。ただ、流されるまま生きているだけだったのではないか。
フキは歩き始める。


だって、俺はもう決めているじゃないか。守りたいものは守る。
それだけで十分だ。
それに、あいつらもきっと、同じ気持ちに違いない。だから、大丈夫だ。

俺は間違っていない。迷うことなんかないんだ。
俺は自分の道を行く。
そして、俺は──。


バレット達に追いつき、横に並ぶと、フキは思った。

こいつらとなら、どこまでも行ける気がする。
それがたとえ、どんな結末を迎えようとも……。



最終列車に乗り込むため、八番街駅を目指す。
バレットが先頭になり、ビッグスが続き、ジェシー、クラウド、フキと続く。五人は息を合わせ、走り続ける。

途中、クラウドと並走しながら駅に向かっていると、壊れた建物の瓦礫や陸橋が倒壊し、二人の行手を阻んだ。


「なんだ?」


クラウドは、思わず足を止める。
火の手が回っているビルの中から、何かを感じたのか、そこだけを一点に見つめている。フキはその視線を追う。
逃げ遅れた人の気配があったわけではない。人影らしきものも見えない。


「クラウド?あそこに何かあるのか?」


クラウドは、フキの問いに答えずに、なんでもないと首を振る。


「ガウナ、離れろ!!」


クラウドが叫ぶと同時に、フキは反射的にクラウドから離れ、後ろに飛び退く。
次の瞬間、クラウドの剣が空を切る。間髪入れずに、クラウドはバスターソードを振り下ろした。


フキはクラウドのその行動を見て驚いた。

まるでそこに敵がいるかのように。
クラウドは剣を振ったが、そこにはやはり何の姿もない。


「なぜだ……、まさか、どうして」


クラウドの行動が理解できずにいると、クラウドは再び走り出した。
フキは首を傾げるが、クラウドの後を追いかけた。


クラウドは、なぜあの場所を見つめていたのだろう。それは、クラウドにしかわからない。


「待て……!」

「クラウド?どうした?」


クラウドの歩みが駅とは違う方向へ続いていく。
火事で煤けた路地裏に入ると、どんどん人気のない方へと進んでいくではないか。
クラウドは、急に立ち止まり、また見えない何かに話しかける。


「ありえない。あんたは……死んだ」


クラウドは、いったい何を言っているのだろう?
フキには、まったく意味がわからなかった。


「なあ、クラウド。お前、一体誰と話してるんだ?」


クラウドの背中越しに、問いかける。
クラウドの表情からは、恐怖で蒼ざめているように感じられた。
フキは、クラウドの両肩を掴んだ。


「クラウド、とりあえず落ち着こう。さっきから何が見えてる……」

「ふざけるな!」


クラウドの声に、フキは言葉を遮られる。
振り向きざまにバスターソードを横に薙ぎ払った。その刹那、クラウドは目を大きく見開く。

フキは思わず身を引いた。
クラウドの振るったバスターソードは、何もない空間を切り裂く。
クラウドの動きにつられ、フキもそちらを見る。けれど、やはり誰もいない。
クラウドが何を見ているかなんて、わかるはずがない。


「あんたは、村を……!母さんを、ティファを!!」


その言葉だけで、クラウドにしか見えない何かの正体をフキは理解する。
ここでようやく、クラウドの言葉の意味がわかった。


クラウドが見ていたもの。それは、おそらく……。


フキは、クラウドに駆け寄る。
クラウドは、まだそこに誰かがいると思っているのか、バスターソードを構えたままだ。

フキは、ただ、クラウドの身体を抱きしめていた。
すると、クラウドの腕が伸びてきてフキの胸を押し返すなり、ゆっくりと立ち上がる。


「幻覚か……。魔晄に近づきすぎたな」

「もう、大丈夫なんだな?」


フキは、クラウドの顔を覗き込む。その顔色は、いつもより青白く見えた。

クラウドは大きく息をつくと、剣を背中に担ぐ。
クラウドは、自分に言い聞かせるように言った。


「もう心配はない」


さっきまでの光景は、きっと夢だったのだ。そうに違いない。
そして、クラウドは何事もなかったかのように、駅に向かって歩き出す。


クラウドは、何かを隠している。
でも、それを無理矢理聞き出そうとするのはやめておこう、と思った。

フキもクラウドの横に並び、無言で歩いていると一通り、住民の救助や避難が完了したのか、犯人探しの警備兵が大量に導入されていた。
どこか抜け道はないかと、LOVELESS通りに迂回したのだが、そこで二人は足を止めた。


劇場の前で何やら不審な動きをしている女がいる。
先程のクラウドと同じなのか、見えない何かに襲われているようにも見える。

その女の手には、ミッドガルでは珍しい、色とりどりの花を納めたバスケット。
二人の存在に気付いたようで、その女はこちらに振り返った。その顔を見て、フキは驚いた。


(どうして、彼女がここに……)


その女は、フキがよく知っている人物だった。
彼女の名前は、エアリス・ゲインズブール。


以前、フキが神羅にいた時、一番交流を深めた女性で彼の初恋相手、だった。
そして、ザックスのガールフレンドでもある。

なぜこんなところにいるのかという疑問よりも先に、頭痛に襲われているクラウドを放り出して、フキはその場から逃げ出した。
クラウドが何か言っていたが、そんなことはどうだっていい。
フキは、とにかく走った。


クラウドには、後で謝ればいい。
今は、この場から一刻も早く離れなければという思いが勝っていた。

彼女は、どうしてあんなことをしていたのか? どうして、プレート上層部にいるのか? なぜ、タークスは彼女を放置しているのか?
わからないことだらけだ。
でも、今は、あの場所にいてはいけないという予感がした。


自分は、彼女に会ってはならない。
あの時の自分は、彼女の最愛の人を助けることができなかった。
その後悔だけが、フキの脳裏をよぎる。


もし、今度会うことがあったならその時こそ、彼女を助けよう。
フキは心に誓ったのだった。









投稿日 2022/04/21
改稿日 2022/10/16




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