03



フキ達は食事を終えると、壱番魔晄炉へと向かった。
魔晄炉は、中央の0番街の基部に零番魔晄炉、その上に神羅ビルが建ち、その周囲を8つの魔晄炉と地上約80mの高さのプレート上に8つの区画の街が円形に取り囲むように作られている。

上の街と行き来できる、螺旋トンネルを往復する鉄道も走っていて、フキ達は、一番北にある壱番魔晄炉にやってきた。
乗った列車が停止し、ここから先は徒歩で作戦行動をするしかない。


壱番魔晄炉前の駅のホームには、既に兵士が巡回していた。この辺りは、まだ兵士も少ない地域のようだ。

侵入者の警戒している二人の兵士を、先陣を切るジェシー達が背後から襲い掛かり、制圧する。


「気をつけろ。奴らの縄張りだ」


バレットの言葉に皆は、気を引き締めた。
彼に続いて、フキは列車を降りようとしたところで、列車の屋根の上に立っているクラウドへ目がいった。
逆光になっていて、シルエットしか見えない。


「クラウド、怪我すんなよ!」


フキの声にクラウドは答えることなく、列車の上から飛び降りて行った。フキも、すぐにその後を追う。


モンスターなどはいないようだったが、壱番魔獣炉の内部への入口である巨大な鋼鉄製の扉の前に、武装した兵士達がいた。
大剣を手にしたクラウドを見て、兵士達が銃を構える。

だが、それよりも早くクラウドの右手に握られた大剣が、兵士の一人を切り倒し、続く二人目も切り倒した。
フキは、自分の愛刀を抜きながら駆け寄って行き、最後の一人に峰打ちを食らわせる。
列車の中で待機していた時もそうだったが、クラウドの戦いを見ていると、5年前とはまるで別人のような強さだった。


(これが……クラウドなのか?)


フキは、クラウドの強さに驚いていた。
そして、同時に彼のことが心配になった。


ザックスのバスターソードを軽々と背負った形が、在りし日のザックスをそのまま体現したかのような姿だからだ。

一般兵士時代の面影を感じ取ることができないくらい、ザックスが帰ってきたような錯覚さえ覚えてしまうほど、クラウドの雰囲気は変わっていた。それは、ザックスが生き返ったかと思う程に……。


いや、生きているはずがない。
あの日、確かにザックスは死んだのだ。
そんなことを考えているうちに、クラウド達は鋼鉄製の大きな扉の前で、解錠作業を行っていた。
フキは、我に返り、慌てて後を追った。


「泣く子の腕さえひねるソルジャーといやあ神羅の番犬。魔晄炉は初めてじゃねえんだろ?俺を魔晄溜まりのブリッジまで案内してくれ」


その様子を見守っていたフキとクラウドのところに、バレットがやってきた。


「教えたくねえってか?神羅に未練タラ~~リじゃねえか。忠犬スタンプかよ!拒否したって意味ねえぞ。元々おまえ抜きで立てた作戦だ!」


バレットの言葉に、スイッチを切り替えたような勢いでクラウドが反応する。


「魔晄炉は建造された時期によって構造が違う。この型式は初めてだがなんとかなるだろう」


クラウドがそう言うと、バレットはなにかと難癖をつけてくるが、それを無視して質問にだけ、クラウドは淡々と答えていった。


「ほい、ロック解除」


軽快な音を立てて、鉄扉が開かれた。フキ達は、そのまま奥へと進んでいく。
中に入ると、そこは広大な空間が広がっていた。


壁際には様々な機械類が設置されていて、そこかしこに警備兵がいる。
そして壁沿い一列にはスイーパーと思われる機械型モンスターが、ズラリと並んでいた。


「誰だ?」


突然、声が響いてフキ達は身構える。
どうやらここにも、警備兵がいたようだ。


「閉めろ!」


一人の警備兵の指示で来た道の扉がロックされ、フキとクラウドの二人は、バレット達と分断された。
だからと言って、こんなところで立ち止まるわけにもいかない。


「観念しろ」

「こっちのセリフだ」


警備兵が、銃で撃ってくる。クラウドは、咄嵯にフキを庇うように前に出る。
しかし、次の瞬間、二人を取り囲んでいた兵士達が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
その光景を見ていたフキは、思わず言葉を失う。


クラウドが一振りで兵士達を斬り払う姿があったからだ。
フキの視線に気付いたのか、クラウドはバスターソードを背中に担ぐようにしてフキの方へ振り向く。
その姿は、フキがよく知っている、親友のザックスそのものに見えた。


「あんたが出る幕はなかったな」


フキは、一瞬でもザックスが戻ってきたのではないかと、期待してしまった。
だが、目の前にいるクラウドは、間違いなくザックスではない。
それはわかっているが、それでもクラウドから目を離せなかった。
フキは呆気に取られながらも、分断されていたバレット達とすぐに合流した。


「パスコードの情報は、分派の同士が手に入れたの。あ、分派はこっちか。活動方針でもめちゃって」


地下行きのエレベーターのロック解除を行いながら、ジェシーが分派……本家のアバランチと袂をわかった経緯を新入りのクラウドとフキに話してくれた。


「ティファの知り合いでしょ?好奇心むきだしで聞くけど、どんな知り合い?」


クラウドは少し驚いたような顔をして、目を伏せた。


ただ、ティファとの間柄を聞かれただけで、そんなに思い悩むことだろうか?
閃いたようにクラウドが、俺たちは……と、告げようとしたところで、ブザーが鳴り、待っていたエレベーターの扉が開く。クラウドは、そのまま口をつぐんでしまった。


やはり、クラウドは何かを隠している。
それがなんなのかはわからないが、おそらくクラウドは、それを話すつもりはないのだろう。
そう思うと、フキは胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。


フキは、クラウドの言動や立ち振る舞いがザックスとよく似ていることに気付いていた。
だからこそ、ザックスが生き返ったのではないかという錯覚を覚えてしまったのだ。


ザックスは、死んだ。
それは、揺るぎない事実だ。
だが、ザックスは、クラウドの中で生きているのではないかとも思う。

なぜなら、クラウドは、ザックスが生き返ったかのように、ザックスが生きていた時と同じように、クラウドの中で息づいているのだ。
きっと、クラウドは、そのことを知らないのだろう。

ザックスは、クラウドを通して自分の想いを伝えたかったに違いない。
そして、クラウドもまた、それに答えたかったはずだ。

だからこそ、クラウドは、ザックスが背負っていた"全て"に固執していた。
クラウドは今、自分が置かれている状況よりもザックスの未練を優先し、なんでも屋としてバレット達と一緒にいることを大事にしているからだ。


それが、何を意味しているか、フキにはわかるような気がした。
クラウドは、もう既に新しい生活を手に入れていた。そこに入り込むことなどできない。
なおのこと、彼を過去のことに巻き込むわけにはいかないのだ。


だから、フキはクラウドと必要以上に親しくなるのを諦めることにした。諦めたはずだった。
だが、こうしてクラウドを前にすると、抑えつけてきた感情が溢れ出しそうになる。


クラウドをザックスの代わりにしてはいけない。
そう思っていても、ザックスと過ごしたあの頃ような日々をもう一度だけでも……。

矛盾する気持ちがぶつかり合い、心が揺れ動く。
取り戻せない過去への未練を振り切るように、フキはバレットとジェシーの後を追った。








投稿日 2022/04/18
改稿日 2022/10/15




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -