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パレード会場の隅では、クラウド達が集めた神羅の兵士達が隊列をなして、待機していた。
その先頭にはクラウドとフキの姿があり、二人の後方にエアリスとティファが控えていた。


五部隊分もの人数が集まったため、フキはその様子に圧倒されて、言葉を失っていた。そんな中、クラウドは普段通りの表情で隊員達に檄を飛ばした。


「これから……俺たちは、世界中が注目するなか、行進することになる」

「隊長、堅すぎ」


フキはクラウドの言葉にそう突っ込みを入れると、意に違わずクラウドにジロリと睨みつけられる。


「そして…………」

「我々の肩には、ミッドガル市民のきたいが期待が、かかっている!」


エアリスがクラウドの言葉に被せるようにしてそう言うと、隊員一人一人の顔を見渡しながら言葉を紡いでゆく。


「失敗は許されないだろう。しかし、恐れることは……ない!」


それはまるで演説のようにも見えたが、決して押し付けがましいものではなく、隊員達の心に自然と染み渡るような言葉だった。
ティファも彼女の言葉を引き継ぐように、檄を飛ばす。


「隊長が先頭に立ち、みなを引っ張ってくださる。我々は隊長を信じ、ついていけばいいのだ!」

「ですよね、隊長!」

「ああ……」


クラウドは、エアリスの言葉に力強く頷いた。


「最後に、決めて」


ティファの言葉に、クラウドはゴクリと唾を飲んだ。

クラウドが隊員達を見回すと、皆が直立不動で敬礼の姿勢をとっていた。ゆっくりと息を吸い込むと、よく通る声で決起を促す。


「俺たちは……優勝するためにここに来た。もちろん、社長賞もいただく。それ以外に、このパレードのゴールはない!」


その姿は、まさに隊長と呼ぶに相応しいものだった。


「イエッサー!」


隊員達の返事が会場に響き渡ると、クラウドは口元を綻ばせた。


「俺たちは、誰にも負けない!」

「イエッサー!」

「俺たちは最強だ!」

「イエッサー!」


クラウドは隊員達の顔を見回しながら、言葉を紡いでいった。


(このやり取り、いつまで続ける気だ?)


フキはクラウドの普段とは違う様子に、思わず笑いそうになっていた。しかし、そんなフキの心情とは裏腹に、隊員達は皆真剣な面持ちで、クラウドの言葉に耳を傾けていた。


「……っ!」

「隊長、そろそろ会場へ」

「エルジュノンへ行きましょう」

「はい……」


ティファとエアリスがクラウドの腕を掴み、隊員達から離れるように引っ張っていった。


「隊長はこれから、フォーメーションの確認をなさる。第七歩兵連隊、その場で待機!」

「イエッサー!」


ティファがクラウドに視線を向けたのを見て、フキがすかさず指示を出す。それに従って隊員達は綺麗に隊列を組んだまま待機する。



やがて、パレード開始の時刻となり、エルジュノンに集まった人々から歓声が上がると、パレードの開始を告げる花火が打ち上がり始めた。それと同時に、クラウドは第七歩兵連隊に向かって号令を出した。


「左向けー、左!フォーメーションチェンジ!」


クラウドの号令に合わせて、第七歩兵連隊は瞬く間にフォーメーションを変更させた。
先頭に立つフキとエアリス、ティファを囲むようにして三角形に隊列を組み直し、クラウドが先頭に立つ形になった。

隊員達が一糸乱れぬ動きで動く様を見て、実況のアナウンサーは思わず感嘆の声を上げていた。
更に、フキが予め隊員達に指示を伝えてあったこともあり、第七歩兵連隊の敬礼は美しく揃っていた。その瞬間に、会場の盛り上がりが最高潮に達した。


演舞が終ると、パレードに参加している神羅兵達は表彰式のため、エルジュノンのステージ前へと集った。


『はたして、社長賞はどの部隊が手にするのか、注目の表彰式は、このあとすぐです!』


アナウンスが流れると、会場のボルテージは更に上がり、その熱気はまるで小さな竜巻のようだった。


『さて、諸君−−』


ステージに上がったハイデッカーは、会場を見渡しながら用意してきた話を切り出す。


『ルーファウス新社長就任祝賀パレード、ご苦労であった。みなの情熱と忠誠心を目の当たりして、新社長も大変喜ばれている』


ハイデッカーがそう言うと、会場からは大きな歓声が上がった。その歓声に応えるように、ハイデッカーは大きく手を広げた。


『それでは、これより表彰式を執り行う』


ハイデッカーは、会場の盛り上がりを確認して満足そうな表情を浮かべた。
まずは、最優秀パフォーマンス賞から発表となり、ハイウェイバイク警備隊の代表、ローチェがステージに上がると、会場からは盛大な拍手が送られた。


『−−続いて、社長賞を発表する』


会場はシーンと静まりかえり、ハイデッカーが部隊名を読み上げるのを今か今かと待ちわびていた。遂に、その時がやってくる。


最前列に立つフキの横で、クラウドがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきた。
ハイデッカーが後方に控えていた人物に目配せをすると、その人物が一歩前へと進み出た。


(そりゃ、社長賞だもんな……。自分で表彰状を渡すぐらいのことはするか)


フキがそんなことを考えつつクラウドの様子を伺うと、心なしか緊張しているように見えた。
ハイデッカーに促された人物は、ゆっくりと壇上に上がるとすぐに社長賞の受賞者の発表はせず、プレジデント神羅を悼む演説を始めた。


(早く終わんねーかな……)


演説が続く中、フキは欠伸をかみ殺すのに必死だった。


『それでは、社長賞を発表する……』


ようやく社長賞の発表となり、会場のボルテージは最高潮に達した。


『社長賞は−−−−ミッドガル第七歩兵連隊!』


その瞬間、会場からは大きな歓声と拍手が沸き起こった。
クラウドはハッと顔を上げて隊員達の顔を見ると、嬉しそうに微笑んだ。しかし、フキだけは彼と対照的に、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


(飛んだ茶番だな……)


そんなことを考えているうちに、ルーファウスはクラウド達に向かってこう告げた。


『それでは、隊を代表し、そこの4名あがりたまえ』


ルーファウスの言葉に、クラウド達は顔を見合わせた。クラウドはフキを振り返り、女性陣に視線を送ったが、三人とも厳しい表情を浮かべるだけで何も言わなかった。


『どうした?』


なかなか壇上に上がってこないクラウド達に、ルーファウスは愉悦の表情を浮かべていた。フキがすかさず、クラウドに小声で話しかける。


「どうせ、街の監視カメラかタークス伝でバレてたんだろ……。想定の範囲内だ。ここは大人しく、ルーファウスの思惑に乗っかってやろうぜ」

「わかった」


クラウドはそれに小さく頷くと、一歩前に出た。ステージに上がると、ルーファウスの前で敬礼をした。
その後ろには、エアリスとティファが続き、最後にフキがクラウドの隣に立った。


『貴殿たちの力強いパフォーマンスを称え、ミッドガル第七歩兵連隊に、社長賞を授与する。おめでとう』

『ルーファウス社長が、隊員たちに労いの言葉をかけています。対する隊員たちは、万感の思いなのでしょうか−−』


アナウンサーが会場の盛り上がりを伝えると、ルーファウスは手元のマイクスイッチをオフにする。そして、そばにいたハイデッカーに向かって声を掛けた。


「この者たちと直接話をしたい。放送を止めてくれ」

「……ハッ!おい、さっさと動かんか!」


ハイデッカーが声を上げると、テレビの中継は神羅のロゴに切り替わった。


「せっかくの晴れ舞台だ……メットを取ったらどうだ?クラウド・ストライフ」

「なっ……!?」


クラウドが思わず声を上げると、ルーファウスはミッドガル第七歩兵連隊の演舞を賞賛した。


「すばらしいパフォーマンスだった。さすが……慣れたものだ」

「神羅のお家芸である、スピーチには負けるだろ」


フキが挑発的な発言をすると、ルーファウスはフッと笑みを浮かべた。
クラウドはルーファウスの言葉に驚きつつも、一呼吸置いてから被っていたヘルメットを外した。他の三人もそれに倣う。

その下から現れた素顔を見て、ハイデッカーから驚きの声があがった。しかし、ルーファウスはその事には触れずに、クラウドを真っ直ぐに見据えてこう切り出した。


「クラウド・ストライフ。少々、調べさせてもらった。なかなか興味深い経歴だ。気に入ったよ」


(クソっ!まだ、神羅にクラウドの個人データが残ってたのかよ!!)


フキは内心悪態をつくが、それを表情に出さないよう努めた。そんなフキの心情など知る由もなく、ルーファウスはクラウドに語りかける。


「そこでだ。私と取引をしないか?私は、ミッドガルの復興に集中しなければならない。市民の生活が元に戻らなければ、神羅は、大いに信頼を失うことだろう」


クラウドは、ルーファウスの言葉に眉をひそめているにも関わらず、彼は構わず続ける。


「その事業に集中するために、面倒な雑事を切り離したいと考えている」

「どういうことだ?」

「オヤジの代から引き継いだ、負の遺産。本社ビルから奪われた古代種の奪回。奪われた研究素材の回収。そして−−アバランチの逮捕と処罰」


ルーファウスがそう言うと、ティファは一瞬驚いた表情を見せた。


「それらすべて、私にとっては雑事だ。できることなら解放されたい」

「雑事だっつーんなら、判断すんのが遅いんじゃねーの?」

「そう思われても仕方がないな。……だが、約束の地を目指すのが子供の頃からの夢でね」

今度はフキに視線を移し、そう答えた。


「叶いそうにない、いい夢だな」


フキが嫌味っぽく言うと、ルーファウスは僅かに頬を引き攣らせ、彼を睨みつけた。だが、すぐに表情を戻し話しを続ける。


「ずいぶんと、ラザードを慕っていたようだな。情でも通じていたのか?」

「あんたの親父よりかは、あの人の方が万倍も紳士的だろうよ」


ティファは、ハラハラしながら二人のやり取りを聞いていた。


「そ、それよりも!私たちを追わない……そう言ってるの?」

「ああ。もっとも、市民感情までは操作できない。しばらく、ミッドガルには近づくな」


その言葉に、エアリスは思わず安堵の表情を浮かべて口を開いた。


「わたしも、もういらない?」

「…………神羅は、変わる」


そこで言葉を止め、クラウドが彼の言葉を継いだ。


「取引だと言ったな。条件は?」

「セフィロスをまかせる」

「……!」


クラウドが目を見開くと、エアリスも驚きの表情を浮かべた。そんなクラウド達を一瞥すると、ルーファウスは話を続ける。


「古き神羅が生み出したモンスター、過去の遺物。処分したいところだが、社内の調整が面倒だ……受けてもらえるかな?」


クラウドが暫し答えに迷っていると、黙ったまま話を聞いていたフキに、彼は鋭い視線を送った。その視線を感じつつ、フキはルーファウスを見据える。


「おまえとしても、悪い話ではないだろう?過去を乗り越えるチャンスだ。そうは思わないか?ガウナ・ヴァレンタイン−−−−いや、フキ・ファン・ファブレ……だったな」

「……」


フキにそう問いかけるが、それに答えられず、ルーファウスを睨みつけるだけだ。フキの反応を愉しむように眺めつつ、ルーファウスは更に続けた。


「そちらに居場所がなければ、用意してやってもいい。宝条博士は、そこの古代種だけでなく、おまえのことも所望している」

「はあっ!?何言ってやがんだ!?」

「知りたければ、宝条博士に直接尋ねるんだな」

「ルーファウス。セフィロスのことは、俺たちが引き受けよう」


クラウドが二人の話に割って入ると、ルーファウスは彼に向き直り、訝しげに見つめた。


「手掛かりはあるのか?」

「黒マントの連中を追う」

「……いい線だ」


ルーファウスは不敵な笑みをこぼし、クラウドの顔を熟視する。


「あの人たちは、なんなの?」


ティファがルーファウスにそう問いかけると、彼女に視線を移して答える。


「あれはセフィロスの……言ってみれば分身。追えば、セフィロス本人に辿りつく。宝条博士の仮説だ」

「仮説、ね……」


仮説……その言葉に、フキはどこか引っ掛かりを覚えた。
黒マント達の行動を思い返すと、そうは思えなかった。推測でとどまるには、あまりにも確信めいた動きだった。


「博士の仮説が気に食わないか?」

「当たり前だっつーの!仮説じゃなくて、すでに結果として出てることをもったいぶって、仮説だなんだとほざいてるだけかもしんねーだろ?」


フキの反論に、今度はルーファウスが眉をひそめる番になった。


「意外と地頭はいいんだな……。母親譲りか?」

「知らねーよ」

「……だろうな」


フキの返答にルーファウスが一言返すと、彼は冷たく睨みつける。


「まあ、いい。どうせ、嫌でも真実に辿り着くことになる−−取引は成立だな」

「約束、だよ?会社中に伝える?宝条博士にも、タークスにも」

「ああ、もちろんだ」


エアリスの提案にルーファウスは頷くと、クラウドに視線を移したその時、クラウド達の後方でバレットが声を上げた。



「やめろ−−−!」

「ミュウゥゥファイア!」


バレットの制止を振り切り、ルーファウスを目掛けて投げられた、ユフィの手裏剣の軌道をミュウの魔法でずらそうという算段のようだが、手裏剣の威力が強すぎて火球は立ち消された。


「若−−−!」


ハイデッカーがルーファウスを庇うように立ち、その身を盾にした。
手裏剣はルーファウスに命中することなく、ハイデッカーの背中に一閃の赤い直線を刻み込むと、床に突き刺さった。

ハイデッカーはぐらりと身体を傾がせ、前のめりに倒れた。クラウド達はそんなハイデッカーに気を取られていた為、ユフィの姿が無いことに気づかなかった。
ルーファウスもユフィの存在に気づくことはなく、辺りを見渡すクラウド達に憤ったように声を上げる。


「これがおまえたちの答えか?」


それもそのはずだ。今し方、停戦協定が結ばれて協力すると決まった相手を、躊躇いもなく抹殺しようとしたのだから。


「いや、これは……」

「なめるなよ。野良犬ども」

「若、避難を!」


クラウドが答えに窮していると、ハイデッカーはその身を呈して、クラウド達からルーファウスを庇いつつ、その身を案じる言葉をかけた。
ルーファウスがハイデッカーの身体を肩で支え、クラウド達にどろりとした憎悪の表情を浮かべたまま、彼らが退室していくのを見送る。
ルーファウスが退出すると、アルジュノンの会場は混乱の渦に包まれた。


「どうしよう?」

「ここから離れよう」


クラウド達は何とかこの状況を乗り切ろうと、奔走するのだった。







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