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「あっ、きたきた!」


ジュノン空港の作業通路で合流したクラウドと仲間達。


「お疲れさん」

「行こう」


フキはクラウドに礼を言うと、彼は小さく鳴きながら頷いた。
一行はジュノンに侵入すると、滑走路へと向かっていく。


「警備は、それほど厳しくないな」

「パレードの準備中かな?」

「けっ、オレたちにかまってるヒマはねえってか」


バレットが、エアリスの言葉に重ねるようにして呟いた。


「私たちにとっては好都合だね」

「ですの~~!」

「しかし、広いな……黒マントを探すのもひと苦労だ」


一行はジュノン空港の滑走路上を歩きながら、黒マントや追手がいないか周囲に気を配る。しかし、滑走路にはレッドXIIIの言うように黒マントも警備兵の姿もない。


「ここにはいないようだ。街へ行ってみよう」

「街……か」


クラウドの提案に、フキが顔をしかめる。
彼がそれにすかさず気づいて、声をかけた。


「来たことがあるのか?」

「卓上旅行で、だったらな」

「なら、あんたに街を案内してもらうとするか」

「だから、卓上旅行だっつってんだろ!?」


クラウドの反応に、フキがすかさずツッコんだ。そんな二人に、バレットは腕を組んで呆れたように、半眼で首をふる。
エアリスが小さく笑むと、一行は空港を離れた。


「さっきの人たち、パレードに出るのかな?」


格納庫のリフトで下りていると、ルーファウス神羅の歓迎式典に出席するであろう、一個小隊の行進訓練を遠目に眺めながら、ティファが呟いた。


「新社長に、いいところを見せたいってか?ケッ……」


バレットは、やれやれといった顔でティファの呟きに、そう返した。
一行はジュノンの街へと入ろうとするのだが、バレットが突然足を止めて、クラウド達も立ち止まった。


「おおごとになりそうで黙っていたが……やっぱり無理だ」

「なんだ?」

「バレットさん、どうしたんですの?」


バレットは仲間達へ振り返ると、堪えていた神羅への反骨心を吐きだした。


「ルーファウスが近くにいるってのに、素通りなんて面白くねえとは思わねえか!?」

「……」

「暗殺とは言わねえが、ひとことふたこと言ってやって、ついでにぶん殴るくらいしてやりてえ!」

「あんの新社長を殴りたいのは、激しく同意だけどよ……だからって、作戦はどーすんだ?正面から行くのは、百パーアウトだろ」


バレットの提案に、フキが否定的な反応を示す。


「なんだ?フキ、ビビってんのか?」

「ちっげーよ!正面から行くのだけは、まずいって言ってるんだよ!!」

「わたし、いちぶ!賛成……」


バレットの挑発に、フキが反論する。
そんな時、エアリスが手を上げて賛成の意を表した。皆が、目を丸くして彼女を振り向く。


「タークスは、わたしたちもう追わないって言ったのに、バイクの人は、保護するとかなんとか……ハッキリしてほしいな!」

「そうだよね。でも、社長に会うなんてできるかな?」


エアリスの意見に、ティファが不安げな顔で呟いた。
彼女の正論に皆が黙し、考え込んでいると、今まで黙って聞いていたクラウドが自信ありげに口を開いた。


「策は、ある」


その言葉に、皆の視線がクラウドに集まる。


「パレードに乱入すんだろ!」

「いや、参加者はほとんどが兵士だからな。敵に回すには数が多すぎる…………パレードの一員として、ルーファウスに近づくんだ」


バレットが、クラウドの策に目を輝かせてガッツポーズをする。


「バレットとレッド、ミュウは、港までの経路と警備状況を確認してくれ。そしてもちろん、黒マントの捜索」

「おいおい!」

「ミュウは、坊ちゃまといっしょがいいですの~~~~!」


クラウドの指示に、バレットが抗議の声を上げると、ミュウも不満げに声を上げた。
すると、クラウドがすかさず口を開いた。


「バレットは神羅の制服を着ることになるし、ミュウは……愛らしい見た目ではあるが、マスコットとして連れて行くには不向きだ」


どうやら彼の中で既に計画ができているらしい。クラウドはそう言葉を続け、バレットとミュウは渋々といった表情で頷いたのだった。


「じゃあ、俺とフキは行ってくる。まずは制服の調達だ」

「はあっ!?なんで、俺も行かなきゃなんねーんだよ!?」

「あんたを自由にさせておくと、何をしでかすかわからないからな」

「人をトラブルメーカー扱いすんなっつーの!」


クラウドの言葉に、フキがすかさず反論する。しかし、クラウドはフキの反論に聞く耳も持たず、彼を引き摺りながら、その場を後にした。


「制服に着替えてない方、この部屋にプレスした予備があります。急いで着替えてください」


連絡口付近で待機していた神羅の社員がそう告げると、クラウドとフキ、そしてひょんなことから彼らについてきたエアリスとティファは、それぞれ着ていた服を脱ぐと、神羅の制服へと着替えていた。


「懐かしいな……」

「何がだよ?」


クラウドが、懐かしそうにぽつりと呟いた。それに、フキが反応する。
すると、クラウドは制服を正しながら口を開いた。


「ソルジャーになるには、兵士としての訓練と適性検査、術前検査をパスする必要がある」

「ふーん……適正テストと手術さえ成功すればいいのかと思ってた」

「あんた……子供の頃に、一度でもいいからソルジャーになりたいとか思わなかったのか?」


クラウドの、どこか呆れを含んだ言葉に、フキがムッと顔をしかめる。


「いんや、全然。なりたいとすら、思ったことねーな」

「変わってるな」

「うっせえ。でも、まあ……ソルジャーみてーな力は欲しかったかもな」


そう言葉を締めくくったフキに、クラウドは不思議そうな顔をしていた。
その後、フキ達は神羅兵の制服に着替えると、アルジュノンへと向かうのだった。




* * *




「準備はいいな。では始め!」

(なんでこうなったよ……)


フキは内心、そう呟いた。

現在彼は、パレードに参加する兵士としてクラウド、ティファ、エアリスの三人と街に繰り出そうとしていた。
だが、ミッドガル第七歩兵連隊の美人指揮官と副官に呼び止められ、パレードの演舞を披露して見せろと命じられてしまったのだ。


フキがクラウドに恨みの籠った視線を送ると、彼は素知らぬ顔でファンシー・ドリルを始めるのだった。
クラウドに習い、三人も横目で彼の演舞を盗み見ながら動きを合わせ、同じくファンシー・ドリルを行い出した。


(くそ、クラウドめ……!いや、この場合、恨まなきゃいけないのはセフィロス師匠達か?)


クラウドの口車に乗せられてはみたものの、彼は催し物で神羅兵が披露する演舞など知らなかったし、教わってすらいないのだ。
しかし、今更後には引けない。
フキは、頭を抱えたい気持ちで一杯だった。


「そこの赤毛!ふざけるな!!」

「~~~~っ!!申し訳ありません!」

「口より手を動かさんか!」


途中、ミスを連発したりして、フキは容赦なく叱咤を受けた。
フキがクラウドを見ると、彼は涼しい顔でファンシー・ドリルを熟していた。


(ああもう……!こうなりゃヤケだ!!)


フキは覚悟を決めると、必死の形相でクラウドの演舞を真似ることに集中をした。

しばらく経って、ようやく演舞の披露が終了すると、フキはその場に崩れ落ちそうになりながらも、なんとか立ち続けていた。
すると、副官の男がクラウドに歩み寄ってきたかと思うと、感心したように口を開いた。


「貴様ら、なめてるのか!……だが、その度胸、気に入った」


どうやら、なんとか合格したらしい。
フキは安堵からその場に座り込みそうになったが、クラウドがすかさず肩を支えると彼を立たせてやった。

副官が美人指揮官に何か耳打ちすると、こちらを振り返った彼女の目が呆然とした四人を見て、楽しげに細めた。


「たった今より、貴様を我がミッドガル第七歩兵連隊の隊長に任命する!」


指揮官がクラウドにそう告げると、彼は反射的に敬礼をした。すると、指揮官はフキの肩をポンと叩き、さらに言葉を続けた。


「貴様は、副隊長だ」


指揮官の言葉に困惑したのか、フキが助けを求めるようにクラウドに視線を向けた。しかしクラウドも困惑しており、ティファとエアリスに至っては何がなんだか分からないと言った様子で、顔を見合わせていた。

そんな四人の様子などお構いなしに、副官の男が彼らに駆け寄ってくると、上官命令として告げた。
曰く、アルジュノンにいるミッドガル第七歩兵連隊の隊員を最低でも、5部隊集めて来いとの事だった。


「兵がそろったら、パレード会場のエルジュノンまで連れてこい。遅刻は絶対に許されんからな。心して、任務にあたれ!」

「「「ハッ!」」」


指揮官の言葉に、四人は反射的にそう返事をしていた。
そうして、フキ達は部隊の人員を確保するべく、アルジュノンを走り回るのだった。




アルジュノンでの兵の集め方は、至極単純だった。

ミッドガル第七歩兵連隊の腕章をつけている兵士達に声をかけ、クラウドが隊長クラスのヘルメットを被っているや否や、彼に敬礼し、あちこちに散らばった兵士達にも隊長が来たことを伝える。
クラウドが隊長を名乗ると、兵士達は彼の命令に従い、集合場所の会場へと駆けてゆく。


クラウドは、指示の出し方や兵への接し方を熟知しているらしく、フキが手伝わなくても一人でなんとかやっていけそうな勢いだった。


(……俺、副隊長じゃなくて良かったんじゃね?)


フキがそんなことを考えながら、パレードで披露する演舞を練習していると、クラウドが近づいてきた。
フキが顔を上げると、クラウドは演舞の指南をしてくる。


「リズム感は悪くない。手元を見ずに回転することを意識するんだ。やってみろ」

「お、おう……こうか?」


クラウドに言われるがまま、フキが銃を回転させるとクラウドは頷いた。


「そうだ、上手いぞ。あとは、回転のスピードを上げるだけだ」


クラウドがそう言うと、彼は再びファンシー・ドリルの技を披露し始めた。
フキはクラウドの動きを真似しながら、クラウドが行った技の一つ一つを自身の体に染み込ませてゆくように、何度も練習した。


「あんた……ファンシー・ドリル自体はやったことあるのか?」

「まあ……養父が軍人だったし、一応は」

「そうか……どうりで飲み込みが早いわけだ」

「?」


クラウドのその言葉に、フキが怪訝そうな表情を浮かべると、彼はフキの頭をくしゃりと撫でた。


「頑張れよ」


クラウドはそう言うと、他の兵士達に声をかけに行った。
彼が去った後、フキは頭に乗せられた手の感触を反芻し、その顔を赤く染めていたのだった。


「俺は、ガキじゃねーっつうの!つうか……」


−−ザックスと似たようなこと、すんなよな…………心臓に悪いだろ。


フキは、心の中でそう呟くと、再びファンシー・ドリルの技を練習し始めた。その後、クラウドが兵を集め終えるまでフキは演舞の練習を続け、なんとか形にはなるレベルに仕上げることができたのだった。







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