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翌朝。
フキは昨日の自分の言動を思い出し、自己嫌悪に陥っていた。
(クラウドに八つ当たりした挙げ句、あんな醜態を晒しちまうなんて……最悪だな)
彼は心の中で独り言ちながら、頭を抱えた。
クラウドは、フキのことをこれから先、責めることはないだろうと言っていたが、それでもフキの心の中にはまだ迷いがあった。
(もし、俺がクラウドに全部打ち明けたら……あいつなら受け止めてくれるかもしれない。けど、そしたらあいつとは、きっと仲間でいられなくなるかもしれない……)
それは彼にとって本意ではなかった。
クラウドとは対等でいたいのだ−−ライバルは大袈裟すぎるが、せめて友人同士でありたいとフキは願っていた。
だがその一方で、自分の過去を知られたくないという気持ちもあった。
クラウドに自分の全てをさらけ出す勇気はないくせに、彼に隠し事を続けるのは後ろめたいと思ってしまう……そんな矛盾を抱えながら生きていくことに、フキは耐えられなくなってきていた。
(でも……だからって、どうしたらいいのか分からねーんだよ)
フキは苛立ったように頭を掻きむしった。
ため息をひとつ吐くと、窓の外へと視線を移す。空はどんよりとした灰色をしていた。
まるで自分の心のようだと思いながら、フキはその空に見入っていた。
その時、コンコンっと誰かがドアをノックした音がしたので、そちらに目を向けるとユフィの姿があった。
彼女は部屋に入って来るなり口を開いた。
「今から、クラウドの部屋に集まってねー!」
「は?」
突然言われた言葉にフキが戸惑っていると、ユフィはさっさと出ていってしまった。
フキは訳が分からぬまま、とりあえずクラウドの部屋に向かうことにした。
部屋に着くと、すでに他のメンバーは集まっていたようで、フキは若干居心地の悪さを感じながら、エアリスの隣に佇む。ユフィが全員を見回して口を開いた。
「よ~~~~し、これでみんなそろったね!」
彼女はいつもと変わらない、明るい口調で言う。
しかし、その表情にはどこか真剣さが含まれていた気がした……だけだった。
突如、自己紹介と称し、ジャグリング付きの前口上を話し始めたのである。
それを冷ややかな目で見ていたのは、クラウドとフキであった……。
クラウドは呆れきった様子でため息をつき、フキに至っては頭を抱えている始末である。それでもユフィは止まらない。
「邪智暴虐の神羅カンパニーと戦うために、はるか、遠方よりやってきたシノビの末裔なのであーる。シュシュシュシュッ!」
ユフィはウータイの特殊技能集団《シノビ》のひとりで、神羅と敵対するウータイ暫定政府より密命を受け、ミッドガルへと潜入してきたのだと言う。ティファはユフィから目を離さないまま、口を開いた。
「ウータイ?」
そんな彼女の様子を気にすることなく、彼女は続けた。
「そ!それでー……頼みっていうのはほかでもない。どう?アタシと手を組まない?」
ユフィの言葉に、ティファは怪訝そうな表情を浮かべた。クラウドも眉をひそめる。
しかし、ユフィはそんな二人の様子に構うことなく、言葉を続けた。
「アタシさ、手を組むなら……本家より分派だと思ってたんだよね」
「「…………」」
クラウド達は黙ったままだったが、皆の気持ちを代弁するかのようにバレットが口を開いた。
「忍者の仕事といやあ、スパイか暗殺だろ~~?オレたちがやってるのは、そういうことじゃねえんだよな……」
「へんけ~~ん!」
ユフィはバレットの言葉を遮るように、叫んだ。
そして、彼のことを睨みつけるが、バレットの意見に一理あると思ったのか、ユフィはそれに答えるかのように頷くと、また話し始めた。
「でも、今回はアタリかも……」
そして、ユフィは一行に自分の近くに寄ってこいと、手振りで示す。仕方なく彼らはユフィに近付くと、彼女は小声で話し始めた。
その内容とはーー活動資金を自分で稼ぎながら、反神羅活動を続けていたユフィは、アンダージュノンに金策のチャンスがあるという情報を得て、クラウド達に接触したとのことだった。
「ロドナー村長、暗殺の仕事がある……っていうんだよね~~!そのターゲットが……なんと大胆!神羅カンパニーの新社長−−ルーファウス神羅、その人だ!」
「おおっ……!」
「えっ?」
バレットとティファは驚きの声を上げる。それを見たフキは、不安そうにユフィを見つめるのだった。
彼女は続ける……ここの住人達は国と太陽を神羅に奪われ、その復讐のために今回の暗殺計画をユフィに依頼をしてきたのだと。
ユフィは自信たっぷりな様子で言うが、それに対してバレットは軽侮の眼差しを向ける。
「へっ、そりゃすげえ……」
「ん~~!?村長、アタシに払う報酬欲しさに、アンタたちを神羅に売る気だよー」
ユフィは怒ったような口調でそう言うと、クラウド達一人ひとりを指差した。
「ああ?」
(だよなあ……)
フキは、内心で呟いた。
しかし――……その時、突然宿屋の外から、バイクの息つきのような音が聞こえてきた。
「あ~~~~ざんねん。もう売れちゃったみたい。じゃ、手を組むってことでいいよね!」
「おい!」
バレットはユフィに向かって手を伸ばすが、その時にはすでに遅く。ユフィの姿はなかった……。どうやら彼女は、部屋の窓から飛び降りたようだ。
そんな一連のやり取りを見たフキは、小さくため息をつきながら呟いた。
「しゃあねえな……」
とりあえず宿屋の外へ出ようと、その場から離れようとしたのだが……そこで、屋外から声高に騒ぐ声が聞こえてきたのである。
「いるんだろう?マイフレンド!」
「知らねー声だな。心当たりがあるマイフレンド、いるか?」
フキが皆に問いかける。一人ずつ、顔を見合わせるように全員の顔を見るが、クラウドだけ、ふいっと視線を逸した。
どうやらクラウドの心当たりのある人物のようだ。
「オメーかよ。クラウドのトモダチだろ?どうにかしろよ……」
「生憎、俺に友達なんてものはいない!」
「開き直んな!!」
バレットはクラウドを小突く。それに反発したクラウドは、軽く受け流すように手を振った。
そんなやり取りをしていると、再び外の男の声が大きくなる。
「早く出てこないと、バイクごと押しかけちゃうぞ?いいのか、マ~~イフレンド」
「だれ?」
「室内は不利だ。外に出よう」
クラウドの言葉に、皆は異口同音に賛同し、宿屋の外へ出ることにした。
「おまえさー、もうちょい友達になる相手をちゃんと選べよ……」
「うるさい」
道中、フキが呆れた様子で話しかけてきたものの、クラウドはそれに言葉を返すことなく、無言を貫き通した。
気をつけてはいるが、やはり自分は、神羅と関わらずに生きていくのが難しそうだ−−けれど、それを口に出せば、また面倒なことになりそうな予感がして、フキは黙るしかなかったのである。
一行は、宿屋の外へと出た。そこには、一台の赤いカラーリングをしたバイクに跨り、金髪リーゼントのソルジャーの姿があった。
「やっと来たか……マイフレンド!」
ソルジャーはバイクから降りると、クラウドに向かって大きく手を挙げる。
クラウドは、そのソルジャーを疎ましげに見ると、小さくため息をついた。
「アッハ~~!相変わらずつれないなあ……そんな友に、朗報だ。このたび、エアリスア~~ンドゥ、フキ救出匿名部隊に抜擢されてね。そのことを伝えにきたってわけだ」
「すっげぇ……わざわざ、そんなことを伝えにくるんなんて、いい友達持ったな!クラウド」
フキがクラウドの肩に手を置きながら、言う。すると、クラウドは心底嫌そうな表情を浮かべながらフキの手を振り払う。
「話をややこしくするな。ひとりで来たのか?」
「アッハッハッ!今回は挨拶に寄っただけだからね。ここは、我々が踊るには少しばかり、ヤボすぎる」
「クラウド、あいつとも蜜蜂の館で踊ったのか……?」
ソルジャーの男の言葉を思い出しながら、フキがクラウドに問いかける。それに対し、クラウドは顔を不快そうに歪めながら答えた。
「頼むから、もう口を開くな」
「ちぇー……なんだよ、クラウドが友達を紹介してくれるっていうから、聞いただけだろ」
フキは納得のいかなそうな表情をしながらも、クラウドの言う通り口を噤んだ。
しかし、それでもまだ何か言いたげな雰囲気をしている。
すると……ソルジャーの男が突然笑い出したのである。
男はひとしきり笑った後、クラウドに向かって言ったのだ。
「マイフレンド、そしてそのフレンド!私のために争わないでくれ……!!」
「「争ってない/ねーよ!」」
クラウドとフキの声がハモる。
「アッハ!相変わらず、マイフレンドの周りには人間がいるねえ。ふむ……これも何かの縁、今からキミは、私のブラザーに認定だ!!」
「いや、いいですぅ~~」
「ブラザー、そいつはご挨拶だなあ!」
フキが即答で断わると、男はわざとらしくショックを受けたような素振りを見せるが、しばらくすると、気を取り直してクラウドと向き合った。
「マイフレンド。不完全燃焼は、お互いに避けたいだろ?上に、最高の舞台を用意してある。そこで!キミたちが来るのを待っているよ。マ~~イフレンド&ブラザー!」
男は、二人の返事を待つことなく、バイクに跨って颯爽と走り去って行ってしまった。
その後ろ姿を見ながら、クラウドとフキは深いため息をつく。
「だってよ。マイフレンド」
「兄弟ができて良かったな。ブラザー」
クラウド達は、互いに顔を見合わせながら、軽口を叩き合った。
「ってか、あいつの名前、おまえ知ってる?」
「いや、知らないし興味ないな」
二人がのんきにそんなやり取りをしている間に、ロドナーが乱入してくる。
どうやら彼女は、クラウドたちが宿屋の外に集まっているのを見て入ってきたようだ。
「神羅の相手、ご苦労さん」
「オレたちを売りやがって……!やってくれんじゃねえか」
「……ほら、少ないけど取っときな」
ロドナーは、バレットにギルが入った皮袋を手渡す。そこには、ギルがぎっしりと詰まっていた。
それを渡されたバレットの表情が一瞬輝くも、すぐさま顰め面になってしまう。
「なんだよ?このカネ……」
「あんたたちに懸かった懸賞金さ。元々あんたたちにも、いくらか渡すつもりだったのさ」
ーー反神羅同士でいがみあっても、仕方がないだろ?
ロドナーは、そう続けた。
「あとは、ユフィがうまくやるように祈るだけだね……」
ロドナーは、独り言のように呟くと、街の中へと戻って行った。
一行は気持ちを切り替えて、先に進むことに決める。
「上に行くなら、プリシラを頼れって、ユフィ、言ってたよね?」
「そうだったか?」
「フキ、ユフィの話、聞き逃した?」
「ああ、ワリィ。よく聞いてなかった。クラウドは?」
「俺は、ちゃんと聞いてたぞ」
クラウドは得意げに言った。
「えらい、えらい」
一行は、ユフィのアドバイス通りにプリシラの下へ向かうことに決めたようだ。
港の桟橋に、一人の少女がイルカと戯れている。
彼女は、クラウドたちが声をかけるよりも早く、振り返って声を掛けてきた。
「あっ、お兄さんたち!」
「上へ行きたい。おまえを頼れとユフィから聞いてきた」
「クラウド、そんな横柄な頼み方はねーだろ……」
フキは、呆れ顔でクラウドを窘めた。
しかし、プリシラはクラウドの物言いに気を悪くするどころか、むしろ笑っていた。
「うれしい。まかせて!あのね、ユフィが調べたら……ジュノンに行くには、あの船を使うのが、いちばんラクチンなんだって」
プリシラは、一行に鉄骨に吊るされた船を指さして見せた。
そこには、中型の客船が吊り上げられている。
「ほら、あそこで船を操作できるの」
「つまり……?」
「誰かが操作室に行き、船をおろす。残りのメンバーが船に乗り、引き上げるというわけか」
「問題は、どうやって操作室まで行くかだな」
レッドXIIIの問いかけに対し、クラウドは即答する。
「電流注意……」
ティファの視線の先には、クレーンのボディに書かれた注意書きがあった。侵入者が登れないよう、電気が流れているようだ。
「そうか……だから、イルカなのか!」
「お兄さん、感が鋭いね!」
プリシラはフキを褒めながら、イルカの頭を優しく撫でた。
「フキ、どういうことだ?もったいつけずに教えろよ!」
「イルカに乗って、こいつの跳躍力を活かして操作室まで行くって話だろ?」
「そうそう!イルカさんのジャンプなら、きっと届くよ」
フキの説明に納得して、プリシラは頷いた。
一行はイルカのジャンプ力を頼りに、操作室に行く方法を模索することにする。すると、プリシラは嬉々として、一行へ唐突に質問する。
「んで、誰がイルカさんに飛ばされる?」
フキ達は一斉に、クラウドを見る。
「頼んだぜ、なんでも屋」
「……俺が行こう」
クラウドは気後れすることなく、そう答えた。彼がイルカに飛ばされて操作室へと向かい、クレーンの操作を始めると、それを待つようにフキ達がボートの上で待機する。
「じゃあ、みんなはこれに乗って。船まで、イルカさんがひっぱってってくれるから!」
プリシラは、イルカを指差しながら一行に言った。
フキ達は、彼女の言う通りにボートに乗り込んで、クレーンで下ろされた中型船に乗り込む。
「クラウド~~!上で合流ね!」
「おっさき~~~~!」
船に乗ったフキ達は、操作室の中にいたクラウドに一旦別れを告げると、上層の海上要塞都市−−ジュノンへと上がっていった。