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「……!黒マント!?さっき、ツオンに撃たれたやつか?」
薄暗い鉱脈の中に、黒マントの姿を見つける。
フキは彼に駆け寄り、呼吸の確認をしようとした。しかし、それは徒労に終わった。
黒マントは上をうつ伏せたまま、動かないのだ。
「こんな連中を大勢見たことがある。宝条のところだ……重度の魔晄中毒らしい」
「神羅め……しっかし、そろってなにしてるんだ?」
「セフィロスを追っている可能性がある。クラウドはそう考えている」
「クラウドが………………」
バレットは、クラウドの行動に疑問を覚えつつも、その目的に見当がつかないでいた。
「大丈夫か?あいつ……」
「どうだろうな……」
「おまえな、そこは大丈夫に決まってる!ぐらい言えよ~~~~!」
バレットの突っ込みに、フキは苦笑した。
(やっぱり、最近のクラウドの言動や体調面の良し悪しは、ジェノバ細胞の影響なのか?)
クラウドは、十中八九ジェノバの影響を受けている。
それはフキも感じていた。しかし、それが具体的にどのような影響なのかは分からなかった。
ただ、セフィロスという強大な力に対抗する手段を持っているからとはいえ、クラウド自身もその力に取り込まれつつあるのではないだろうか。
フキはそう考えているのだ。
今のクラウドには、セフィロスの言いなりになる道か、劣化による死を待つかの二択しかない。
どちらにせよ、このままではクラウドは崩壊してしまうだろう。彼の目的がなんであれ、手遅れになる前に手を打たなければ……。
(そうはさせねえ…………なんとしてでも、セフィロス師匠を止めないと……!)
フキは内心で意気込みながら、今は、クラウド達と合流するための道を探す。
「あいつら……あんなとこでなにやってんだ?」
洞窟を進んで行くと、大きな空洞が広がっていた。
対面の岩場の上で、クラウド達を見つけた。彼らは、何やら話し込んでいるようだ。
フキ達の存在に、エアリスが気付いようだ。
「バレット、お~~~~~~い!」
「どうした、休憩か?」
バレットは、手を振りながらエアリス達に問いかける。
「向こうに渡れないの!」
「そっちで足場を作れないか?」
クラウドがバレットに、崖っぷちにいる他の仲間をどう渡らせるか、尋ねた。
バレットは腕を組みながら考えるそぶりを見せ、そして数秒後、妙案を思いついたとばかりに、口を開いた。
「2000な、2000!」
「意外と根に持ってたんだな……バレット」
バレットの冗談に、フキは釣られて笑った。
この状況では、そんな冗談でも言っていないとやっていられないのだろう。フキ達はさっそく、クラウドが提示した案を実行に移すことになった。
コンテナの場所になにかを落とし、衝撃を与えれば、足場が作れそうだということらしい。道を塞いでいる大岩をバレットに壊してもらったり、フキとバレットがトロッコ押し、コンテナをどかしたりすることで、なんとか道を作ることに成功した。
道ができあがったと同時に、クラウド達は対岸へと渡る。双方が役割分担をしながら、鉱山を進んでいった。
フキ達はひらけた場所に出ると、どうやらそこは採掘場のようだった。
「……ん?なんだ?」
「モンスター……なのか!?」
大岩が赤く光りながら、振動している。これは、ただの大岩ではないようだ。
周辺のミスリル鉱石を吸い寄せて、巨体を形成する。ミスリル製のゴーレムだ。
「こいつも自然のチカラってヤツか?」
「起こしてしまったようだ……」
「タルいっつーの」
「寝かしつけるのは、父ちゃんにまかせな!」
三人はゴーレムと戦い始める。
ゴーレムは、フキ達に向かって拳を振り下ろす。フキ達は間一髪のところでかわし、反撃を試みるも、堅い皮膚で弾かれてしまう。
「ミスリルだけあって、かてーなぁ!」
「フキ!こいつは雷属性の魔法が弱点らしい。頼む!」
「わかった、任せろ!……雷雲よ刃となれ、サンダーブレード!!」
雷撃の剣をミスリルゴーレムの頭部に突き刺し、稲妻を発生させ攻撃する。
その攻撃は、ミスリルゴーレムの岩の塊のような体にヒビを入れることに成功した。
頭部を破壊したことで、防御が下がる。その隙に、フキ達はミスリルゴーレムの体を物理アビリティで攻撃していった。
「おっしゃあ、崩れちまえ!」
「これでも喰らえ!」
バレットとフキが、ミスリルゴーレムの体を砕いていく。
それにより、ミスリルゴーレムの動きが鈍る。しかし、まだ倒しきれてはいなかった。
それどころか、背中と右手の部分に鉱石を纏わせ、攻撃の構えをとっている。
フキ達は、ミスリルゴーレムの攻撃に備えようと身構えた。
しかし、ミスリルゴーレムの行動は予想外のものだった。
その巨体でフキ達に向かって突進し、押しつぶすのかと思いきや、背中からレーザーを出し始めたのだ。
「そんなのありかよ!?」
「マジかよ……っ!」
フキ達は、ゴーレムの予想外の行動に驚くが、ゴーレムの攻撃をかわしていった。
三人はレーザーを潜り抜けながら攻撃を繰り出すが、鎧のような体に弾かれてしまう。しかし今度はレッドXIIIが飛び上がり、上空から攻撃を仕掛ける。
ミスリルゴーレムは、再びレーザーを発射しようと構えたが、それは叶わなかった。
レッドXIIIが、ミスリルゴーレムの背中と右手を破壊していたからだ。
ミスリルゴーレムはレーザーを放てず、体はボロボロになっていく。やがて、完全に崩れ落ちたのだった。
そして、ミスリルゴーレムが崩壊した跡の向こう側に、通路ができたことを発見する。
「ミスリルの階段とは、豪勢じゃねえか」
「持ち出せねえだろうから、この場所限定だけどな」
「何はともあれ、滅多にない機会だ。登ろうぜ!」
バレット達はミスリル製の階段を登り始めた。先に登っていたクラウド達も、バレット達に声をかける。
「遅かったな」
「でっけえミスリル見つけて、目がくらんじまってよ……なあ?」
バレットは、フキ達と顔を合わせる。
「ミスリル製の階段を登れたのは、まあ、いい思い出にはなるな。レッドはどうだった?」
「……ここもいつ崩れるかわからない。急いで出たほうがいい」
「おい、無視すんなよ」
レッドXIIIに無視されたフキが、拗ねたように言う。それをクラウドは無視して、話を続けた。
「ああ。でも、神羅に居場所を知られている。待ち伏せされているかもしれない」
「オレが連中でもそうするぜ。でもよ、それでも行かなくちゃならねえオレたちは、アレを見ちまったからな……」
「アレ?」
「神羅ビルのアレだ、アレ」
フキは、バレットに言われて思い出す。
神羅ビルの見学ツアーの3Dプロジェクタールームで見た、異様な光景のことだ。
逃げる人々、ミッドガルを飲み込む炎の渦、そして−−星を破壊する隕石。
クラウドはフキとバレットの話を察して、頷いた。
「オレたちの使命は、星を守ること…………神羅が邪魔するなら、戦うしかねえ」
「黒マントの連中を追いかけよう。おそらく、セフィロスと繋がっている」
(繋がってはいるんだろうけど、具体的にどう繋がってるのかが、わかんねーんだよなあ……)
クラウドが話す間、フキは内心でそう考えていた。
だが、それを言葉にすることなく黙っていた。
「フキ、あんたはどう思う?」
「はぁっ!?俺ぇ!?」
クラウドの唐突な問いに、フキは素っ頓狂な声を上げた。
「な、なんで俺に意見を求めんだよ!?」
「あんたは、意外と神羅の内部事情に詳しそうだからな。黒マントたちのことをどう思っているのか聞きたいんだ」
「どうって…………」
そう聞かれると、逆に何をどう言っていいのかわからなくなる。
クラウドはフキに意見を求めているようだが、その真意がわからない。
だが、クラウドの期待を裏切りたくはないし、なによりも自分の目的を果たすためにも、彼の助けが必要だ。
フキは考えを巡らせた後、クラウドの質問に答えることにした。
「上手く説明できねーから、感覚的に話すぞ?」
「ああ」
「全員かはわかんねーけど、黒マントの奴らって、元ソルジャーが多いよな?んで、ソルジャーになるには、特別な手術受けるだろ?術後は問題ないかもだけど、年数がそれなりに経ってから劣化して、黒マント化になる……そんで、セフィ……ロスを追うってことは、だ」
フキは、クラウドにわかってもらうため、言葉に詰まりながらも話を続けた。
「セフィロスが、黒マントを使って星の寿命を縮める手段として、あいつらを遠隔操作してんじゃねえかな?だから、この五年間、完全回復する機会をうかがってて、ついこの間、やっと復活できたってことじゃないかって、俺は思うんだ」
フキがそこまで説明し終えた時、クラウドは納得したような表情を浮かべていた。どうやら、彼の求める答えだったようだ。
自分が語った仮説が本当かどうかは分からない。だが、フキの知る限りの情報と照らし合わせても、この説が最も有力だと判断したのだ。
「だから、五年……だったんだ」
「ティファ?」
「ううん、なんでもない。参考になる意見をありがとう、フキ」
ティファは何か言いかけていたが、フキの声で言葉を飲み込んだ。
(余計なこと、言っちまったかな……俺)
フキは、さっきのティファの言葉が気になって仕方がなかったが、今は黒マントたちを追うことに集中しようと思い直したのだった。
*
ジュノンエリアの沿岸に辿り着いた一行は、さらに移動を開始する。ここでも、野生のチョコボを捕獲して、乗り物として使用することにした。
高原を道なりに進むと、集落が見えてきた。
「この先が、ジュノン?」
「いや、要塞都市の下に小さな村がある」
「アンダージュノン。寂れた漁村だ」
クラウドの話を聞いたレッドXIIIが、村の名前を言う。
「なんで寂れちゃったんですの?」
「ミッドガル……つっても、ミュウは知らねえか。軍事拠点としての立地の良さに目をつけられて、漁村の上に多層構造の都市が造られちまったんだ……神羅のしわ寄せは、全部下にくるんだ。どこもいっしょだぜ……」
「でも、アンダージュノンの方がミッドガルのスラムよりも、お上品なスラムって感じがしそうだけどな」
「お上品なスラムってなんだよ!?スラムに上品もクソもないだろ……」
「まだ、ミッドガルのスラムよりかは治安良さそうって意味だっつーの!」
フキとバレットが、また言い合いを始める。ティファはため息をつきながらも、二人を止めに入った。
クラウドはその様子を見て呆れつつも、しっかりと進行を続ける。
その後、一行はアンダージュノンへと足を踏み入れた。
「ちょっと待って」
と、粗末な小屋の脇に座っていた女が一行を止めた。
中年を過ぎたくらいの年齢で、長い白髪を無造作に後ろで一つに束ねている。
彼女は村に入ったばかりのクラウドたちの様子を見て、怪訝な顔をしていたが、すぐに敵意を向けてくることはなかった。
「日の当たらない村、アンダージュノンへようこそ。私はロドナー。村長兼、警備主任だ」
村長兼警備主任と名乗るロドナーと名乗った女は、クラウドたちを品定めするように見回す。
手に持っていたタブレット端末と一行を見比べて、何か納得したように小さく頷くとクラウドたちに向き直って言った。
「アバランチ?」
「だったら、どうする?」
警戒するバレットに、ロドナーは淡々とした調子で言う。
「とりあえず、通報しようかね。当たりだったら、10万ギルだ」
「悪いけどよ~~~~、あきらめてくれ」
と、バレットが右腕のガトリング銃を見せつけながら、睨みをきかせる。その様子を見たロドナーは、ため息をひとつついた。
そして、フキとエアリスに視線を移すと、こう言ったのだ。
「エアリスだね。あんたは……50万ギル」
「えっ……すごい!」
「やるなぁ、エアリス!オバさん、俺は!?」
フキは、エアリスの反応に上機嫌になりながらも、自分はいくらの値段がつくのかと興味本位で聞いた。
「あんたは……わぉ、もっとすごい。100万ギル」
ロドナーの言葉に、一行は耳を疑った。
フキにかけられた懸賞金が、予想の遥か上をいく高額な値段だった。これには、クラウドやエアリスは勿論、当事者のフキも驚いてしまう。
「い、やったぁ……!俺、首位じゃん!!」
「独走、だね!」
「おめでとうございますですの!坊ちゃま!」
喜ぶフキを、エアリスとミュウははやし立てた。その様子を遠目から見て、クラウド達は呆気に取られる。
しかし、そんなクラウド達の反応を気にも留めず、フキは誇らしげに胸を張り、バレットはフキの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「な~~んで、おまえがそんなに高額なんだよ!?エアリスはわかるが、おまえのほうが懸賞金高けえっていうのが納得いかねぇ!!おかしいだろっ!」
「わわわっ!?や、やめろって!!」
バレットは、フキの頭を撫でる手をどけると彼の首根っこを掴んだ。そして、軽々と担ぎ上げる。
フキは突然のことに驚いて暴れたが、バレットの力には敵わなかった。
そんな様子を見ていたロドナーは、呆れた様子でクラウド達に言う。
−−見て見ぬフリは、得意なんだと。
「通報はしないよ」
「罠じゃねえのか?」
「この村の歴史を知れば、そうじゃないってことがわかるさ。気に入らないなら、出ていきな」
ロドナーは、クラウド達に忠告をした。
「上でなにかあるらしくて、警備が強化されてね……兵士たちもピリピリしてる。なにかやらかして村を巻き込んだら、私が許さないよ」
彼女の目は、嘘を言っているようには見えない。クラウド達はロドナーの忠告に従うことにした。
手配者が出回っている辺り、クラウド達のことを快く思っていない可能性がある。
用心するに越したことはないだろうと、一行は警戒しつつ村を探索することにしたのだった。
「つーか、バレットはいい加減おろせよ!!」
「ワリぃ、忘れてた……!」
バレットは、肩に担いでいたフキを海へ放り込んだ。
「うわわわわぁ!?バレット、このクソヤロー!!」
いきなり投げ飛ばされたフキは、着水後すぐに水中から顔を出す。
「おまっ、いきなり何すんだよ!?」
「へへっ、男前が上がったじゃねえか!」
「おまえなぁ……!!」
フキは怒りを露わにしたが、バレットはどこ吹く風だ。
そんな二人を放っておいて、クラウド達は進む。
「手分けして、情報を集めよう」
「この状況から目ぇそらして、勝手に話を進めんじゃねーよ!!そして、バレットは逃げんな!!」
文句を言いつつもフキは、急いでクラウド達を追いかけたのだった。