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一方その頃、ミュウとレッドXIIIを率いたバレットは、黒マントを追いかけて鉱山の下層の奥へと進んでいく。


「なあ、ミュウ……なんでオレたちの方に来たんだ?フキの親父に頼まれて、アイツのお守りしなきゃいけねえんだろ」


バレットが尋ねると、ミュウは申し訳なさそうに俯いた。そして、申し訳なさそうな顔のまま答えた。



「みゅううぅ……坊ちゃまが、バレットさん達といっしょに行くことを望んだから、ミュウが代わりに行かなきゃって思ったんですの」


バレットはそんなミュウを見て、ため息を吐いた。その会話にレッドXIIIも参加する。


「フキが望んだ、とは?」

「きっと、坊ちゃまは、バレットさんたちに負い目を感じてるんですの」

「負い目だぁ?なんでフキがそんなことをオレらに感じる必要があるんだ?」


レッドXIIIが首をひねると、ミュウは再び語り始めた。


「バレットさんというよりも、鉱山で働く人たちに負い目を感じてるんですの……ボクのご主人様、ルーク様は坊ちゃまが生まれる前よりも昔に、先生だったヴァンさんに騙されて、鉱山の町を崩落させて、たくさんの人を死なせてしまったんですの……」


ミュウは、歩きながらも言葉を続けた。
バレットはそれを黙って聞いている。レッドXIIIは黙って聞きながら歩みを進める。


「だから、坊ちゃまは、バレットさんたちをここで死なせてしまったら、『父さんが、背負わなくていい罪悪感や責任をまた負ってしまうんじゃないか』って思ってて……。鉱山のことになると、坊ちゃまは必要以上にかびんになるんですの」


ミュウは、そう言いながら足を止める。バレットは、ミュウを見下ろしながらその話を聞いていた。
そうして、バレットはふむ……と考えるそぶりを見せてから頷いた。そして、ミュウの頭の上にポンと手を乗せる。


「なるほどな……確かに、おまえらからしてみれば、鉱山にいい思い出なんてねえんだろうし、テメーの親父がそんなことすりゃ、その倅も辛いだろうな。……だがよ、オレらは覚悟を決めてここまで来てんだ。今さら命が惜しいなんて言いやしねえ……それによ、アイツの心配してることは絶対に起きないし、ましてや、親の問題に子供は関係ねえんだ」


バレットはそう断言した。しかし、ミュウはさらに俯いてしまう。


「でも…………ボクは、何もできないですの……ご主人様が辛い時も、坊ちゃまが苦しい時も。ボクは、どうしてもお二人を助けたいんですの……」

「ミュウ……」

ないレッドXIIIが呟く。
バレットはため息を吐きながら、俯くミュウに言い聞かせるように口を開いた。


「おまえは充分、助けになってると思うぜ。だってよぉ……一番辛い時に、おまえはフキの親父やフキのそばにいてやったんだろ?だからアイツは、おまえの厚意に応えようとイヤな思い出しかねえ鉱山に、進んで入ったんじゃねえのか?それほどおまえが、アイツのそばにいたってえのが、重要なことだからだろ」


バレットに言われ、ミュウは顔を上げた。
「そうですの?」と尋ねると、レッドXIIIも頷いていた。


「ああ。初めて会った時と今のフキを比べると、抑え込んでいた明るさを取り戻したように見える。きっと同郷のおまえがいたからだと、私は思うがな」

「みゅう……そうだったんですの?ボクは、坊ちゃまの役に立っていたんですの?」

「ああ」


レッドXIIIはニヒルに笑って、そう言ってくれた。
ミュウも、少し笑顔になれたようだった。


「バレットさん、レッドさん、ありがとうございます、ですの!」


ミュウの言葉に、バレットもレッドXIIIも微笑む。
そうして、バレットは再び歩き出した。









その頃のフキ達はというと、鉱山の奥深くへと進み続けていた。
第二トンネルの橋の上まで来ると、何やらトンネルの奥の方から話し声が聞こえてくる。


「レノ先輩の様子、どうなんですか?」

「傷はそれほどでもない。ここのところ働きづめだったからな。すこし、休んでいるだけだ」


二人の男女の声だ。しかも、男の方は聞き覚えのある声である……ルードと、タークスの誰かだ。


「待て」


クラウドは、その声が聞こえる方に歩き出そうとするフキ達を呼び止めた。

四人は石柱に隠れて、ルード達の様子を窺うことにした。
パーティーの戦力が減っているこの状況で、無駄な争いは避けたいとクラウドは考えたのだ。
クラウドは、唐突にフキを見た。


「な、なんだよ?」

「さっきから、コンディションが悪そうに見える。もしもの時は戦えそうか?」


クラウドのその問いに、フキはハッキリと答えることはできなかった。
弱気な答えを出したら、クラウドに呆れられるかもしれない。そう考えたのだ。


「や、やれる」


フキは反射的にそう答えた。それに満足のいかなさそうなクラウドだったが、特に怒るでもなく、腕を組みなおし、ルードとタークスの女がいる方に目をやった。



「それでアイツ、どうします?」

「うぁあ……あう……」


どうやら二人は、黒マント達の一人を確保しているらしい。そして、その黒マントをどうするかで揉めている。


「先輩。あのですね、わたし、正直納得してないんですけど……あの黒マントを追跡して、なんか意味あるんですか?」

(ルードの後輩、とっつきにくそうだな……)


フキはそう内心呟きつつも、黙って彼らの様子を見ていた。


「上からの命令だ。俺たちタークスにとっては、それがすべて」

「うわ~~、仕事ニンゲン登場~~!でもアイツ、もう助かりませんよ。楽にしてやりましょう」


女はうんざりしたように言った。
虫の息になっている、黒マントの元へと歩み寄ろうとした女だったが、「ひどい……」と声を漏らすティファの一言で、女の足は止まる。


「誰だ!」


どうやら勘付かれたようだ。クラウドとフキは、すぐに戦闘態勢に入る。


「いい耳だ」

「あ~~……ごめん」


四人は柱の陰から姿を見せた。


「あっ、あ~~っ!」


ルードの後輩の女が、声を上げながら、四人を指差した。
その反応に、フキは何かを溜め込んだような、そんな表情をした。


「しかも、おまえ!!」

「あ?」

「よくも、わたしが尊敬する先輩を泣かせたな!?」

「えっ……ルード泣いたの?」

「俺は泣いてない」


ルードはそう否定した。


「わたしはタークス期待の新人、イリーナ!社会の敵ども……特におまえ、成敗してくれる!」


イリーナはフキを重点的に、一行をギッと睨みながら指さした。
クラウドは、今度は何やら釈然としない表情へと変わる。フキもまた、複雑な顔をしてイリーナを見た。

だが、エアリスは二人のその表情に気付かず、ルード達を見上げる。


「レノは?」

「ヴァケーションだ」

「レノ先輩の留守は、わたしが守る!」


ルードの言葉を遮るように、イリーナは高らかにそう言った。が、そのセリフにクラウドもフキも不満そうに眉を寄せる。


「新人と言えども、タークスだ。なめるなよ、と」


ルードのその言葉に、フキは鼻で笑った。


「八番街の通過儀礼は、ちゃんと済ませたんだろうなあ?その新人……!」


フキはクラウドに目配せして、戦闘開始を促す。
その意図を正しく汲み取ったのか、クラウドはバスターソードを抜いた。


「当たり前だ……!」


ルードもまた、身構える。
数秒の沈黙の後、クラウドは地を蹴り勢いよく距離を詰めた。同時に、ルードもクラウドに突進する。

フキは後方に引いて、イリーナに狙いを定めている。
エアリスとティファも同じく退き、それぞれが互いに背中合わせで死角をなくした。


「はぁあッ!」


ティファの回し蹴りが、イリーナとルードの間に割り込む。ルードは後方に退きつつ、その蹴りをギリギリで避けた。
追撃に跳びかかったのは、フキだった。

大きく振りかぶった刀剣の剣先が、イリーナの目と鼻の先まで迫るも彼女は冷静に後方へ跳び退く。


「ちょっと!顔に傷がついて、お嫁に行けなくなったらどうしてくれんのよ!?」

「俺に責任取ってほしいのかよ?」

「はぁああ!?先輩を傷つけたクズヤローに、責任取ってもらいたくないから!!」

「おまえが先に、ふっかけてきたんだろうがっ!」


フキとイリーナは怒鳴り合いながら、攻撃の手を休めない。イリーナの回し蹴り、掌底がフキに当たるも、彼は微動だにしない。


クラウドはルードと力闘を繰り広げている。クラウドのバスターソードを素手で受け止め、そのまま殴りにかかるルードだが、寸前で攻撃を止められてしまっていた。
エアリスとティファもそれぞれ相手取ろうとするが、中々うまくいかないようだ。


「先輩!」

「訓練どおりにやるぞ」

「はい!」


ルードとイリーナは、四人に連携技を繰り出そうと構える。クラウドとフキも愛剣を構え直す。
瞬間、ルードが力を溜めたあと、周辺全域に届く衝撃波を発生させた。


「ヤッベ……!!」

「大丈夫か!?」

「かなりピンチ、かも……」


四人はそれぞれに体勢を立て直しながら、ルードとイリーナの次の一手に備える。
しかし、その技は繰り出されなかった。代わりに聞こえてきたのは……。

ガンガンガンッ!というマシンガンが連射される音だった。その音に反応し、一同は音のした方向を振り向く。
すると、そこにはバレットが率いる別動隊の三人が立っていた。


「手をあげろ、両手!」

「ですの~~~~!!」


バレットたちはルードたちに向かって、銃を構えたままそう言った。
イリーナは一瞬のうちに思考を巡らせたあと、すぐに両手をあげる。ルードもそれにならって同じようにした。


「その物騒なもんはそのままだ。おかしなマネすんじゃねえぞ」


バレットは睨みつけるような目つきで、二人にそう言った。そして、二人に銃口を向けたまま、じりじりと距離を詰める。


「さーてと……仲間と七番街の仇、どうしてくれようか」

「恨むのはお門違いだな」


バレットのセリフに、頭上の足場から声が降ってくる。
一行が声のした方を振り返ると、そこにはツォンの姿があった。

拳銃を携え、肩息をつきながら横たわっていた黒マントに一発撃ち込んだ。その光景に、エアリスとティファが驚きの声をもらす。
クラウドはバスターソードを持ち直し、フキが剣先をツォンに突きつけた。
バレットとレッドXIIIも臨戦態勢を整える。


「おまえたちが始めた戦争だ」

「神羅が反感を買うようなことしなけりゃ、アバランチは発起しなかっただろうーが」

「言葉を返すが……おまえが肩入れしたアバランチが、無差別テロ行為で犠牲者を出すことと、神羅がバノーラ村を空爆したこと、どちらが罪深い?」

「それは……」


フキは言葉を詰まらせる。
ツォンはバレットに銃口を向けながら、話を続けた。


「うちもいろいろあって状況が変わった。おまえたちは賞金首だが、今後、我々の邪魔をしなければ見逃してやる」

「上からえらそうに!」


バレットは不満そうな視線をツォンに送っているが、当の本人は気にする様子もない。むしろ勝ち誇ったような顔をしているようにも見える。
ツォンはバレットに銃の照準を合わせつつ、クラウドの方を見た。


「エアリスをよろしくな。それと、おそらく五年ぶりの外の世界だろう?息災に過ごせよ……フキ」


まるで、クラウドだけに向けたようにも取れる台詞を言い放つ。フキはそれに反応し、ツォンに鋭い視線を返した。


「イリーナ!」


バレット達に威嚇射撃をした後、ツォンは今度はイリーナに向かって叫び出した。
イリーナはその声に反応して、右手に持っていた手榴弾の信管に付いている安全装置を器用に外し、間違っても地面に落とさないよう踵で打ち上げると、一行にめがけて正確に手榴弾を強く蹴飛ばした。


「っ……!」


クラウドは飛んできた手榴弾をバスターソードで薙ぎ払おうとするが、そこでレッドXIIIが飛び出し、クラウドに飛びつく形で手榴弾を上方へ高く蹴り上げた。
クラウドの後方にある、鉱山の最下部へと手榴弾は落下する。


「ナーイス!」

「よくやった!レッド!!」


それから間もなくして、手榴弾は爆発した。しかし、最下部に辿り着く前に空中で爆発し、その衝撃で全員の身体が揺れた。


(これって、ヤバくね……?)


フキは嫌な予感がしてならなかったが、その予感はすぐに現実となった。


「ぎゃぁああああ!」

「きゃぁあああ!」

「ぐわぁああああ!」


クラウドたちの悲鳴が響き渡る。その声と同時に、全員が滑落していった。


「ぶはぁっ!?」


息苦しい圧迫感から逃れようと、フキは水面から顔を出した。同じく他のメンバーも、あちらこちらから顔を出す。

辺りを見渡せばそこは鉱床のようで、フキ、バレット、レッドXIIIの三人は溜め池に落とされたらしい。クラウドたちとは、散り散りになっているようだった。


「泳げるか?」


レッドXIIIは二人にそう問いかける。
二人は「ああ」と頷き、池から這い出た。


「クラウドたちは?」


バレットの言葉に、上の階層からティファの声が返ってくる。


「大丈夫?」

「おう、スッキリ気分爽快だぜ!」

「んなわけねえだろ……濡れ鼠よりひどいぞ、これ。ティファ、そっちはどうなんだ?」


フキの問いかけに対して、彼女は少し間をおいて「大丈夫」と答えた。
それからフキ達は、上へと上がるための道を探すため鉱床を探索し始めた。







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