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クラウド達一行が移動した場所は、グリン牧場から少し外れた丘の上だ。
座って話すには、丁度いい岩や木々が適度な距離に生えていて、なんともいえない懐かしさを思い起こさせる場所だった。
フキはクラウド達に向き合い、ミュウを肩に乗せたままで説明し始めた。
「さっきも言ったと思うけど、こいつはチーグルっていう種族で、名前はミュウ。俺の父親が、若い頃に一緒に旅をしてたペット……って言えばいいのかな」
「ペットじゃないですの。ミュウはご主人様の忠実なしもべですの!」
フキの言葉に、腹を立ててタックルしようとするミュウだったが、フキはそれを制し、続ける。
「悪い悪い……で、だ。こいつの言うご主人様ってのは、もちろん俺の親父のことなんだけど、なんでわざわざ遠いところからやってきて、俺を探しに来たかってことなんだよな~~~」
「そういえば、ミュウって、フキのお父さんに頼まれたって、言ってたよね?なに、頼まれたんだろ?」
エアリスが尋ねると、ミュウはこくりと頷きながらこう答えた。
「ご主人様が、ミュウにいったんですの。『フキの力になってやってくれ。あいつには、助けが必要だ』って、なので、ミュウは"この世界"に来てから、坊っちゃまをずぅううっと探し回ってたんですの」
「ん?"この世界"?」
ティファが首を傾げると、フキはバツの悪そうな顔をして、ミュウの口を塞いだ。
もがもがと暴れながらフキの手をひっぱたくミュウだったが、なんとか引き離すことに成功する。そして、改めて口を開いた。
「この大陸って言いたかったんだよなあ!?なあ、ミュウ~~~~?」
「そ、そうですの!」
「本当に?」
疑わしそうな目で、フキとミュウを交互に見るティファ。
しかし、ミュウは深く頷くだけでそれ以上は何も口にしなかった。
また、フキもクラウド達がそれ以上何も言ってこないことに、安堵していたようだった。
「それで……なんだけどさ、ミュウがこの旅に同行することをみんなに許してもらえないかな?こいつ、こう見えて結構手がかかんないし、むしろ、ミュウがいると助かることが多いんだ。旅をしてるなら、なおさら」
フキが申し訳なさそうに説明をした。
すると、エアリスはパァっと表情を明るくさせる。
「もちろん!わたし、ミュウに一緒に、来てほしい。ね?」
「疑うわけじゃないんだけど……私たち、これから先は危険なところに行ったりとか、したりとかすると思うんだけど、ミュウは大丈夫なの?」
ティファは心配そうな眼差しでミュウに尋ねた。
しかし、当のミュウは満面の笑みを浮かべて、堂々とこう答えたのだ。
「任せてください、ですの!ミュウは、このソーサラーリングのおかげで、チョコボさんや魔物の言葉を翻訳できるんですの。それだけでなく……」
そういって、ミュウは近場にある岩のそばへ寄った。
「アターック!!」
その瞬間、岩が粉々に砕けた。
以外の一同は何が起こったのか理解できず、立ち尽くしていた。ミュウは粉々になった岩の横で、一仕事を終えたかのように、鼻を鳴らす。
クラウドたちは、あんぐりと口を開けながら固まっていたが、いち早く我に返ったエアリスが口を開いた。
「すご~~~~い!ミュウは体、痛くないの?」
「へっちゃらですの!エアリスさん、ミュウのソーサラーリングに掴まってください!」
「? こう?」
「はいですの。ミュウウイ~~~~ング!!」
エアリスはミュウの腹部にある、腕輪−−ソーサラーリングに手を伸ばして掴んだ。すると、ミュウは両耳をばたつかせながら、その場で飛翔し、エアリスの身体がふわりと浮き上がっていく。
「わたし、飛んでる……!」
エアリスは突然のことに驚きながらも、満面の笑顔で滞空していた。
その後、地面に着地したエアリスは、目をキラキラさせながらミュウを抱っこして、頬ずりしている。
クラウドとティファは、ミュウの力に圧倒されて言葉が出てこなかった。
「なあ、オレにもやらせろよ!!」
「バレットの次は、私にもやらせてもらえないだろうか?」
バレットとレッドXIIIは鼻息を荒くして、ミュウに詰め寄っている。エアリスの浮遊で、興味を持ったようだ。
ミュウは、エアリスに抱かれたまま、コクンと頷く。
バレットとレッドXIIIは、順番にミュウのお腹にあるソーサラーリングを掴んで、エアリスのようにはしゃぎながら滞空していた。
「クラウドもアレ、やるか?」
興味なさそうに突っ立っているクラウドに、フキが問いかけた。
「必要あるか?空を飛んだからってなんだというんだ」
すると、エアリス、バレット、レッドXIIIの三人から非難の視線が集まる。特にエアリスは、目を吊り上げながら説教モードに入っていた。
「クラウド!ミュウの力、とってもすごいんだよ?飛べるの、気持ちいいんだから!やってみようよ」
「案外楽しいもんだぜ?」
エアリスに同意したのはバレットだ。
「何事も経験だ!クラウド!!」とさらに誘う。
「…………はぁ」
そんなミュウに溜息をついてからクラウドは一歩前に出た。そして、ミュウのお腹にあるソーサラーリングを掴んで、エアリスに倣い飛翔した。
初めこそは、ぎこちなかったものの、クラウドはすぐにコツを掴んだらしく、空を舞う感覚を楽しんでいた。
「ね?気持ち、いいでしょ?」
エアリスがニコニコしながら尋ねると、クラウドは顔を背けながらも「……浮遊感は悪くないな」と返した。
エアリスはそんなクラウドの様子を見て、頬を綻ばせる。フキはそんな二人の様子を、微笑ましく見つめていた。
クラウドの意外な一面に驚きながらも、エアリスが幸せそうでよかったと心から思うのだった。
二人の様子に満足しながら、フキが改めて話しかけてくる。
「そんで、さっきの続きなんだけど……ミュウもこの旅に参加させて、構わないか?」
「もちろん!これから、よろしくね!ミュウ」
「はいですの!」
エアリスは満面の笑みを浮かべながら、頷いてみせる。
ティファやレッドXIIIたちも同意を示したことで、クラウドも「好きにしろ」と言ってくれたことから、晴れてミュウもパーティーの一員となるのであった。
* * *
そうして、一行は当初の目的地であったピコと野生のチョコボを必要な数だけ捕まえると、その足で湿地帯へ向かった。
泥水と不気味な木々の中、一行の歩みは止まることなく進んでいく。
「あれを見ろ……!」
突然、クラウドが前方を指さした。一同が目を凝らしてよく見てみると、そこには何もないように思われたが……。
「セフィロスだ」
「ほんと?」
「マジかよ……!」
クラウドの指摘に、フキは目を見張った。
ティファも見えない何かを見ようと目を凝らすが、何も発見できないでいる。
「追うぞ」
クラウドは、何かに導かれるようにそこへ向かって歩いてゆく。
一行はさらに沼地の奥へ入っていくと、そこには巨大な樹木がそびえ立っていたのである。その樹木の根本に、一行は上陸を試みた。
「ゴール、見えてきたね」
「急ごう」
エアリスの言葉にクラウドもうなずく。さらに先へ進もうとすると……。
「クエェ~~~~っ!?」
チョコボが突然、怯えるように鳴き声をあげながら暴れ始めた。
「なんだ!?どうした!」
「みゅぅううう!?チョコボさんたち、ボク達が陸地じゃないところに乗ったって、言ってますの!」
チョコボの発言を翻訳したミュウが、そう告げる。
クラウドたちがいたのはなんと……陸地に擬態したモンスターの上に立っていたのである。チョコボ達は一行を水面に振り落とし、一目散に逃げていった。
クラウドたちも急いで陸に上がろうとすると、沼地に潜んでいたモンスターが突然姿を現した。
蛇のような外見が特徴的な、ミドガルズオルムというモンスターだ。
「ミュウのいう通り、島に擬態していたようだな」
「解説ありがとよ!」
「来るぞ!」
ミドガルズオルムはクラウドたちの姿を捉えると、すぐに襲いかかってきた。
クラウドたちは、ミドガルズオルムを迎え撃つべく武器を構えた。