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エアリスと別れたフキは、宿へと戻っていた。
ロビーに併設されている食堂の椅子に腰掛けると、フキは先ほどエアリスと話したことについて考える。


あの時のやり取りで心が軽くなったような気がするが、それは一時のことに過ぎないだろう。
クラウドと話したいことは沢山あるはずなのに、いざ話そうとすると言葉が出てこなかったのだ。

結局何も言えずに、ここまで来てしまっていることに後悔を覚えながら、フキはため息を吐いて天井を仰ぎ見る。その時だった。
プロペラ音のような騒がしい音が聞こえてきたのは。

反射的に屋外へ出ようと立ち上がると、フロントの奥にある通路から宿屋のオーナー、ブロードが走ってきた。


「外に出るな。隠し通路があるから、そこから街の外へ行け」

「あ、ああ……でも、仲間が」

「私が仲間を案内して、連れてくる。君は先に行くんだ」


フキは彼の言葉に頷くと、ブロードの案内に従って宿の奥にある地下通路へと向かった。
中は思ったよりも長く入り組んでおり、まるで迷路のようだった。


(みんなと合流するまで、ここで待つか)


フキが、そう決めた直後のことだった。
上の階からバレット、レッドXIII、ティファの順で降りてきたのだ。どうやら、みんな無事らしい。
そのことに安堵したフキは安堵の息を漏らすと、三人を出迎える。


「みんな、無事か!?」

「うん、私たちは意外と近場にいたみたいだから、すぐに合流できたの」

「問題ない」

「ケッ、あいつらは何やってんだ?おせーなあ」


それから少しして、クラウドとエアリスが姿を見せた。
彼は仲間たちの姿を見ると安心したように微笑み、エアリスはそんなクラウドの腕に抱きつきながら、フキ達と再会の喜びを分かち合う。

一行はカームの町を脱出し、ブロードの知人が経営している農場へと向かった。





「あんたら、アバランチだろ?」


農場に着くと、ブロードの知人らしき男がそう言って一行を出迎えた。


「心配するな。カームの宿屋から連絡があった」


カームの町まで神羅軍の手が回ってきたのは、本格的に一行を探す為だろう。

この先、農場すら安全じゃないかもしれない。
農場主は神羅に追われる身であるにも関わらず、一行の心配をする。


「湿地帯のほうに使われてない船着き場がある。身を隠すには、いいかもしれないぞ」

「ありがとな。いい情報までくれて」

「俺にも家族がいるから、ここであんたらを匿えなくてすまないな」


農場主はそう言った後、こう続けた。


「最近、どうやらこの辺でカーバンクルに似たモンスターが、彷徨いてるらしい。襲ってきたりはしないんだが、食い物が盗まれるんだ……あんたらなら心配ないと思うが、気をつけろよ」

「? ああ」

「カーバンクルって、確か……」

「召喚獣のはずだが……」

「そんなモンスター、いるかな?」


一行は農場主から、カーバンクルに似たモンスターがいるという情報を得た。その話を聞いたティファ達は、首を傾げる。


召喚獣であるカーバンクルによく似たモンスターなどいるのだろうか、と疑問を浮かべたのだ。


「モンスターが出てきたら出てきたで、倒せやいいじゃねえか!とりあえず、船着き場に行こうぜ」


バレットの提案により、一行はブロードの知人が管理している農場を出て船着き場に向かうことにした。




* * *




「『湿地には、ミドガルズオルムが潜んでいます』……だって」

「でも、チョコボのスピードなら大丈夫。さあ、チョコボで湿地を越えましょう!」

「チョコボのご用命は、グリン牧場まで。だって!」


船着き場の受付所の壁に貼られていたポスターを、ティファが見つける。

そこには、ミドガルズオルムについての説明とチョコボの貸し出しサービス内容が書かれてあり、彼女がその一文を読んで呟く。
その情報に耳を傾けたエアリスが続き、にこりと微笑むと口を開いた。


「どうする~~~~?」

「チョコボ、乗る?」

「乗る?」


ティファがそう尋ねると、エアリスは声を揃えてクラウドにじりじりと近づく。どうやら、女性陣はチョコボに乗りたいようだ。

そんな彼女らの期待を込めた眼差しに根負けしてしまい、クラウドはため息混じりに言う。


「……行ってみよう」


クラウドの言葉を聞いた女性陣は、嬉しそうにハイタッチを交わした。そして一行は、船着き場を出発した。


目指すは湿地帯の先──ではなくその手前にあるグリン牧場だ。
船着き場からほど近いグリン牧場に到着し、そのまま中に入ると初老の男が迎え入れてくれた。カームに行く途中、ヒッチハイクで世話になった、グリンという男である。


「今日は?もしかして、チョコボが入り用かな?」

「ここで借りられるのか?」

「もちろん!詳しいことは、あの小屋にいる孫のグリングリンに聞いてくれ」


そう言ってグリンが指差した先には、1軒の小屋があり、中に入るとそこには青年がチョコボの世話をしていた。

前髪やサイドが耳に被りそうな長さで、後ろ髪は襟元くらいまでの長さの茶髪が特徴的だ。
彼はクラウドたちのほうを見るなり、声をかけてきた。


「いらっしゃい!」

「看板を見た。湿地帯用のチョコボを借りたい」

「あ~~、おじさんたち運が悪い」

「おじ……」


5歳くらい年下の青年からおじさん呼ばわりされたことに、クラウドは少なからずショックを受ける。


「ブフッ……!お、おじ……、クラウドっ、"おじさん"って!!」


そんなクラウドを見て、フキは腹を抱えて大笑い。ティファとエアリスも、くすくす笑っている。
当のクラウドは不機嫌そうに眉根を寄せていた。


「レンタル用のチョコボは、みんな貸し出し中なんだ」

「いっぱいいるじゃねえか!」

「いまいるのは療養中か、契約済みの子だよ!でも、まあ……おじさんたちが、もっと高値で借りてくれるって言うなら、譲ってもいいよ」

「足下見すぎだろ……おまえ」


フキがボソリと呟く。しかしグリンは聞く耳持たず、営業トークを続ける。


「10万以上出してくれるなら、ね」

「このっ、クソガキ……!!」


フキのこめかみに青筋が浮かぶ。
怒りに肩を震わせる彼に、エアリスはグリングリンへにこやかに話しかける。


「ごめんね……。わたしたち、旅の途中でそんなに払えないの」

「あー……、それなら、いい情報があるんだ。情報料、1000ギル」


それにも金取るのかよ……と、呆れるクラウドとフキ。

グリングリンの厚顔さは、留まることを知らないらしい。エアリスが悩むように考え込むのを見て、気が傾いたのか、ニヤリと笑う。
そして彼は、さらに続けた。


「と、言いたいところだけど、美人を困らせたくないから……タダでいいや」

「はあっ!?」

「実は……すこしに牧場から逃げ出して、そのまま野生化しちゃったチョコボがいるんだ。もし、そいつを捕まえてくれたなら、お姉さんたちのものにしていいよ」

「ほんとに?」

「なんか……体良く面倒ごとを押し付けられた気がするぞ」


フキが呟くのと、クラウド達の視線が一気に自分に集まるのを感じて、グリングリンはこほん!とわざとらしく咳払いをする。


「名前は『ピコ』。ちょっと気難しいヤツで、放牧してたらいつのまにか逃げちゃったんだ」


それから彼は、ピコがいそうな場所と捕獲方法を一行に教えると、話を締め括る。
クラウド達はそれに従って、ピコを捕まえようと牧場を出て草原へと進んでいった。




* * *




クラウドたちは、野生のチョコボが生息する草原に来ていた。ここにピコが逃げ込んだらしいが……。



「みゅみゅみゅ~~~~!!この野菜はミュウのですの!盗らないでほしいですの!」


鳴き声を上げながら、逃げ惑うカーバンクルらしきモンスターとそれを追い掛けるチョコボがそこにはいた。

カーバンクルに似たモンスターは、ギザールの野菜をチョコボと奪い合っているようだ。その光景にティファが目を丸くしながら、こう呟いた。


「あれが……カーバンクル?」


その隣では、エアリスが驚いたような表情を浮かべている。どうやら、彼女の知識にも無いモンスターらしい。
クラウドたちも驚いているようで、目の前の光景を不思議そうに眺めていると、一番後ろにいたフキが叫んだ。


「なんだって、おまえがここにいるんだよ!?ブタザル!!」


フキが怒鳴り声を上げた先に、チョコボとカーバンクルモドキがいた。
フキの声に驚いたのか、チョコボは逃げだし、カーバンクルモドキは彼に向かって駆け寄っていく。


「みゅ~~~~~~っ!!お会いしたかったですの!坊っちゃま!!」

「ぼっ……」

「ちゃまだあ?」


レッドXIIIとバレットが困惑する中、フキに抱き着くカーバンクルモドキ。


「おまっ……、どうやってここまで来たんだよ?」


そして、フキもまた困ったようにカーバンクルモドキに言う。どうやら二人は知り合いのようだ。


「ご主人様に、坊っちゃまのお世話をするよう頼まれたんですの!」

「この場合、俺がおまえの面倒見るほうだろ。どう見ても……」


そう言ってフキは、ミュウを仲間達に紹介しようと眼前まで連れてきた。

ティファとエアリスがにこやかに笑い、男性陣は怪訝な表情でミュウを見詰める。
レッドXIIIは困惑していて、バレットはあからさまに警戒しており、クラウドに至っては目を細めながら凝視している有様だ。


「この子、カーバンクル……なんだよね?」

「いや、それが違うんだよ。こいつ、俺の故郷では聖獣、神聖なの生き物で、こんなんでも一応はありがたがられてるんだ。ちなみにチーグルっていうのがこいつの種族の名前」

「どうして、その聖獣……がここにいるの?」


ティファが尋ねると、ミュウはこう答えた。


「みゅ?ミュウは、ご主人様に坊っちゃまをお守りするよう、仰せつかったんですの」

「ご主人様?」


クラウドが聞き返すと、ミュウは答える。


「はいですの!坊っちゃまのお父さんで、ミュウの大事なご主人様ですの」


ミュウは、耳でパタパタと宙を飛びながらフキの方に乗り移ると、その首へと抱きつく。彼は再び困ったように眉を下げながら、ミュウの頭を撫でてやる。


「ずっとここでくっちゃべてても、埒が明かねえから、場所変えてもいいか?ピコも逃しちまったし」

「そうだな」


フキの提案にクラウドが頷くと、一行は彼の話を聞くため、一度グリン牧場まで戻ることした。







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