confus
「ドミノのジジイ……くれたファイル、間違ってんじゃねーか」
「フキのお母さんのファイル?」
「ああ、外側は"ガウナ・ヴァレンタイン"って表記してあるんだけどさ……」
フキはファイルをめくって見せる。
そこに載っていたのは……別の人の情報だった。
題名が書かれていたのは"ヴィンセント・ヴァレンタイン"という名前だ。
「合ってるの、ファミリーネームだけだね。家族か何かかな?」
「一般の平社員とかなら縁故採用、ザラにあるしな。神羅」
「ケッ、ズブズブの世襲制で公私混同三昧かよ!」
皮肉って笑うバレットに、フキがわざとらしい笑顔で返しながらファイルの中身を読み進めると……。
「え~~~~~~っと、なんだ……"ヴィンセント・ヴァレンタイン。最終職歴:総務部調査課"だぁ!?」
「え? それって……」
「"タークス"の正式名称だな」
これには思わず、クラウドも目を丸くした。
さらにその下に記載されている、個人情報を全員で読み進めてゆく。
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自己PR、趣味・特技などライフワーク:
総務部調査課にガウナ・ヴァレンタイン(続柄:妹)が在籍中。
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"ガウナ・ヴァレンタインが在籍中"という文字に全員の視線がフキへと向いた。
「母親だけじゃなく、その兄貴もタークスときたかよ……。もう、なんつったらいいのかわかんねえよな」
バレットは呆れ返った様子で、唸りながら首を振った。
「裏口入社だったとしても、タークスに兄妹揃って配属されているとなると、あんたの家系は、相当優秀なんだな」
「どうだか」
クラウドが見たフキの表情は複雑そうだった。
あまり触れてほしくない話題なのだろうかと、クラウドはこれ以上追求するのはやめておいた。
フキは履歴書の写真を見る。
無表情で気難しそうではあるが、確かに母に面影が似ていると思った。
何となく、自分のルーツが見えたようで嬉しかったのだ。しかし、その喜びも束の間。
最後のページを読み進めたあたりでフキの表情は一変するのだった……。
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[μ]-εγλ 1980 殉職。
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ここまで読むと、フキはさすがに堪えきれずにファイルから視線を外した。
ため息混じりに空を仰ぎ、自分の置かれた状況を再確認して、受け取ったばかりのファイルをその場で燃やした。
「いいのか?肉親の手がかりなのだろう」
レッドXIIIが言うと、フキは少しだけ笑って首を横に振った。
フキが燃やした資料を、バレットは未練がましく回収しようと試みたが、その火柱は瞬く間に消えたのだった。
クラウドには、彼の気持ちは分かるような気がした。
フキの母親の手掛かりは、永遠に失われた。
あの炎は、彼の悲哀が具現化したものなのかもしれない。
「つーかよぉ、おまえの名前は一体どれなんだよ?オレ達はガウナって呼んでんのに、エアリスとレッドはおまえのことをフキって呼んでたよな?」
バレットが、突然そんな質問をフキに投げかける。
フキは面倒くさそうに頭をかき、目線を逸らすように遠くを見た。
「あー、……偽名なんだよ。ガウナ・ヴァレンタインってのが。最近、顔のつくりが母さん寄りになってたし、母さんの名前を名乗れば、母さんの情報を少しでも得られるかもって思ってさ」
「それで、偽名を名乗ったってわけか」
バレットの言葉にフキが頷いた。
「うん……。だから、ごめん。バレット」
「ああ?」
「偽名使ってあんたのこと、騙してた。だから、ごめんっ!!」
フキは姿勢を正し、勢い良く頭を下げて、バレットに謝罪した。
本名を名乗らない方が自分にとって都合が良かったのも確かだが、考えてみればクラウドとティファにはここまでずっと、偽名で通してもらっていたのである。
バレットに、怒りの念を抱かれても仕方がないと思った。
しかし、バレットは怒るどころか、笑い声を上げて言った。
「んだよ、そんなことかよ。オレは別に気にしてねえよ」
「え?」
思わず顔を上げたフキに、今度はバレットが頭を下げて謝った。
「逆に悪かったな。おまえにとっちゃ偽名の方が都合が良いのは分かったけどよ……身内に神羅の人間がいるって言ったら、そりゃあオレ達には言えねえもんな」
バレットの素直な謝罪に、今度はフキが困惑した。
悪いのは自分だというのに、バレットが謝罪する理由などどこにもないのだから。
フキは他のメンバーをチラリと見やったが、皆とも特に怒るでもなく呆れ返るわけでもなく、ただその様子を見ているだけだった。
フキが本名を隠していたことは、今はどうでもいいことのように感じたのだ。
大切な人たちや星を守りたいと思う気持ちは誰もが同じで、だからこそこうして集まった仲間同士なのだと思うと、自然と心が温かくなったからだ……─────。