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ルーファウスがショットガンを構えると、クラウドに向けて放とうとする。しかし、それよりも早くクラウドが動いた。
ルーファウスが弾丸を放つより速く、クラウドは一気に間合いをつめるとバスターソードでショットガンを弾き飛ばした。

カランッと音を立てて地面に落ちていったショットガンを見て、ルーファウスは目を見開く。
ルーファウスは後退しようにも、背後には神羅ビルの断崖絶壁がある。逃げ場はなかった。


「神羅を潰すチャンスらしい」

「勘違いするなよ。神羅は生まれ変わる。私の手で」


ルーファウスがそう言った直後、プロペラ音とともにヘリが現れた。ルーファウスは、ヘリのスキッドを掴むとそのまま空高く舞い上がっていった。

クラウドがそれを見届けていると、ルーファウスが乗っていたヘリは突然空中で機体を反転させ、クラウドに銃口を向けた。
クラウドが咄嵯に防御の体勢を取ると、ルーファウスはニヤリと笑った。


次の瞬間、ヘリから連続発射された弾丸がクラウドを目がけて飛んでくる。
クラウドは、バスターソードを振り回して弾を斬り落とした。


「クラウド!!」


クラウドの足場がメッシュフェンスだったことに気付いたフキは、思わず声を上げる。
その刹那、クラウドの身体は上空へと投げ出されていた。クラウドはそのまま落下していく。

その光景を見たフキは、慌てて駆け出した。間に合わない―――!
その時、フキの後方から凄まじい勢いで、何かが飛び出してきた。そして、フキを追い越すと、クラウドの元へと走っていく。その人物はティファだった。


ティファは、地面を蹴り上げると、空中に投げ出されたクラウドの腕を掴み、自分の方へと引き寄せる。
フキも急いでティファの元へと走った。二人を引き上げると、フキはすぐに二人の容態を確認した。


「大丈夫か!?」

「ああ」

「うん……」


二人はなんとか無事のようだ。フキは安堵の息を漏らした。


「私たちよりも、ガウナのほうが怪我してるよ!?」

「え?ああ……」


ティファの言葉に、フキは視線を下に落とす。
確かに、ティファの言う通り、フキの右肩からは血が流れていた。


「それよりクラウド、わりぃ……。なんの役にも立ってなかったな……」

「気にするな。あんたは充分やってくれたさ」


クラウドが、申し訳なさそうな顔をしているフキに微笑みかける。


「……でも、あんたがいなかったら、ルーファウスには勝てなかった。……助かった」

「そっか」


フキは照れ臭そうに頬を掻いた。


「とにかく、ここから脱出しよう」

「だな」


ティファは辺りを見渡した。


「でも……どうやって?」

「それは……」


クラウドは言葉を詰まらせる。周りは高いビルに囲まれており、そもそも厳戒態勢がすでに敷かれているため、地上まで降りるのは不可能に近いだろう。


「この際、非常階段使うか?」

「時間がかかりすぎる。それに、増援が配置されてるかもしれない」

「じゃあどーすんだよ!?」


「……」


三人の間に沈黙が流れる。どうすればいいのか分からず、ただ時間だけが過ぎていく。
その最中、クラウドの頭にある考えが浮かぶ。


(これなら……)


クラウドは、ふぅっと大きく深呼吸をした。そして、ポケットからワイヤーガンを取り出した。
クラウドの行動に、フキとティファは目を見開く。


「いやいやいやいや……流石にそれはない」

「それ使って、大丈夫?」

「俺だって、こんなことしたくない」


クラウドは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら呟く。


「けど、他に方法がない」

「~~っ!!」

「……わかった」

「えっ」


クラウドの提案に、フキはなんとか反論しようとするが、それよりも先にティファが答えを出した。ティファは、クラウドからワイヤーガンを受け取ると、屋上の端の方へと向かう。
そして、屋上の縁に立つと、下のフロアの壁面に向かってワイヤーガンを放った。

ワイヤーは勢いよく伸びていき、その先についたアンカーが壁面に突き刺さる。
ティファは、そのワイヤーを巻き取ると、猛スピードで下に降りていった。
その様子を見ていたフキは、ゴクリと唾を飲み込んだ。

この高さから飛び降りるのは、初めてではない。
しかし、高層ビルからのダイブは恐怖心があった。


「ガウナ」


クラウドの声に、フキはハッと我に返る。
いつの間にか、クラウドがフキの隣に立っていた。


「行くぞ」

「……おう!」


だが、今ここで立ち止まっているわけにはいかない。
フキは覚悟を決めると、クラウドと共に屋上から飛び降りた。





三人が降り立った場所は、ちょうど建物の影になっており、他の社員たちから見られることはなかった。
クラウド達は、そのまま走り出す。その時、下の階から砲撃音が聞こえてきた。


「あれ、バレット達か!?」

「急ごう」


クラウド達三人は、さらに加速する。非常階段で3階まで駆け降りて、前方にカフェラウンジが見えてくると、クラウドはそこで足を止めた。


「どうしたんだよ!?」

「ここから先は、脱出用の足が必要だ」

「だったら尚更、早く行かないと……」


ティファの言葉に、クラウドは首を横に振る。その様子に、ティファとフキは困惑した。

クラウドが何を考えているのか分からない。
その時、クラウドはカフェラウンジの奥の部屋に視線を向ける。


「あそこって、ショールームだろ?」

「そうだ」

「……まさか、あそこの車を掻っ払うってんじゃねーよな?」

「その通りだ」

「はぁっ!?」


フキの質問にクラウドが答えると、二人は驚愕のあまり、声を上げる。


「馬鹿言ってんなよ!そもそも、ガソリン入ってんのかも怪しいじゃねーか!!」

「あそこには試乗車だって置かれている。燃料さえ入れれば問題ない」


クラウドは、再び歩き始めた。


「ちょっ、待てって!!」

「行こう、ガウナ」

「……ったく」


フキは、頭を掻きむしると、クラウドの後を追うようにティファについていく。
三人は、カフェラウンジを通り抜け、車が並ぶショールームへとやってきた。

クラウドは、すぐに展示されているバイクの一台に目をつける。
車体の色は黒。神羅製の最新型エンジンを搭載しており、凄まじい馬力を誇るが反面フレームの耐久性の低さやパワーバンドの狭さが問題になり、乗り手を選ぶモンスターマシンと呼ばれる代物だ。

クラウドは、そのバイクに近づくと、そのハンドルに手をかけた。すると、車体が僅かに振動した。
エンジンがかかったのだ。
それを確認すると、クラウドはシートに跨り、エンジンを始動させる。

エンジンがかかり、轟音を響かせると、クラウドはギアを入れてアクセルを回す。
タイヤが地面を擦る音とともに、一気にスピードが上がる。そして、そのままフロントロビーに向かって走っていく。


「ガウナ。私たちはどれにする?」

「……じゃあこれで」


フキは、神羅製の大衆向け自動三輪トラックを選んだ。


「いいね。私が運転していい?」

「ああ。頼む」

「任せて」


ティファは、運転席に乗り込むと、ハンドルを握る。そして、フキを助手席に乗せた。
二台の車は、勢いよく飛び出していった。

フロントロビーを疾走していくクラウドの後を追い、ティファの運転する車が追いついた。
ティファは助手席のドアを開けると、そこから身を乗り出して叫ぶ。


「みんな、乗って!」


ティファの呼びかけに、フキは助手席をエアリスに譲って荷台に飛び乗り、乗り終えたのを確認したティファはアクセルを踏む。
クラウドは、全員を乗せたのを確認してから、バイクを発進させた。


ミッドガル脱出まで、あと少し……。









「なんだよ、あれ!?」


バレットは、空を見上げて叫んだ。
ミッドガルの上空に、フィーラー達が浮遊していた。それは、ミッドガルの周囲を旋回しながら、徐々に高度を上げていく。
クラウド達は、その様子を見ていた。


「ウジャウジャ……だよな?」

「ああ……」

「なにが起こったのかな?」

「なんだろうね……」


バレット、ティファ、エアリスの三人が不安げに呟きながら、ミッドガルの上空を睨みつける。
そんな中、レッドXIIIが静かに口を開いた。


「来たぞ」


−−何が?と、聞かずとも知れている。
神羅の追手が、もうすぐそこまで迫っているのだ。


「くそ!」

「逃げるぞ」


クラウドがそう言うと、フキ達は、すぐさま行動に移った。

クラウドとティファは、バイクと車を走らせて、その場から逃げ出す。しかし、神羅兵達はどこまでもクラウド達をしつこく追いかけてくる。
走行中にも関わらず、クラウドは神羅兵の集団を撃退してみせた。


「しぶとい野郎だ……」

「あれ!」

「うそでしょ……!?」


ティファが指差す先には、クラウド達の行く手を阻むようにライオットシールドを構えた機動隊が道を塞いでいた。
どうやら、クラウド達の逃走経路にあらかじめ配置していたようだ。


クラウドが並走していた軍用車両を転倒させて、道を切り開くも、その度に機動隊が邪魔をする。
その繰り返しの末、クラウド達は神羅の包囲網を突破することに成功した。

ミッドガル・ハイウェイの終端まで辿り着いた途端、クラウドはそのままバイクを飛び降りる。
ハイウェイのはるか先にある上空を仰ぎ見、眉間にシワを寄せると、振り返って荷台にいるフキ達に視線を向ける。
フキは、クラウドが何を言いたいのか察したらしく、コクリと小さく首を縦に振った。


クラウド達は車を乗り捨て、徒歩でミッドガル・ハイウェイの出口へと向かう。
クラウドが先頭に立ち、その後ろにエアリス、ティファ、バレット、レッドXIII、最後尾にフキが並んで歩いていた。料金所をすぎると、クラウドは足を止め、立ち止まる。


そこには、セフィロスが待ち構えていた。

「てめえ!さっきは……」と、バレットが言いかけたところで、エアリスがバレットの前に腕を出して静止させる。
エアリスは、セフィロスを見据えたまま、言った。


「あなたは、まちがっている」

「感傷に曇った目には、なにも見えまい」


クラウド達が息を飲む中、エアリスはセフィロスの目をまっすぐに見つめていた。


「あなたはまちがっている!」


セフィロスの目が細まり、不敵な笑みを浮かべたのが分かった。クラウドも、セフィロスの出方を伺っていた。
だが、次に発せられた言葉に、クラウドは思わず耳を疑う。


「命は星を巡る。だが、星が消えれば、それも終わりだ……」


そして、クラウドはセフィロスに向かって声を張り上げた。


「星は消えない。終わるのは……おまえだ」


その言葉を待っていたかのように、クラウド達の背後からフィーラーの魚群が襲いかかってきた。
クラウド達を取り囲むようにして、フィーラーは空高く舞い上がり、やがて地上へと急降下してくる。


「運命の叫びだ……!」


セフィロスは興奮した様子で呟くと、両手を高く掲げ、天を仰いだ。
その瞬間、フィーラー達が一斉に、クラウド達の方へ向かってきた。吹きつけて来るフィーラー達の突風で身体のバランスを崩しながらも、クラウド達は必死に踏ん張る。


「クソッ、前が……ぁあああ!?」


フキは悲鳴を上げると同時に、膝をつき、頭を押さえた。
フキの脳裏に、どこかで見たような光景が映し出される。



ミッドガル近辺の荒野の高台で、ザックスが剣を構えている。
そして、ザックスは背後にいた、大量の神羅兵に向かって大声で叫んだ。


―――いらっしゃいませ~~!!


フキは思い出す。これは、あの日の記憶だ。
ザックスが死んだ、あの日の……。


「ザックス……!」


フキの口から、無意識に名前が漏れた。
クラウドが振り向くと、フキが地面に倒れこんでいた。


「ガウナッ!!」


クラウドは、慌てて駆け寄る。


「大丈夫か?」

「あぁ、ちょっと目眩がして……」


クラウドはすぐさま駆け寄り、抱き起こす。フキは頭を手で押さえながら、なんとか立ち上がった。
クラウドは、フキの無事を確認すると、すぐにフィーラーの方へ視線を戻す。
フィーラーの大群は、クラウド達に狙いを定めるように旋回していた。

当のセフィロスはフィーラーの群れを見据え、正宗を構える。一振りすると何もなかった宙に、次元の裂け目のようなものが現れた。
その空間へ足を踏み入れようとした時、セフィロスは一瞬、動きを止める。

そして、何かを思い出したかのよう振り返ると、クラウドとフキの瞳をじっと見つめてきた。
クラウドも、その瞳を睨むように見返す。


「早く来い。クラウド、フキ」


そう言うと、セフィロスは再び、次元の裂け目の中へと歩き出した。
セフィロスの姿が見えなくなると、クラウドは後を追おうとするが、その前にエアリスがクラウドの腕を掴み、そのまま引っ張っていく。


「ここ、分かれ道だから」


エアリスは、クラウドが行こうとした道を指差すと、小走りで先に進む。
そして、少し進んだ先で立ち止まると、くるりとクラウド達の方に向き直った。


「運命の、分かれ道」

「どうして止める?」

「どうして、かな……」


エアリスは困った顔をしながら、首を傾げた。


「向こうには、なにがあるの?」


ティファの問いに、エアリスはすぐに答えられなかった。
それは、エアリスにも分からない。ただ、行けば分かる。それだけだった。


「自由」


エアリスは、ぽつりと言う。その言葉に、クラウドは思わず目を丸くした。
ティファも、驚いた表情を浮かべる。


「でも、自由はこわいよね……まるで、空みたい」


フキは、エアリスの言葉の意味がよく分からず、眉間にしわを寄せて考え込む。
しかし、クラウドは、エアリスの言わんとしていることを理解した。


この先に待ち受けるものが何なのか、クラウドにはわからない。
だが、一つだけ、はっきりしていることがあった。


――俺は、俺の自由意志で、セフィロスを追うんだ。
クラウドは、真っ直ぐにエアリスの目を見る。その目は、決意に満ちていた。

エアリスは、クラウドの意志を感じ取ると、エアリスが口を開いた。


「星の悲鳴、聞いたよね?かつて、この星に生きた人たちの声。星を巡る、命の叫び」

「セフィロスのせいなんだろ?」

「うん。あの人は悲鳴なんて気にしない。なんでもないけど、かけがえのない日々……喜びや幸せなんて、きっと気にしない」


フキは、その言葉を静かに聞いていた。


確かに、あの人はそういう人だ。フキは思う。

初めて出会った時から、あの人は心を許してない他人には興味がなかった。
自分が興味を持てないものは、全て価値がないと思っているような男だ。だからこそ、弟子である自分を捨てたのだろう。

フキは、視線を落とす。
どうせ、あの頃には戻れない……。


クラウドは、エアリスからフキへと目線を移す。
フキは、何かを考え込むようにうつ向いていた。クラウドが声をかけようとすると、エアリスがそれを遮るように口を開く。


「大切な人なくしても、泣いたり、叫んだらしない」


その瞳は、どこか不安げに揺れていた。今にも泣き出しそうな顔をしていた。
それでも、涙を流さないのは、彼女の強さなのだとクラウドは思った。

エアリスは、ゆっくりと深呼吸をする。そして、再び口を開いた。


「セフィロスが大切なのは星と自分。守るためならなんでもする。そんなの、間違ってると思う」


その声色は、先ほどよりも落ち着いていた。


「星の、本当の敵はセフィロス。だから、止めたい。それをクラウドに。みんなに手伝ってほしかった。このみんなが一緒なら、できる」


その言葉を聞いて、フキは胸を打たれた。
あのエアリスがそんなことを口にするとは思わなかったからだ。

しかし、エアリスの言葉が嘘だとも思えなかった。それに、エアリスの目は本気だった。


本気でクラウドの力を、ここにいる皆の力を必要としている。
そして、クラウドもそんなエアリスに惹かれつつあった。


「この壁は、運命の壁。入ったら、越えたら、みんなも変わってしまう」


エアリスの悲痛の声が響く。
その言葉にクラウドたちは困惑し、戸惑いを見せる。だが、クラウド達の答えは既に決まっていた。クラウドはエアリスを見つめながら言う。


「迷う必要はない。セフィロスを倒そう……悲鳴は、もう聞きたくない」


クラウドの言葉に、エアリスは嬉しそうな表情を浮かべて微笑んだ。
そして、クラウド達は再び歩き出す。その足取りは軽く、迷いはなかった。




クラウド達がフィーラーの壁を越えると同時に、世界ががらりと劇的な変化を遂げるでもなく、かといって何も変わらないわけでもない。
景色は先程と相変わらず、ミッドガル・ハイウェイのままだ。だが、そこにある空気感だけは、確実に違っている。


今までとは明らかに違う雰囲気を感じ取る。
この先に、何かがある。それは予感というよりも確信に近い感覚だった。


「なんだよ!別に普通じゃねえか」


バレットが拍子抜けしたように声を上げる。確かに、これでは普通の光景でしかない。

クラウド達が見たような、得体の知れない化け物などいないのだ。クラウドは周囲を見回すが、特に変わった様子もない。
やはり気のせいだったのか? そんなことを考えている時だった。


「見て!」


エアリスが叫ぶと同時に、指差した方向に目を向けると、そこにはフィーラーの魚群と紫電を放つ竜巻が、こちらに向かってきている。


「おいおい、嘘だろ!」


クラウド達を取り囲むようにして、津波のように押し寄せてくる。
まるで意思を持っているかのように、それぞれが複雑な軌道を描きながら、クラウド達に迫ろうとしていた。

その勢いは凄まじく、このままでは飲み込まれてしまう。クラウド達はすぐにその場を離れた。


「マジかよっ!?」


フキは走りながら、思わず呟いていた。
迫り来る竜巻は、クラウド達が離れると共に、二手に分かれて挟み撃ちをするように襲いかかってきた。しかも、その動きは不規則かつ素早い。

逃げ場がないほどに、クラウド達の周りを取り囲んでくる。クラウドは舌打ちをする。
これは明らかに罠だ。

自分達が誘い込まれていると、クラウドはすぐに悟った。しかし、この状況で逃げることは不可能である。
激しい衝撃と風圧がクラウド達を襲ってくる。

なんとかして攻撃を避けようと試みるが、完全に避け切ることなど出来るはずもなかった。クラウド達はなすすべなく、竜巻に巻き込まれてしまった。
あまりの風の激しさに、クラウド達は身を守ることしか出来ない。


やがて、クラウド達を飲み込んだまま、竜巻は移動を開始した。そのまま、どこかへと運ばれていく。
視界が奪われているため、どこへ向かっているのかはわからないが、とにかく進むしかなかった。

どのくらいの時間が経過したか、フキは時間の経過すら曖昧になるほどの強烈な暴風の中、仲間の姿を見失わないよう必死に目を凝らす。だが、一向に仲間の姿が見当たらない。
一体、どこに消えたのだろうか。
フキは不安になった。


もし、自分だけ別の場所に飛ばされていたとしたら……。
その時、フキの耳に誰かの声が聞こえた。


──……フキ。


フキはハッとする。
今、名前を呼ばれた気がした。
フキは耳を澄ませる。今度ははっきりと聞こえる。


──……フキ。ソルジャーの誇りはどうした!?


間違いない。自分の名前を呼ぶ声がする。
フキはその方向に向かうことにした。

声がする方角に進むと、徐々に竜巻の動きが緩慢になってきて、次第にその威力を失っていく。
どうやら、目的地に近づいてきたようだ。


そして、ついに竜巻が消え去った時、目の前には信じられないものが映る。
轟音と共に建物は崩れ落ち、フィーラーによって巻き上げられた瓦礫や砂埃が雨のように降り注ぐ中、フキは空を仰ぎ見る。

そこにあったのは、巨大な瓦礫を足場に動いている人影が見えた。


「あそこまで行けるか?俺……」


フキは自信なさげに言うが、今は悩んでいる場合ではない。一刻も早く、あの場所へ行かなければならない。
フキは覚悟を決めると、その方向へと跳躍をした。





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