33




フキは、ジェノバBeatに向かって一直線に向かっていた。
ジェノバBeatは刀の形をした光を目の前に発生させ、フキがいる直線上に振り下ろそうとしている。しかし、今度はフキの方が早かった。

ジェノバBeatが光の剣を振り下ろした時にはもう、フキの姿はそこにはなかったのだ。
フキは、レーザー発射と同時にジャンプし、ジェノバBeatの後ろに回り込んでいた。そして、剣を一閃させた。


「……チッ!上手く逃げやがったか」

「フキ。もう一息、攻め続けるんだ」

「おう!」


フキ達は、次々と攻撃を繰り出していった。


「これで、どう!?」


ティファが、渾身の一撃を放った。
ジェノバBeatはその攻撃を避けようとしたが、間に合わなかった。直撃を受けたジェノバBeatの体が後方に吹っ飛ばされる。


「今だ!」


クラウド達が一斉にジェノバBeatに斬りかかった。


「終わらせる」

「やってやるぜ!」

「駆け抜ける!」

「ここで決めよう!」

「これで乗り越えよう!」


クラウド達も全力だった。
全員の攻撃がジェノバBeatに命中した。


「ク……ガァアア!!」


断末魔と共にジェノバBeatの体から黒色の煙が噴出した。
黒い煙は次第に消えていき、最後にはジェノバBeatによって操られていた男が解放され、床に倒れこんだ。

だが、その男も無数の小さな粒子となって飛び散り、消滅してしまった。それを見たクラウド達は、思わず顔をしかめた。
ジェノバBeatが消滅した後、セフィロスが持ち去った、ジェノバの胴体が現れた。

クラウドがそれを拾い上げようとした時、セフィロスはジェノバの胴体を手に取りながら、クラウドを見つめていた。セフィロスは何も言わず、突然、屋上の方を向いた。
クラウドは一瞬驚いたが、すぐにセフィロスの目線を追うように脇を振り返った。


すると、そこには本家アバランチのヘリが着陸しようとしていた。
クラウドが再びセフィロスへ目を向けると、既に彼は姿を消していた。



(まさか−−)


フキは嫌な予感を感じると、そのまま走り出した。


「フキ!?」


クラウド達もそれに続こうとしたが、致命傷を負って意識を失っていたバレットが、飛び起きる姿を見て足を止めてしまった。
その間にフキは屋上に出て、セフィロスがいるであろう電波塔のアンテナ脚柱に、辿りついていた。



そこに、フキの予想通り、セフィロスは立っていた。
フキが追いつくと、セフィロスは口を開いた。


「お仲間ごっこは楽しいか?」

「…………」


フキは無言のまま、黙って聞いていた。セフィロスは続けた。


「即席のままごと遊びにしては、よくできている」

「今日はなんだか、甚く饒舌ですね。−−セフィロス師匠」

「必要なものが手に入ったんだ。それに……愛弟子から久方ぶりに"師匠"と呼ばれたことで、浮かれているのかもしれないな」

「コピー体がいけしゃあしゃあと……」


フキは、苦虫を噛み潰したような顔になった。
一方、セフィロスは相変わらず涼しい表情を浮かべている。

フキが言葉を続けようと口を開きかけたその時、セフィロスは唐突に話題を変えた。


「製法は違えど、お前の父親もコピー体のようなものだろう?」


それは、まるで何事もなかったかのように、平然としていた。
フキは、少しの間呆気に取られていたが、やがて我に返ると、セフィロスに向かって怒鳴るように言った。


「父さんは本物だ!!あんたとは違う!」


怒りの感情がフキの体を包んでいた。
セフィロスは、フキの怒りに全く動じていない様子で、淡々と言葉を返した。


「そう思いたいなら思えばいいさ。所詮、私にとってはどちらも同じことだ。だが、忘れるな。お前が奴らと築いた関係は、紛い物にすぎない。いずれは綻びが生じ、崩れ落ちるだけだ」


フキは、歯を食い縛って耐えていた。再び、口を開くと今度は落ち着いた口調で、話し始めた。


「……何が、言いたいんですか?」


しかし、その目は鋭いままだった。
フキの言葉には、確かな怒気が込められていた。

そんなフキに対して、セフィロスは冷静な態度を崩さずに、質問に答えた。


「いずれ分かる時が来る。それまでは、奴らとの遊戯を楽しむといい」

「師匠!!あんたって人は……どこまで人をバカにすれば……ッ!!」


フキは再び声を荒げた。
だが、次の瞬間、フキはハッとした。


「セフィロス!」


フキの後ろから一つの人影が現れ、彼の前に立ったのだ。
その人物とは、クラウドだった。

クラウドはフキを押し退け、セフィロスの前に立った。そして、真っ直ぐにセフィロスを見据えた。
セフィロスは、クラウドの視線を受け止めると無言のまま、彼を見つめていた。


クラウドは更に電波塔の上まで登ろうと、梯子に手を掛けた。
だが、フィーラーに妨害され、上に行くことはできなかった。
フィーラーは、まるで獲物を狙う蛇のようにクラウドの周りを這い回った。その動きは、実に不快なものだった。

フィーラーに気を取られたクラウドを、セフィロスは嘲笑うように見た。その刹那、セフィロスの姿は黒いマントを羽織ったコピー体へと変わった。
コピー体は、ジェノバの胴体を抱いたまま、足場から飛び降りる。

落ちてきたコピー体は、二人とすれ違う形で一瞬だけ目を合わせた。コピー体の目が、怪しく光り輝いた。
フキは、その光景を見て愕然とし、目を大きく開いた。


(なん、だ……?この感覚は)


フキは、胸騒ぎを覚えた。
一方、クラウドはそれを追うように下へと梯子を降りていった。それを見たフキも、慌ててその後を追った。
先程、コピー体に感じた違和感について考えていたかったが、これ以上の思考を働かせることに躊躇っていた。


(俺の勘違い……だよな)


フキは途切れることのない、嫌な予感を振り払うことができなかった。

クラウドは、自分の存在に気付いたフキが追いかけてくるのを確認すると、そのまま電波塔の根元で彼を待った。
フキが追いつくと、二人は電波塔を背にして向かい合った。しばらく沈黙が流れた後、クラウドが先に口を開いた。


「俺が登ってくるまで、セフィロスと何を話してたんだ?」

「別に、何も……」


フキは、クラウドから目を逸らしながら言った。


「あんたとセフィロスは一体、どういう関係だったんだ?」

「……どうして、そう思うんだ?」

「勘だ。ただの」

「……」


また、しばらくの間、無言の時間が続いた。
フキは、何かを言いたげだったが、それを口に出すことができないでいた。その様子を見かねてか、クラウドが口を開いた。


「仲間だと思ってたのは、俺だけか?」

「……」


フキは、黙って俯いた。


「やっぱりな」

「俺は……」

「もういい」


クラウドはフキの話を遮ると、背中を向けた。


「あんたがどう思っていようと、ここまで一緒に来た仲だ。だから、あんたの邪魔はしない。だけど、もしも、あんたが間違った道に進もうとしているのなら、その時は容赦無く叩き潰す」

「おう」


フキは、小さく返事をした。
そして、再び歩き出した。その足取りは、いつもより重たかった。


フキは、心の中で呟いていた。
それは、フキ自身にしか聞こえないほど小さな声で……。


(いつか俺は、クラウドに殺したいって思うほど、憎まれるんだろうな……)


フキは、少し寂しげに笑った。
諦めにも似た感情がフキの心を満たしていた。

しかし、その反面、どこかスッキリした気持ちもあった。
クラウドの後ろ姿を見送ると、フキも歩みを進めた。







本家アバランチが用意した、脱出用のヘリが目の前で撃墜され、クラウド達は絶体絶命の危機に陥っていた。


「こういう時こそ、フィーラーの出番じゃねーのかよ……」

「んなこと言ってる場合か!?……同意するけどよ」


フキやバレットが悪態をつく中、クラウドはただ一人、真剣な眼差しで前方にいる人物を見据えていた。
その人物は、ゆっくりとこちらに近付いてくる。


「誰だ?あれ」

「ルーファウス神羅。プレジデントの息子だ」


フキの言葉に、バレットは静かに答えた。


ルーファウスは、父親譲りの金髪に整った顔立ちの男だった。
年齢はおそらく20代後半から30代前半くらいだろう。長身ですらっとしていてモデルのような体型をしていた。

武器を構えるバレットとフキに、クラウドが留め立てをする。
案の定、バレットが食いかかるが、「エアリスを家に帰すのが先だ」と、クラウドはそれを振り払った。

そんなクラウド達の様子を気に留めることもなく、ルーファウスは神羅兵達に向かって指示を出した。
すると神羅兵は銃を構え直し、一斉にクラウド達に照準を合わせた。


「あちらさんは、まだ俺達と遊びたいってよ」

「冗談きついぜ」


フキとバレットが苦笑いを浮かべながら、それぞれの得物を構えた。


「俺とガウナで時間を稼ぐ」

「俺ぇ!?」

「当然だろ。あんたを俺のそばに置いとけば、無理して隠し事をする必要もなくなるだろ?」

「んなっ!?」


フキの顔が、一気に青ざめた。


確かに、クラウドの言う通り、フキには秘事を隠し通すような器用さなど、あるはずもなかった。むしろ、この男の前では絶対に秘密を守り抜く自信がない。
だが、フキにとっては、単に墓穴を掘るだけでは済まない話なのだ。

クラウドに自分の過去を話してしまえば、クラウドは必ず自分を見失って暴走してしまうに違いない。
そうなった場合、クラウドを止めることができるのは、恐らくティファとエアリス、今は亡きザックスしかいないだろう。

彼らなら、きっとうまくクラウドを救ってくれるはずだ。だからこそ、間違っても自分がクラウドの過去や失われた五年間の記憶、その後のクラウドの人格に関する真相を明かすのは許されない。
そして、もしそれが露見してしまった時は……。


考えるだけで、背筋が凍るような思いになる。
それは、自分がクラウドの仲間でいる資格を失うことと、同義であるからだ。
クラウドを救いたいと願う反面、クラウドから拒絶されることが何よりも怖かった。


(でも、俺は……)


フキは、ぎゅっと唇を噛み締めると、覚悟を決めた。


「あ"~~、ハイハイ。残業してやるよ!」


フキがそう答えると、クラウドはニヤッと意地の悪い笑みをこぼした。


「ガウナ!クラウドを頼むぞ。おまえもぜーったい、クラウドと一緒にすぐに来い!」

「おう」


バレットに言われるまでもなく、クラウドのことは守るつもりだった。だが、自分にできることは、せいぜいクラウドの盾になることくらいだと、 フキは自嘲気味に笑んだ。


「行くぞ、ガウナ。援護してくれ。あと……俺の命はいつも、お前に預けてるからな」

「責任クソ重てぇじゃねーか……」


クラウドに背中を押されるように、フキはクラウドと共に走り出した。神羅兵達が二人に向かって発砲するが、フキは持ち前のスピードを生かし銃弾を掻い潜っていく。

一方、クラウドは、バスターソードを抜き放ち、正面にいた兵士に斬りかかった。
その勢いのまま、神羅兵全員を瞬く間に薙ぎ払ってしまう。その鮮やかな剣捌きに、思わず目を奪われた。


「俺の分も残しておけよなあ!」

「悪かった」


軽口を叩き合うクラウドとフキの眼前に、ようやく御本尊のルーファウスがお出ましになる。
ルーファウスは、クラウドの姿を視界に入れるなり、愉快げに目を細めてみせた。

それは、クラウドだけでなく、フキに対しても向けられていた。ルーファウスは護衛の兵に合図を送ると、後ろに下がらせる。


「おまえはソルジャーらしいな」

「……」

「となれば、私は雇い主だ」


ルーファウスは、ゆっくりとクラウドに歩み寄る。
クラウドは、ルーファウスに視線を向けたまま、皮肉な微笑を浮かべた。


「"元"ソルジャーだ。世話になったな」

「ひとりも逃がすな」


ルーファウスが命じると、控えていた神羅兵が一斉にエアリス達が逃げていった方向に駆け出す。


「させるかよ……アイシクルレイン!」


それを阻止しようと、フキが空中から氷柱を広範囲に降らし、進路を妨害する。
神羅兵の何人かが転倒したが、残りは撃ち漏らしてしまい、そのまま逃走していった。


「いい腕をしている。専属のソルジャーにならないか?」


フキの動きに感心しながら、ルーファウスは語りかけた。
ルーファウスの言動の意味を理解し、フキは挑むような嗤いを向ける。


「お兄さんのラザード統括の方が、あんたよりマシな上司だったぜ?」


フキの挑発的な態度に、ルーファウスは僅かに眉根を寄せたが、「ふっ」と鼻で笑う。


「過去のことは気にするな」


ルーファウスは余裕の表情を崩すことなく、二人に向き直った。

クラウドは、バスターソードを構え直し、ルーファウスを睨む。
フキも腰に差している刀剣の柄に手を当て、いつでも抜刀できる体勢を取った。


そんなクラウド達の様子を見ながら、ルーファウスはおもむろに、右手の指をパチンと鳴らす。すると、いつの間にかクラウドの背後の物陰に、軍用犬のダークネイションが現れた。
しかも、普通の大型犬とは違い、体格が一回りと大きく、毛並みも黒い。明らかに、ただの軍用犬ではない。


「んなの、アリかよ!?」

「ガウナ、来るぞ!」

「くそぉ!」


クラウドが警告を発すると同時に、ダークネイションはフキに飛びかかる。
フキは咄嵯に横に飛んで回避しようとしたが、反応が遅れたため、ダークネイションの前足による一撃を受けてしまった。


「ッチ、クラウド!俺はひとまずこっちの方、仕留めるからな!!」

「ああ!」


フキは立ち上がりざまに、勢いよく刀剣を引き抜くと、そのままの勢いでダークネイションに突進していく。しかし、その動きはダークネイションに見切られており、ひらりとかわされてしまう。
さらには、ルーファウスの援護射撃とダークネイションとの息の合ったコンビネーションが、フキを徐々に追い詰められていく。

その隙に、クラウドもルーファウスと対峙していたが、非常に隙が少なくなく、普通に攻撃をしてもかわされてしまい、逆にカウンターを仕掛けてくる始末だ。


「ガウナ、まだいけるか?」

「あぁ?誰に言ってんだよ!」


クラウドの問い掛けに、フキは強気な態度で返す。だが、正直なところ、かなり厳しい状況ではあった。
ルーファウスは、あくまでクラウドに狙いを定めて攻撃しているようだったが、フキが少しでも手を抜けば、クラウドが危ない。
ルーファウスがクラウドに集中してくれれば、フキも楽になるのだが、ルーファウスもなかなかのやり手のようで、フキに構うのを止めようとしない。

クラウドの方は、どうにか隙を見つけて反撃を試みてはいるが、やはり決定打に欠けるようだ。


(クラウドばかりに、無理はさせられねえしなあ……)


この場を切り抜けるためには、ルーファウスを倒すしかない。
だが、現状、ルーファウスが繰り出す多彩な体術と銃撃に加えて、ダークネイションとの連携攻撃まで加わるとなると、どちらか一人だけでは対処できない。

そうこう考えているうちに、フキはダークネイションの鋭い爪によって、肩口を斬りつけられてしまう。


「やっちまった……!痛ってぇ……」

「大丈夫か、ガウナ!しっかりしろ!」

「へーきだってーの……」


クラウドの声が耳に届いた途端、フキの意識が戦闘へと集中する。


「わりぃクラウド、ちょっとだけ囮頼んでもいいか?」

「何をするんだ?」

「一気には無理だけど、片方だけ動けなくさせちまえば、こっちのもんだろ?」


フキの提案を聞いたクラウドは、わずかに目を見開く。
そして、すぐにフキの意図を察したのか、ルーファウスに向かっていった。

クラウドがルーファウスに向かっていくのを見たフキは、すかさず歌唱魔法を発動する。


「トゥエ レイ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ」


フキの歌声が周囲に響き渡り、ルーファウスは思わず顔をしかめた。
彼の口から発せられた歌は、闇属性の魔力を帯びた旋律だった。


その旋律を聴いたダークネイションは、体に異変を感じ、その場で硬直してしまう。
ルーファウスがダークネイションの状態を確認しようとしたその時、クラウドがバスターソードを振りかぶった状態で目前に迫っていた。

咄嵯に銃口を向けるが、間に合わず、バスターソードの刃がルーファウスの左腕を襲う。鮮血が飛び散り、ルーファウスの腕からショットガンが滑り落ちた。
ルーファウスは、痛みを堪えながら後方に下がり、クラウド達から距離を取る。


≪こちら管制室。敵機確認。迎撃を頼む≫

≪了解≫


無線を通して、ヘリにいるルードのやりとりが聞こえてきた。
どうやら、ルーファウス一人でこの場は凌げると判断したらしい。それならそれで構わない。

クラウドはバスターソードを構え直すと、ルーファウスを睨みつける。


「俺たちをなめているのか?」

「まさか。ギリギリだ。ソルジャーを二人も相手にしているんだからな……だが、これがいい」


ルーファウスの方は、自分は無傷だとでも言うかのように、不敵な笑みを絶やすことはなかった。

手品のようにコインを二枚取り出すと、ルーファウスはそれを指で弾き上げる。
くるくると回転しながら宙を舞うコインをショットガン、そしてショットガンに取り付けてあった拳銃で撃った。すると、弾かれたコインは一瞬にして、無数の光線に姿を変える。


「なっ!?」

「ずりぃぞ!!」


クラウド達は慌てて回避行動を取ったが、光は二人の間をすり抜け、周囲の壁を焼き焦がしていく。
光が消える頃には、先ほどまでの重厚な与圧壁は見る影もなくなっており、真っ黒に焼け爛れてしまっていた。

その光景を目の当たりにしたフキは、呆然と立ち尽くしたまま呟く。


「えげつねぇ……」

「ダークネイションの身体活動を低下させた、おまえの歌の方が狡猾じゃないか?」

「そりゃどーも。褒め言葉として受け取っておくぜ」


ルーファウスは、フキの言葉を鼻で笑うと、今度はクラウドに向けてコインの銃弾を放つ。


「喜べ、遊んでやる」


クラウドは、飛んできたコインをバスターソードで叩き落とす。
その間にも、ルーファウスは次々とコインを飛ばしてくる。

フキもクラウドも、それを必死に避け続けていたが、このままではいずれ限界が来るだろう。
何か打開策はないだろうかと思考を巡らせていると、不意にあることを思い出す。


「クラウド、良いこと閃いたぜ」

「何をする気だ?」

「かなりきついけど、やっぱあいつらの動きをまとめて止めてみる。ルーファウスのみを相手するよりかは、犬との連携さえ断ち切れば、こっちのもんだろ?」

「分かった。タイミングを合わせるぞ」


クラウドは、ルーファウスの注意を引くため、あえて大きく前に踏み込んだ。
ルーファウスがクラウドに視線を向けた瞬間、フキは譜歌を発動させる。

ルーファウス達の足元に紫色の魔法陣が現れた。その魔法陣を見た、ルーファウスの顔色が変わった。
同時にダークネイションが吠え始める。

ルーファウスが魔法陣の発動を止めようと、フキに向かって駆け出そうとするが、クラウドがそれを許さない。
ルーファウスは舌打ちし、ダークネイションをクラウドに向かってけしかけた。ダークネイションは、鋭い牙を剥き出しにし、クラウドに襲いかかろうとする。


しかし、クラウドは冷静にダークネイションの突進を避けると、すれ違いざまにバスターソードを一振りした。
ダークネイションの首筋から鮮血が飛び散るが、致命傷には至らない。ルーファウスはダークネイションを下がらせると、クラウド達の様子を窺う。

一方のクラウドは、バスターソードを構えたまま微動だにしない。
まるで、ルーファウスが次に何を仕掛けてきても対処できると言わんばかりに。


「ガウナ、ここからは俺が決める。あんたはゆっくり休め」

「……独り占めかよ?」

「そうじゃない。ただ、俺がルーファウスとけりをつけたいだけだ」


クラウドは、バスターソードの切っ先をルーファウスに向けた。
その表情からは、迷いは一切感じられない。


「じゃあ、お言葉に甘えて、少しだけ休むわ。……もしもの時は、仇取ってやるよ」


フキは、ルーファウスを牽制するように睨みつけた後、後方へと下がった。ルーファウスはフキの行動を確認すると、口角を僅かに持ち上げる。

クラウドは、そんなルーファウスに向かって、ゆっくりと歩を進め始めた。
フキは、クラウドの様子を見ながら、そっと息を吐く。


(これじゃあ、俺、完全に足手まといじゃねーか……)


フキは、自分の無力さを痛感していた。

本来ならば、自分が前に出て戦うべきなのだ。だが、今の自分にはそれができない。
何故なら、五年間の植物状態の間に、ソルジャー時代に培ってきた体力や筋力が大幅に落ちてしまったからだ。
この状態では、いざという時に満足に戦えないどころか、クラウドの足を引っ張りかねない。

だから、クラウドは自分を先に下がらせたのだろう。
フキは唇を噛み締めた。


(ちくしょう!ザックスの腰巾着やってた時と、変わんねーじゃねーか……!!)


クラウドと共に戦いたい。
自分だって、一度はソルジャー・クラス1stまで登り詰めた身だ。仲間を守る盾ぐらいには、なってみせる。

しかし、現実は非情だった。
五年のブランクはあまりにも大き過ぎたのだ。その事実に、フキは拳を強く握りしめる。


クラウドがルーファウスとの距離を詰めていくのを眺めながら、フキは自分の不甲斐なさに打ちひしがれていた。





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