32





フキがクラウド達に追いついた頃には、もうすでに遅かったようだ。
クラウド達が辿り着いた場所は、どうやら社長室のようで、フキは社長室内の光景を見て愕然とする。


「今一度、正義とはなにかをよく考えたまえ。待ち時間はほとんどないがね」


プレジデント神羅の冷徹な声が響く。
部屋の中には、プレジデントとバレットが対峙していた。クラウド達は、部屋の隅でその様子を見守っていた。


「ひとつ教えてくれ。てめえの正義はなんだ?」

「馬鹿め!すぐにゴミになる包み紙などいらんのだ」


そう言って、プレジデントが手に持っていた銃の引き金を引こうとした刹那、断末魔を上げたのはプレジデントの方だった。


「ぐぁあああっ!!」


突然の出来事に、その場にいた誰もが息を飲む。
フキは、セフィロスがやったのだと瞬時に理解した。


プレジデントの胸を貫いたセフィロスの冷酷な瞳が、じっと彼を捉えている。
その姿を見たフキは、ゾクリと背筋が凍る感覚を覚えた。

セフィロスの威圧感に、フキは無意識のうちに息を飲んでしまう。しかし、そんなセフィロスの様子に、恐れを抱くどころか、逆にバレットは怒りを露わにした。


「てめえぇええっ!!」

「やめろ、バレット!!」


激昂し、セフィロスに飛びかかろうとしたバレットだったが、それをフキが必死に止めに入る。しかし、それでもバレットは止まらない。

フキを振り払い、再びセフィロスに向かって行こうとしたその時、正宗の切先がフキの頬のすぐ横を掠める。
あと少しずれていれば、間違いなくフキの顔面を貫通していたことだろう。


フキは冷や汗をかいた。同時に、自分が命拾いしたことに安堵する。
もしも、あの切先に少しでも躊躇いがあったならば、きっと自分は死んでいた。
それほどまでに、目の前にいる男の殺気が尋常ではなかった。


(でも、なんで……?)


なぜ、こんなにもあっさりと命拾いができたのか。フキは疑問に思った。
しかしその疑問は、次の瞬間に解消される。
フキの横を通り過ぎた、正宗の刃区に目がいったからだ。


「バレッ、ト……?」


その刀身は、真っ赤に染まっていた。よく見ると、それは血だ。
バレットの胸から流れ出る鮮血の色である。

その様子から、フキは確信した。
先ほど、バレットの突進を止めたのはこの正宗なのだと。
バレットが、咄嵯の判断でフキの命を救ったのだ。

もし、バレットが二人の間にいなければ、間違いなくフキも一緒に殺されていたことだろう。その事実に、フキはぞっとした。
それと同時に、自分の不甲斐なさを痛感させられる。

今の自分には、バレットを止めることができなかった。それなのに、自分はただ傍観しているだけ。
しかも、自分を守ろうとして傷付いた仲間を、見殺しにしてしまった。
悔しくて、情けなくて、涙が出そうになる。


「バレット、バレット、バレット……!!」


フキは何度も名前を呼んで、バレットに治癒魔法をかけた。
しかし、どれだけ回復させても、バレットの出血は一向に治まる気配がない。
まるで、心臓が鼓動するたびに、体中の血液が噴き出しているような錯覚さえ覚えてしまう。

フキは焦りを感じた。
このままでは、バレットは確実に死んでしまう。なんとかして助けたい。


「戻ってこい、バレット!マリンのもとに帰らなきゃだろ!?……クソ、なんで回復しねーんだよ!!」


フキは、ありったけの魔力を込めてバレットの傷口を塞ごうとしていると、突然後ろからフィーラー達が現れた。

フィーラー達は、前に見た時よりもさらに、禍々しい雰囲気を放っている。
そして、一体のフィーラーがバレットの身体に覆い被さった。


「バレットになにすんだ……ってぇ!?」


フキは慌てて、バレットを助けようとフィーラーに攻撃しようとしたのだが、その隙に他のフィーラー達がフキを取り押さえてしまった。いくら振り払おうとしても、全く歯が立たない。
フキは、もがきながら必死に抵抗したが、無駄だった。

そうこうしているうちに、フィーラーが、バレットの胸の傷口を包み込んでいく。すると、バレットの怪我がみるみると癒えていった。
どうやら、フィーラーはバレットの治療をしているらしい。

その様子を見て、フキはほっと胸を撫で下ろした。ひとまずは安心できる。
後は、この場を無事に切り抜けるだけだ。


フキはそう思い、ゆっくりと深呼吸をした。しかし、それも束の間だった。
突如、セフィロスが闇の力の渦に包まれたかと思うと、そのまま消え去ってしまった。

あまりにも唐突な出来事だったため、その場にいた全員が唖然としていた。そんな中、エアリスとレッドXIIIだけがいち早く我に返る。
クラウドとフキは、咄嵯に辺りを見渡した。
しかし、どこを探してみてもセフィロスの姿はない。


「こいつは……」

「あれが……すべての始まり」


レッドXIIIが呟くと、エアリスが答えた。

今し方、セフィロスがいた足下を見ると、地面からクリーチャーが出現している。
タコやイカのようなを足か触手持ち、頭と見られる部位は、どの凹凸が顔面なのかもわからない。その姿は、死神を連想させるものだった。


「どうなってるの?」

「幻覚だ。惑わされるな」

「つってもよ~~!!」


レッドXIIIが言うと、フキは困惑した様子を見せた。

レッドXIIIが目の前のクリーチャー、ジェノバBeatについて説明をする中、フキは改めて、自分が戦っていた相手が何者なのかを理解した。
ジェノバBeatは、クラウド達に背を向けると、今度はエアリス達の方に向き直った。


「くるぞ!」


クラウドは、二人に向かって叫んだ。


「クラウド、お前はエアリス達を頼む!!こいつの狙いを、俺に向けさせるから!」

「ああ、わかった!!」


クラウドはフキに言われた通り、エアリス達の元へ駆け寄った。レッドXIIIも、クラウドの後に続く。

ジェノバBeatは、クラウド達を見つけるなり、すぐさま攻撃を仕掛けてきた。無数の触手が、クラウドとレッドXIIIを襲う。
クラウドは、素早くバスターソードを振るい、触手を切り落とした。
レッドXIIIも負けじと応戦する。


触手を切り裂いては、次々と消滅させていく。だが、一向に数が減らない。
それどころか、むしろ増え続けているようにさえ見えた。


「きりがないな」


クラウドがぼやくと、レッドXIIIが言った。


「ジェノバの状態を見て、攻撃するしかない。あの両腕らしきものも、気になるが……」

「ああ、でも、どうやって?」


クラウドが尋ねると、レッドXIIIは黙り込んだ。
しばらく考え込んでいると、ふいに口を開いた。


「私が囮になろう」

「何言ってんだよ!?おまえ!」


少し離れたところで、二人の会話を聞いていたフキは思わず、声を上げた。
レッドXIIIは気にせず、続ける。


「案外、耳がいいな。私なら、奴の攻撃を避けながら、なんとか腕を狙えるはずだ。だから、クラウドとフキには私の援護をしてもらいたい」

「そんなことしたら、おまえが危ないだろ!?」


フキが反論すると、レッドXIIIは静かに答えた。


「大丈夫だ。これくらいの相手ならば、一人でも対処できる」


そう言い残し、レッドXIIIは走り出した。
同時に、ジェノバBeatも動き出す。

レッドXIIIは、向かってきた触手を軽々とかわすと、そのまま一直線にジェノバの腕に向かって突っ込んでいった。
迫り来る触手をかわしながら、なんとか右腕にたどり着いた。そして、渾身の力を込めて、尻尾打ちをお見舞いする。
しかし、レッドXIIIの一撃は、いとも簡単に弾かれてしまった。

それでも諦めずに、レッドXIIIは何度も飛びかかった。
一方、クラウドとフキは、レッドXIIIがジェノバBeatの注意を引きつけてくれている間に、作戦を立てていた。そして、ついにその時が来た。
レッドXIIIの合図で、二人は一斉に飛び出した。


「今だ!」


レッドXIIIの掛け声で、クラウド達はジェノバの左腕に斬りかかる。三人の攻撃が、見事に命中した。
すると、突然、ジェノバの身体が震え始めた。
まるで、痛みに耐えかねているかのように……。


「効いたか?」

「どうだろうな?なんにせよ、このまま畳み掛けるぞ!」


フキとクラウドは、さらに攻撃を繰り出す。


「うぉおおお!!!」

「やぁあああ!!」


フキとクラウドの連続攻撃を受け続け、とうとうジェノバの両腕の破壊に成功した。
ジェノバBeatは苦悶の声を上げながら、それと同時に苦しむような悲鳴を上げる。すると、次の瞬間、リフレクを発動させた。
ジェノバ本体を中心に、光のドームが形成されていく。


「なんだ、これは!?」

「……何をするつもりだ?」

「わっかんねー。けど、やばい予感がするぜ」


フキは焦っていた。それは、クラウドも同じだった。
この状況では、下手に動くことができないからだ。

しかし、レッドXIIIは違った。
レッドXIIIは、ジェノバに向かって突撃していったのだ。
ジェノバは、レッドXIIIを迎え撃つため、溜めていた光で闇の光線を発射する。レッドXIIIは、その攻撃に対して、臆することなく突進していく。


「レッド!!」


フキは叫ぶが、レッドXIIIはジェノバの放った闇の光線を間一髪のところで、回避した。その間にも、ジェノバの放つ闇の光線は、レッドXIIIに迫ってくる。
レッドXIIIは、必死の思いで逃げ回っていたが、やがて、その攻撃はレッドXIIIの目前まで迫っていた。
レッドXIIIは、覚悟を決めて目を瞑った。もう駄目だと悟った時、目の前が真っ白になった。


しばらくして、ゆっくりと目を開けると、そこには信じられないものが映っていた。
フキが、ジェノバの闇の光線からレッドXIIIを守ってくれていたのだ。


「フキ……」


レッドXIIIは、呆然としながら呟く。


「へへ、わりぃな。ちょっとだけ、間に合わなかった」


フキはそう言うと、その場から崩れ落ちた。
見ると、フキの左の太ももから血が流れ出ている。レッドXIIIは慌てて駆け寄ると、フキを抱きかかえた。


「今すぐ治療しよう!」

「やめろ!治療は自分でできるから……!」

「しかし……」


レッドXIIIは急いで、回復魔法を唱えた。だが、フキの状態は良くならない。
それどころか、どんどん悪くなっていく。

ガラスを砕くような鋭い音が、響き渡る。
レッドXIIIが装備していたケアルのマテリアが粉々になっていた。


「なぜだ!?」


レッドXIIIは混乱していた。今まで、こんなことは一度だってなかった。
しかし、現実に起こっていることだ。

どうしていいのか分からず戸惑っていると、フキは静かに語りかけてきた。


「だから、やめろって言っただろ?これからは、俺にマテリアを使うなよ」

「どういう意味だ?」

「こういう意味だ。俺にマテリアを使ったり、使わせたりしたらこうなる」

「何を言って−−」

「フキ!大丈夫!?」


その時、エアリスが駆けつけてくれた。
エアリスはすぐに状況を理解して、レッドXIIIと同じ行動に出た。なんと、自分のマテリアを使ってフキを回復させようとしたのだ。


「やめるんだ!」


レッドXIIIは止めようとするが、二人は聞かなかった。
それどころか、フキの傷はみるみると癒えていった。そして、フキは立ち上がった。


「ありがとな、エアリス。レッド、エアリスのこと守ってやってくれ!」

「あ、あぁ……」


レッドXIIIは、何が起こったのか理解できなかった。
ようやく我に返る頃には、フキが走り出していた。


「エアリス、フキはどういう人間なんだ?」


レッドXIIIは、戸惑いながらも尋ねた。
すると、エアリスは少し困った表情を浮かべながら、答えた。それは、まるで迷子の子供のように不安げな顔だった。


「そういう、体質って言えば……いいのかな?」

「どういうことだ?」

「星にとって、大事な人。それが、フキ」


レッドXIIIは、ますます訳がわからなくなった。
一体、フキは何者なのか……。


「星にとって、大事とは?」

「うん。わたしにもまだ、分からないんだ」


エアリスは、悲しげな声で答える。
レッドXIIIには、それ以上聞くことができなかった。






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