25
翌朝、クラウド達はリビングに集まり、エルミナの話を聞くことにした。
「エルミナ」
「エルミナさん……」
「あれから、神羅に連れて行かれたエアリスのことを考えてみたよ……」
エルミナは淡々と話し始めた。
クラウドの言う通りかもしれない−−と、一晩考えて出した結論だ。
エアリスがまだ生きている可能性はあるだろう。
仮に生きていたとしても、神羅がエアリスを簡単に解放するとは思えない。
ならば、せめてエアリスのためにできることをしようと思ったのだ。
「呼ばれている気がするんだ。だから……」
「私からも、お願いします」
ティファが頭を下げた。
クラウドとバレットは驚いた表情を浮かべたが、何も言わずにじっとしている。
エルミナは、小さく息をつく。
「薄々わかってたのさ……いつか、こういう日がくるんじゃないかってね。それでも……。エアリスを助けてやっておくれ!」
ティファに続いて、クラウドとバレットも力強く返事をした。
エルミナは、その力強い声を聞いて、安心したように微笑む。
そして、少しだけ寂しそうな顔をして言った。
エアリスを頼んだよ、と。
こうして、クラウド達は再び旅立った。
「でも、上までどうやって行く?鉄道は動いてないよね……」
「んじゃ、線路を歩くか!」
「今は非常事態だ。表立ったルートは、封鎖されていると思った方がいい」
「じゃあどうすんだ。裏ルートがあんのか?」
「そういうこと知ってそうな人って−−」
ティファが言いかけたところで、クラウドが答える。
「コルネオか……!」
そういえば、あの男なら何か知っているかもしれない。しかし、まだ確証はない。
だが、他に方法がない以上、コルネオの元に行くしかない。
クラウド達は、急いでコルネオの屋敷へと向かった。
◆
クラウド達が屋敷に到着すると、以前と違い、人気はなく、門番もいなかった。
クラウド達は不審に思いつつも、正面玄関から中に入る。
「誰もいねえな?」
バレットが辺りを見回しながら呟いた。
確かに、人の気配を感じられない。
クラウド達は慎重に、コルネオのお楽しみルームまで進んでいった。
扉に手をかける。すると、微かに物音が聞こえてきた。
(誰かいるな……)
クラウド達は顔を合わせ、お互いの意思を確認する。
クラウドが勢いよくドアを開け、部屋の中央へと駆けていく。その後ろから、ティファとバレット、フキが続いた。
クラウドが、間仕切り壁までゆっくりと近づこうとした瞬間、 真横から殺気を感じた。
クラウドは振り向きざまに剣を振り抜く。
鈍い音と共に、刃がぶつかり合う寸前で、相手の喉元ギリギリの位置で止まった。
相手は、拳銃を手にしていた。クラウドが睨みつける。
そこには、コルネオの部下であるチンピラが立っていた。
「えっと……ペイズリー!」
「レズリーだ!それで……なんの用だ?」
レズリーが銃を下ろしながら言う。
ティファは警戒しつつ、質問した。
「私たち、プレートの上へ行く方法を探してて、コルネオなら何か知ってるかもって」
「なるほどね……」
この男は、コルネオの片腕をしているはずだ。
何か情報を持っているに違いない。
「たとえコルネオが当てにならなくても、俺としては、あんたの方がよっぽど頼りになると思うんだけどな。つーか、俺としては、あんたを探してた」
フキは、レズリーが敵ではないと判断した上で話しかける。
レズリーは意外にも、あっさりと答えた。
「なんだ、それ。俺に拷問でもして、吐かせるつもりか?」
「ちっげーよ!なんつーかさ、あんた、不良になってはみたものの、基本的に善人だから、不良になりきれてないっていうか……」
レズリーは苦笑いを浮かべている。
クラウド達も思わず笑ってしまった。
そして、レズリーが口を開く。
「俺も、上に行く方法は知っている。……こっちに来い」
クラウド達は、言われるままについていく。
奥の部屋に入ると、そこには落とし穴があった。
梯子がかけられており、下に繋がっているようだ。
しかし、底が見えないくらい深い。
どうやら、ここから下に降りるらしい。
レズリーが先に降りていったので、クラウドたちも続くことにした。
長い時間、降り続けていた。ようやく地下下水道の床が見えてくる。
クラウド達は、無事床に着地し、辺りを見渡してみる。
一週間も経たないうちに、コルネオに落とされた場所へ、再び戻って来たのだ。
相変わらず、下水道内の岩肌の壁はひんやりとしていて、明かりは乏しく、かなり薄暗かった。漂っている悪臭が鼻をつく。
バレットが言った。
「本当に、上へ行く方法を教えんだな?」
「あんたらが仕事をしたらな」
レズリーが立ち止まり、こちらを振り返る。
バレットが一歩前に出て、右腕の銃を突きつけた。
「オレはまだ信用しちゃいねえぞ……少しでも、妙な真似しやがったら……ハチの巣にはなりたくねえよな?」
「それは、モンスターに頼む」
銃口を覗き込むようにして、レズリーは淡々と語り始めた。
レズリー曰く、自分はコルネオの腹心の部下ではあるが、荒療治向きではなく、どちらかと言えば頭脳派なのだと言う。
なので、あまり戦闘には参加せず、コルネオの側仕えに徹していたそうだ。
「おれひとりじゃ、さすがにキツい。でも、あんたたちなら楽勝だろ?」
クラウド達は顔を見合わせた。
確かに、クラウド達が力を合わせれば、下水道内のモンスターを倒すことは容易だろう。
「さっさと済ませよう」
クラウドがうなずいて、先頭を歩き出す。フキ達は彼の後に続いた。
しばらく歩くと、大きな水路の前に出た。
レズリーが手招きする。
「こっちだ。近くに、コルネオのしるしがついた扉がある」
クラウド達は言われた通り、近くにある鉄格子の扉を調べてみた。
すると、確かに、コルネオの印が刻まれている。
「ここ……前は閉まってた」
ティファが言った。
そういえば、前回ここに来た時、この扉は閉じられていた気がする。鍵が、かかっていたはずだ。
レズリーが懐から、小さなカギを取り出した。
どうやら、これを使わないと開かないらしい。
レズリーが開けてくれたので、クラウドたちは中に入った。
「安全確保、よろしく」
「……聞いてもいい?」
ティファがレズリーに話しかける。
彼は振り返って、こちらを見た。
「オーディションのとき、どうして助けてくれたの?」
「アニヤンに頼まれたからだ」
その目は少し寂しげだった。
ティファが続けて尋ねる。
「それだけ?」
「おれはあそこまで、捨て身にはなれなかった」
レズリーは視線を落としながら答える。
「えっ?」
「ほら、早く行ってくれ」
ティファが聞き返そうとしたとき、レズリーは話を終わらせてしまった。
クラウド達が進んでいくと、また扉があった。
どうやら、下水道内に隠されたコルネオの秘密の部屋に、通じているらしい。
「待て。もうすぐコルネオの隠れ家だ。ここからは、おれが先に行く」
レズリーが、クラウドたちを手で制した。
彼が先に部屋の前まで行き、周囲の様子を窺うと、すぐにクラウドたちに合図を送ってきた。
「ここか?」
「ああ」
「プレートの上へ行く方法は?」
「……中だ」
レズリーが指差す。
「最後まで付き合えって?」
クラウドは呆れたように息を吐いた。
レズリーが肩をすくめる。
「悪いね。だが、あんたたちには−−」
レズリーが答えようとした瞬間、クラウドたちの背後から、サッカーボールサイズのモンスターが現れた。
そのモンスターは、クラウド達に向かって突進して来る。
「うわっ!?」
フキが悲鳴を上げると同時に、レズリーはモンスターの体当たりを食らい、身体ごと吹っ飛ばされていった。
フキが慌てて駆け寄ると、床に転がっていたレズリーがうめき声を上げ、苦しげに身をよじらせる。
「それは……待て!」
レズリーが必死の形相で叫ぶ。
クラウド達が振り返ると、そのモンスターはレズリーが立っていた場所に落ちていた、小袋をくわえて走り去っていくところだった。
「あいつを追う……大事なものなんだ!ここの鍵が入ってる」
レズリーが叫んだ。
その言葉に嘘はないらしく、彼は身を起こすと、よろめきながらも、急いで立ち上がって追いかけようとする。
しかし、モンスターはすでに、通路の奥へと姿を消してしまっていた。
「追うぞ!」
クラウドはティファに呼びかけた。
フキもすでに、モンスターを追っている。クラウド達も、その後を追いかけた。
◆
下水道内を走ること数分、ようやくモンスターに追いついた。
「ここから先は、あいつらの根城だ。どこから飛び出してくるかわからない。油断するな」
レズリーの言葉に従い、慎重に奥まで進むと、広い空間に出た。
天井は高く、幅もある。まるで、倉庫のような部屋である。
壁には無数のパイプが張り巡らされており、部屋の中央では、巨大なボイラーが稼働していた。
その手前には、金属製の階段があり、その上には大きな扉がある。おそらく、別の区画に繋がる扉なのだろう。
クラウドたちが近づいて行くと、モンスターは警戒するように逃散し、どこかに隠れてしまう。
仕方なく、クラウドたちは辺りを見回しながら、慎重に歩を進めた。
「追いかけっこにかくれんぼかよ!」
「一人で探し回るよりは、マシだろ~~」
バレットが苛立たしげに言うと、フキが苦笑混じりに言った。確かにその通りかもしれない。
さらにしばらく歩くと、沈殿池室への区画があった。
どうやら、この区画で行き止まりのようだ。
ティファが溜息をつく。
すると、その音に反応したのか、モンスターが数体、姿を現した。
クラウド達は武器を構え、戦闘態勢に入る。
「来るぞ!」
クラウドの声に、全員が気を引き締めた。
クラウドはバスターソードを振るい、次々と襲いかかってくるモンスターを切り伏せていく。
ティファは、格闘術を駆使して敵を翻弄し、バレットは銃で応戦した。フキは魔法を使い、敵の動きを鈍らせている。
やがてモンスターの群れを倒し終えると、クラウドが先ほど盗られたレズリーの小袋を広い上げた。
中身を確認すると、そこには女性もののペンダントが見えた。
「返してくれ!!」
「それ……」
「返してくれ……!」
レズリーはクラウドの手の中にあるものを見ると、切迫した表情で懇願してきた。
その様子にクラウドは、思わず眉をひそめる。
だが、今ここで言い争っている場合ではない。
クラウドは無言のまま、袋の中から取り出したものをレズリーに手渡した。
それは、金色に輝く二輪の花のペンダントだった。
レズリーはそれを右手で受け取ると、大事そうに握りしめながら、深く頭を下げる。
「鍵じゃねえのか?」
「だな」
バレットが呟くと、フキが同意して、それに答えた。
「すまない」
レズリーは申し訳なさそうな顔をしながら謝る。
「こんな場所じゃ、"鍵を盗られた"って大袈裟に言わねーと、俺ら、お前について行かないもんな」
「ああ……」
フキの言葉に、レズリーは力なく返事をした。どうやら、何か事情があるらしい。
「おまえのもんじゃねえ、よな?……身内の形見か?」
バレットが尋ねると、レズリーは少し躊躇した後、ゆっくりと口を開いた。
「家族はいない」
「ってことは、コレのか?」
フキが小指を立ててみせると、レズリーは小さく頷く。
それから、彼はぽつりとつぶやくように話し始める。
半年前、レズリーの恋人がコルネオの嫁に選ばれたこと。
そして、彼女はコルネオに手籠にされて負い目を感じ、レズリーの前から姿を消したのだ。
クラウドたちがミッドガルのスラム街に住んでいるのなら、この話は別段珍しくもない。
「そのとき、突っ返されたんだ……ひどいだろ?結構いい値段したんだけどな……」
レズリーは悲しげに目を細めながら、気を取り直したかのように、明るい口調でそう言った。
なるほど。そういうことだったのか……。
恋人の置き土産ならば、取り戻したいと思うのは当然だろう。
フキは、心の中で納得する。
「ひどいのは、お前でも、お前の恋人でもないだろ。コルネオだ。だから、そのペンダントを売ったりしないで、ずっと持ち歩いてるんだろ?いつか必ず、彼女を取り戻せるって信じてるから……」
「ガウナ……。レズリー、あなたの目的って……」
ティファが尋ねると、レズリーは涙ぐみながら力強くうなずいた。
そして、クラウドたちに向き直り、真剣な眼差しを向ける。彼の瞳には決意が満ちていた。
おそらく彼もまた、ミッドガルで懸命に生きる者のひとりなのだろうと、クラウド達は感じ取った。
「復讐だ。……今さらだってことはわかってる。それでも片をつけないと、俺はどこにも行けないんだ。信じてるだけじゃ、ダメだからな」
レズリーが、静かに言う。
フキ達は、無言のまま、彼の言葉に耳を傾けた。
確かに、大切な人を取り戻すために、何の行動もしないまま、ただ待ち続けるのは難しい。
しかし、それだけの覚悟を持って行動を起こせる者は滅多にいないどころか、それを他人がとやかくいう筋合いはないはずだ。
クラウド達は、そう思った。
「好きにしろ。俺たちは上に行ければ、それでいい」
−−俺達にとって大事なのは、レズリーの目的ではなく、自分達に協力してくれるかどうかだ。
クラウドは、あえて突き放すような言い方をする。
クラウドの言葉に、レズリーの表情がわずかに明るくなった。
「わかってる。そっちはまかせてくれ」
レズリーは、しっかりとした口調で言う。
フキとバレットは、顔を見合わせると、同時にため息をつく。
これで、全員の気持ちがひとつになった。
「気に入ったぜ」
バレットが、レズリーの肩を叩く。
レズリーは、照れくさそうな笑みを浮かべると、それにこたえた。
「こっちへ進もう。近道だ」
◆
それからしばらくして、一行はレズリーとともにコルネオの隠れ家の前まで戻ってきた。
レズリーの話では、腹心である自らがコルネオのもとに赴き、奴を油断させなければならないのだという。
彼は、クラウド達にここで待っているように告げて、一人で部屋の中へと入っていった。
「あいつひとりで、本当に大丈夫かよ?」
バレットが、心配そうに扉の方を見ながら呟く。
レズリーの足取りは確かだったし、腕にも覚えがあるように見えたが、相手は何といってもあのコルネオなのだ。
彼が何を企んでいるのかわからない以上、安心はできない。
「ただ待ってるのも、性に合わないしな」
フキが答える。
クラウドは、しばらく迷っていたが、やがて意を決すると、フキ達に向かって言った。
「……行くぞ」
どうやら、彼は彼なりに何か思うところがあったらしい。それを聞いて、ティファが微笑む。
クラウドは、特にそれ以降何も言わなかった。
ティファも、フキも、そしてバレットまでもが、クラウドが言いたいことを察して、黙ったまま歩き出す。
四人は、レズリーの後を追って隠れ家の前室に飛び込んだ。
部屋の中は、相変わらず薄暗く、空気が淀んでいた。
正面には、簡素なベッドが置かれており、無造作に置かれている木箱からコルネオが顔を出した。
そのすぐ近くには、レズリーの姿もあった。
クラウド達は、前室との境の壁に身を潜め、室内の様子をうかがう。
レズリーが、ゆっくりと口を開く。
「レズリーです。コルネオさんに報告があってきました」
「ひとりか?」
「はい」
レズリーが、コルネオの問いにこたえる。
「ほひ?アバランチの子猫ちゃんたちは?つかまえてくるのが、おまえの仕事だろうが」
「すいません。そのことで報告が」
コルネオは、しばらくの間レズリーの顔を見つめていたが、途端に安堵した顔で、彼に自分の傍へ来るよう促した。
クラウド達は、思わず息を飲む。
レズリーは、緊張した面持ちで、コルネオの耳元まで近づくと、隠し持っていた拳銃を彼の額に向けた。
だが、引き金が引かれることはなかった。
それよりも早く、コルネオの指先が動いたからだ。
次の瞬間には、レズリーの手から銃が消えていた。
レズリーが、信じられないという表情を浮かべる。
レズリーが銃を向けようとした瞬間に、コルネオは躊躇うことなく爆発的な速さで飛び込み、銃のノズル部分を抑えると同時に、相手の手首を抑え、拳銃を取り上げてしまったのだ。
コルネオが、勝ち誇ったように笑う。
バレットとフキが隠れている壁の反対側では、ティファが驚愕の表情を浮かべたまま固まってしまっていた。
コルネオは、レズリーの腹に拳を突き入れる。
レズリーは、苦痛の声を上げてその場に崩れ落ちた。
「レズリー!俺がなんで隠れてるか、知ってるよなあ!?」
「……」
「アバランチの子猫ちゃんに、ちい~~っと喋りすぎて、神羅に睨まれちまったんだよ……」
クラウド達のいる方からは、遠目からしか二人の姿は見えないが、それでもコルネオの怒気が伝わってきた。
フキは、飛び出しそうになる自分を必死に抑えつけ、目の前で行われている光景に目を凝らす。
「プレートがどがががーんで、もっともーっと被害が大きくなるはずが、あいつらがスラムのやつらを避難させちまいやがって……」
レズリーは、苦しそうに顔を歪めた。
クラウド達が起こした行動は、結果的にコルネオの計画を破綻させることになった。
そのせいで、コルネオの怒りを買ってしまったのかもしれない。
コルネオは、さらに続けた。
「ここだけの話、神羅はミッドガルを捨てて、新しい楽園を作るつもりだ。俺はそこで、新生ウォール・マーケットのドンになるはずが……!今はお尋ね者……」
そこまで言うと、コルネオは床に転がっているレズリーに耳打ちした。
「レズリー!おまえには、新しい店をまかせようと思ってたのによぉ~~。残念だよ」
レズリーは、苦悶の表情を浮かべながら立ち上がろうとする。
しかし、そんな彼をコルネオは大声で笑い飛ばした。
「さ~~て、問題です!俺たちみたいな悪党が、こうやってべらべらと真相を喋るのは、一体どんな時でしょう~か?」
以前、コルネオの館を訪れた際にも同じような問いかけがあった。
その時は、クラウド達を油断させるためだとばかり思っていたが……。
楽しそうに告げる死神の宣告には、どこか狂気じみたものが感じられた。
「勝利を確信している時……」
レズリーは、呟く。
そうだ。コルネオは、最初から自分が優位であると確信し、相手を完全に侮っているのだ。
コルネオは、奪い取った拳銃をレズリーのこめかみに構え、不敵に笑って見せた。
「正解」
コルネオは、引き金を引こうとする。
「本当にそうか?」
「ほひ?」
だが、それよりも早く、クラウドはコルネオの背後へと忍び寄っていた。
クラウドは、コルネオの首にバスターソードの刃を押し当てる。
「おまえら……」
突然現れたクラウド達に、コルネオもレズリーも驚いていた。
「七番街の件、詳しく聞かせてもらおうか」
バレットは、コルネオに向かって淡々と告げる。
ティファは、ほっとした様子で胸を撫で下ろしていた。
フキは、レズリーの傍にかけよると、治癒魔法をかけながら、安堵のため息をつく。
「あ~~~~~~あっ!」
「てめえ、ふざけてんのか?」
バレットが怒鳴りつける。
コルネオは、どこかに指をさす仕草を見せた。
そして、バレットを見上げ、にやりと笑う。
「ほひ~~、残念!でも、ふざけてないんだな、これが」
次の瞬間、激しい揺れが起こった。
まるで地震のように、建物全体がぐらりと傾いだ。
フキとレズリーは、バランスを崩して転倒しそうになる。
クラウドとティファ、バレットの三人は、何とか踏み留まることができたが、足元から伝わる振動に思わず膝をついた。
何事が起きたのか分からず、クラウド達は辺りの様子を窺う。すると、天井からアプスが現れた。
コルネオは、笑みを浮かべたまま、一目散に部屋の出口を目指す。
「それじゃあ、アプスちゃん。あとはよろしくぅ~~!グッバーイ」
「野郎!」
バレットがコルネオを追いかけようとする。
だが、その前にアプスが立ちふさがった。
クラウド達は、それぞれの武器を構え、戦闘態勢に入る。
「まずはこいつを黙らせる……!」
クラウドの言葉に、三人は静かに首肯する。
クラウドは、バスターソードを振りかざすと、アプスに斬りかかった。
しかし、アプスはそれを軽々と受け止めると、クラウドの剣を弾き飛ばす。
「終わりの安らぎを与えよ、フレイムバースト!」
その隙を狙って、フキが《フレイムバースト》を唱えた。
小規模な炎の爆発が、アプスを襲う。
中級魔法ではあるものの、それなりに攻撃力の高い魔法だ。並大抵のモンスターならば一撃で倒せるだろう。
だが、それでもアプスは平然と立っていた。フキは、驚愕の表情を浮かべる。
そこに、ティファがきりもみ回転の飛び蹴りで突進してからアプスの角を蹴り飛ばし、その反動でバック宙を舞うと、着地と同時にバレットが銃を構えた。
狙いは、アプスの両眼。バレットは、連続で発砲する。
《ファイアボール》や《フレアトーネード》といった攻撃系の呪文と違い、《グレネードボム》は純粋にダメージを与えるだけの銃弾である。
バレットの放った弾丸が、次々と取り巻きのアプスベビーにも着弾していく。
しかし、バレットの予想に反して、群れのボスであるアプスには今ひとつ効いている様子がなかった。
バレットは舌打ちをする。
「ちっ、硬いな」
「バレット、こいつは俺がやる」
クラウドは、そう言うと、バスターソードを構える。
「わかった。んじゃ、お手並み拝見といくか」
バレットは、クラウドの後ろに下がると、援護射撃の体勢に入った。
クラウドは、バスターソードを握る手に力を込める。
そして、地面を強く蹴って飛び出した。
アプスとの距離を一気に詰める。
クラウドは、そのままバスターソードを振るうと、アプスの左角を破壊した。
クラウドの攻撃が命中する度に、金属音のような音が響く。
どうやら、アプスの体表を覆う鱗は、かなり頑丈なものらしい。
クラウドの斬撃は、ほとんどダメージを与えられていないようだ。
それでも、クラウドは諦めずに、何度もバスターソードを叩きつける。
アプスベビー達が、クラウドに襲いかかろうとするが、それをティファとバレットが食い止めた。
「ガウナ、ファイア系の魔法を頼めるか?」
「任せろ!」
フキは、クラウドに頼まれて、すぐに《エクスプロード》を唱え始める。
詠唱が終わると同時に、ティファがアプスの注意を引きつけながら後退した。
「バレット、クラウドの援護をして!」
「おうよ」
クラウドの背後に回ったバレットは、アプスに向けて銃撃を続ける。
ティファに注意が向かないよう、クラウドへの攻撃に集中していたアプスだったが、バレットの妨害に苛立ちを覚えたのか、標的を変えた。
アプスベビー達をかき分けつつ、バレットへと迫る。
だが、その進路上にクラウドが立ち塞がった。
クラウドは、バスターソードを横薙ぎに払う。
アプスベビー達の体を切り裂きながら、アプスの頭部に直撃した。
再び、金属同士がぶつかり合うような甲高い音が鳴り響いた。
アプスの強固な皮膚に阻まれつつも、クラウドの剣先がわずかにめり込む。
クラウドのバスターソードは、そんじょそこらの剣よりも遥かに重量がある。そのため、威力も大きいのだ。
さらにクラウドは、バスターソードを振り抜くと、返す刀でアプスの腹部に強烈な一撃を加える。
その衝撃で、アプスの巨体が後方へ吹き飛ばされる。
「やったか……?」
「いや、まだだ! 気をつけろ、ガウナ!」
クラウドの言葉通り、アプスはすぐに起き上がる。
だが、その動きは明らかに鈍っていた。
そこへ、追い討ちをかけるようにフキが魔法を放つ。フキの魔法は、正確にアプスを捉えていく。
さすがのアプスも、これにはたまらずに悲鳴を上げる。
「いけるか、クラウド!」
「ああ、これで終わりにするぞ」
クラウドは、大きく息を吸い込んだ後、力強く踏み出した。クラウドが走る。
アプスとの間合いが急速に縮まっていく。
「はぁああっ!!」
裂帛の気合と共に放たれた渾身の突き攻撃が、アプスの胴体に深々と刺さる。
そして、クラウドはそのまま力いっぱい押し込んでいった。
やがて、アプスの口から大量の血が流れ出る。
アプスの全身から力が抜け落ちていった。アプスの体は、ゆっくりと前のめりに倒れ伏す。
クラウドは、静かにバスターソードを引き抜いた。
すると、アプスの巨体が地面に倒れると同時に、巨大な地響きが起こった。
「終わったみたいだね……」
ティファが安堵のため息をつく。
「ああ、なんとかな」
クラウドは、額の汗を拭いながら答えた。
「みんな、怪我ないか?」
フキが心配そうに尋ねてきた。
幸いにも、クラウド達は誰一人として大きなダメージを受けていなかった。
しかし、フキの表情を見る限り、無傷では済んでいないようだ。
それも無理はない。
アプスベビーもいたとはいえ、あれだけの数を相手にしたのだ。無傷であるはずがない。
「大丈夫だ」
「オレも特には問題ないぜ」
「私も平気」
「わかった。疲れてるとは思うけど、早くこの場を離れようぜ」
フキが提案してきた。
倒したとはいえ、他のモンスターが自分達を襲ってこないとは限らない。
この場所を離れた方がいいと判断したのだろう。
クラウドもそれには賛成だった。ティファやバレットと顔を見合わせる。
全員がうなずき返した。
それを確認したクラウドは、すぐに行動を開始した。