23




フキ達が、七番街スラムに戻ってみると、そこは瓦礫の山になっていた。
プレート落下の影響で倒壊してしまった建物がいくつもあり、道端に瓦礫が散乱している。

幸いにも死者は少ないようだったものの、ライフラインは完全に停止してしまっていた。
七番街の人々にとっては、まさに地獄絵図のような光景だ。


フキ達は、早速、セブンスヘブンの確認に向かったのだが、そこには、変わり果てた姿の店があった。
店の前にあった看板は、爆風と熱でひしゃげたのか、地面に落ちていた。

見る影もなくなった建物に、ティファは絶句する。
彼女にとって、セブンスヘブンは、思い出の場所なのだ。

クラウドもまた、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。
バレットは、複雑な心境なのか、黙り込んだままであった。
そんな三人を見て、フキは、彼らに声をかけようとした。

だが、それよりも先に、大事なものを抜き取られたようにティファは、セブンスヘブンへ近づこうとする。


「ティファ!」


クラウドが慌ててそれを止めようと腕を掴むと、彼女が立っていた場所にコンテナが落ちてきた。
クラウドがティファを引き寄せなければ、彼女は大怪我をしていただろう。

彼女の身を案じての行動だったが、クラウド自身も驚いた様子で目を大きく見開いていた。
一方、ティファの方も、驚きを隠せないようで呆然としている。


そんな中、どこからか猫の鳴き声が聞こえてくる。
どうやら、誰かが飼っていたらしい野良猫であるようだ。


「ウェッジの猫だ……!」


クラウドは、そう言うなり、辺りを探し始めた。

クラウドの視線の先を追うと、そこには、三毛猫がいた。猫は、必死になって鳴いている。
しかし、肝心の飼い主の姿はない。

猫は助けを求めるように、どこかへ走り出した。


「行ってみよう」


ティファの言葉に、フキ達もうなずく。
そして、クラウドが追いかけると、他の者達もそれに続き、全員で後を追った。









猫を追いかけていくと、そこには、異様な光景が広がっていた。

陥没したスラムの地下には、下水道ではなく、壁に神羅のロゴが描かれたシェルターが存在していた。
まるで、神羅ビルの内部をそのまま持ってきたような場所だった。

おそらくここは、神羅が秘密裏に作った地下施設なのだろう。


「ウェッジ……?」

「ウェッジ!」


フキは、警戒しながら、クラウド達の後に続いていると、聞き覚えのある名前をティファとバレットが叫んだ。
どうやら奥の通路に、ウェッジがいるようである。

フキは、二人に続いて、通路の奥へと進もうとするが、床が激しく揺れるのを感じた。
地震だろうかと思ったが、それは違った。


自分の足元を見ると、床が抜ける。
フキは、すぐにその場から離れようとしたが、既に手遅れだった。
そのまま、なす術もなく、真っ逆さまに落ちていく。

激しい衝撃とともに、視界が暗転していく。
フキが意識を失う直前、クラウドの声が遠くに聞こえる気がした。



意識を取り戻すと、フキは、冷たい地面の上で横たわっていることに気づいた。体を起こすと、周囲を確認する。
自分が落ちた場所は、どうやら、下水道ではないようだ。

暗くてよく見えないが、何かの室内のように見える。
部屋の中を見渡すが、明かりがないせいか、ほとんど何も見えなかった。


「ん……、ガウナ?」


近くで寝ていたのか、ティファが目を覚ます。


「ティファ、怪我はないか?」


フキは、彼女を安心させるために笑みを浮かべた。
すると、ティファも微笑む。


「うん、大丈夫」


ひとまず、ティファが無事なことに安堵する。
しかし、クラウドやバレットの姿は、見当たらない。

あの時、一緒に落ちてきていないということは、別々の場所に落とされたのかもしれない。そうなると、合流は困難になる。


クラウドとバレットは、強い。
だが、同時に無鉄砲でもあるため、単独行動させるのは危険だ。

早く、二人と合流しなくてはと焦る気持ちを抑えていると、ティファが不安げに話しかけてきた。


「クラウド達、大丈夫かな……」


彼女もクラウドやバレットを心配して、落ち着かない様子だった。
ティファの気持ちもわかるが、ここで慌てるわけにはいかない。

フキは、彼女に、優しく声をかけた。


「……多分。それに、クラウドはソルジャーだから、普通の人よりは頑丈にできてるさ」


今、すべきことは、冷静になることだと自分に言い聞かせながら、ティファに手を差し伸べる。

クラウド達がどこにいるかわからない以上、下手に動くべきではない。
フキは、そう考え、ティファを元気づけようとする。


「そういうガウナも、ソルジャーなんだよね?」

「えっ!?」


しかし、予想外の言葉に戸惑う。

ソルジャーという言葉に、胸騒ぎがする。
ソルジャーという単語が、嫌な記憶を呼び起こすのだ。


フキが動揺していると、昆虫型のモンスターが襲い掛かってきた。
咄嵯に、フキは刀剣を抜き、迎撃しようとするが、その必要はなかった。

なぜなら、ティファが素早く動き、正拳突きで殴り飛ばしたからだ。昆虫型モンスターは壁に叩きつけられ、息絶える。
ティファは、得意気に鼻を鳴らした。


彼女は、クラウドやバレットに比べると小柄ではあるが、それでもフキより攻撃力が高い。
しかも、普段から武道の鍛錬をしているだけあって、素早さもある。ティファは、格闘の天才だった。

フキは、そんなティファのことを羨ましく思っていた。
自分は、剣技と魔法の腕こそ優れているものの、それ以外は平均以下である。


このミッドガルで生きるためには、それなり以上の戦闘能力が必要だ。
フキは、それを理解しているため、自分には武術の才能がないことを早くに悟ることができたのだ。

そのため、せめて強力な魔法だけは操れるようにしようと思い、独学で練習している。
もっとも、使用する魔法によっては、未だに魔力操作に関して、苦手意識があるのだが……。
とはいえ、剣術の腕も継続して磨いているので、接近戦ならばそこそこ自信があった。


だが、クラウドのようなパワータイプには、まるで歯が立たないだろう。
フキは、クラウドが背負っていたバスターソードを思い出し、自分の非力さに溜息をつく。

クラウドとバレットなら心配ないと思う反面、自分ももっと強くなりたいと思った。
ティファの強さを見て、自分だけが置いていかれているような感覚を覚える。フキが物思いに耽っていると、


「ねえ、ここって何なのかな?」


ティファが、施設内を見渡していた。

確かに、ここは一体なんだろうか。
照明がないため、室内の様子はわかりにくいが、かなり広い空間なのは間違いなさそうだ。
そして、室内には、奇妙な形をした機械が並んでいる。


「……わからない。でも、何かの実験場だと思う」


おそらく、ここは生き物に関する実験を行うための場所だろうと推測する。
フキの言葉を聞いて、ティファの顔色が変わった。

彼女が何を考えているのか、手に取るようにわかる。
このままではマズイと思い、フキは慌てて口を開く。

これ以上、ティファの機嫌を損ねるわけにはいかない。
今は、一刻も早く二人と合流するべきだ。


「とにかく、ここから出よう。もしかしたら、先に進んでるかもしんねーし……」

「おい、ティファ、ガウナ!」


突然、背後からバレットの声が聞こえた。
振り返ると、バレットが駆け寄ってくるところだった。

どうやら、無事だったようだ。
フキとティファは、ホッと安堵した。


「ケガはねえか?」

「うん、大丈夫」

「よし、まずはウェッジだ。急ぐぞ」


二人は、バレットと合流したあと、モンスターの巣を破壊して部屋の奥へと向かった。
奥に進むと、そこには広やかな部屋があり、一人の男が倒れていた。その男に見覚えがあった。

確か、ウェッジとかいうアバランチのメンバーである。
バレットが近づき、ウェッジの状態を確認する。


「ウェッジ!」


呼びかけても返事はない。完全に気絶しているようだ。

ティファが、ウェッジの胸に耳を当てる。
すると、心臓の鼓動が聞こえると同時に、微かにうめき声が漏れる。

呼吸はしているが、予断を許さない状況であることがわかる。
フキは、すぐに回復魔法を唱えた。


「最低限の治癒術はかけたから、心配はないと思うぜ」


その様子を見ていたティファは、バレットに向かって言った。


「よし、行こう」

「お、おう。ったく、重てえなあ」


バレットは、ウェッジを背中に担いだあと、 すぐに出口へと向かって歩き出した。
三人が外に出ようとしたとき、突然、ティファの動きが止まった。



「バレット!」


ティファの視線の先を見ると、部屋の中央に人影が見える。
暗がりでよく見えないが、物陰から何かが動くのが見え、やがてそれは姿を現した。


全身が真っ黒に染まり、所々赤く光っているものの、姿形は全くわからない。肩甲骨からは触手のようなものが生えていた。
ただ、人型であることだけは間違いない。

ティファは、静かに拳を構えたあと、フキに目配せをする。
フキは、無言のまま刀剣を構える。
謎の生物は、こちらの様子を伺うように立ち止まっていた。


「神羅のもんは、全部ぶっつぶす!」


バレットが大声で叫ぶ。
その瞬間、ティファが飛び出していった。
それに合わせるようにして、フキも走り出す。

二人の動きに反応したのか、黒い人型が動いた。
同時に、ティファが飛びかかる。バレットもガトリングを構えながら後を追った。

弾丸は命中したものの、全く効いている様子がない。
それどころか、倒してもすぐに増援が追加で現れる始末だ。
まるでゾンビのような敵を相手にしている気分になる。

フキとティファは、必死に戦い続けた。
バレットは、ガトリングを撃ち続けている。
しかし、一向に敵の数が減らないことに苛立っている様子だ。


フキとティファは、息が上がり始めていた。
このままでは、いずれ体力の限界が訪れるだろう。
そのとき、フキ達の目の前に巨大な怪物が現れた。

怪物は、他の個体と比べて一回り大きく、背中には四本の触手が生えている。
おそらくこいつが親玉に違いない。
フキ達は、咄嵯に武器を構えた。

フキは、怪物に向けて斬撃を放つ。
ティファも負けじと、渾身の一撃を放った。


「おっと、お疲れか?」

「あそこ!」


ティファが指差した先には、複数回、モンスターの触手を破壊して、動きが悪くなっていた姿がある。
三人は、その隙を逃さず、次々と攻撃を繰り出していく。
そして、ついに、仕留めたと思った矢先だった。

突如としてモンスターが最期の足掻きと言わんばかりに、暴れ狂うように攻撃を始めた。
モンスターは、三人に近づいていく。


(どうする……)


フキは、思考を巡らせる。

このまま戦っても勝ち目は薄い。
逃げるしかない。しかし、どこに?
このフロアには出口がない。
逃げ道は完全に塞がれている。


ティファも同じ考えに至ったようで、悔しそうに歯ぎしりする。
バレットはというと、まだ諦めていないようだ。


モンスターが、フキに向かって飛びかかってくるも、頭上から一太刀でモンスターを斬りふせた影が落ちてくる。
その正体は、クラウドだった。

クラウドの剣技によって、モンスターは怯む。


「クラウド!」

「おせえぞ!」


バレットが喜びの声を上げる。
クラウドは、フキ達を一通り見渡したあと、一言だけ告げる。


「出番だ」

「遅れてきて、指図してんじゃねえ!」


バレットは文句を言いつつも、どこか嬉しそうだ。

右腕の銃にパワーを集めて、巨大なエネルギー弾をモンスターに向け、撃ち放つ。
放たれた銃弾は、一直線に進み、モンスターの身体を貫いた。

バレットによる大技を受けたことで、モンスターは呆気なく倒れた。


「よくここがわかったな」

「銃撃のあとを辿った。あんなことをするのは、あんただけだ」


クラウドは、バレットの疑問に簡潔に答える。
その声音からは、軽口を叩きあうような仲の良さが伝わってきた。

その様子を見たフキとティファが笑い出した。フキは、クラウドに礼を言う。


「助かった……。ありがとな」


すると、クラウドはそっぽを向いてしまった。
照れ隠しなのか、ただの癖なのかわからない。
どちらにせよ、そんな仕草が微笑ましく思えた。

フキは、急に黙り込んだバレットを見る。
バレットは、先ほどからずっと腕を組んだまま動かないでいる。

一体、何事だろうかと心配になり、声を掛けようとしたときだった。
クラウドも何かに気付いたらしく、険しい表情を見せる。
フキとティファは、不思議そうな顔をしていたものの、すぐにその理由を理解した。


クラウドとバレットがモンスターが消滅した場所をじっと見つめていた。
そこには、別室に繋がる薄い壁があったのだ。

バレットに銃で穴を開けてもらい、中に入ると、そこは巨大なカプセルが並べられている部屋だった。
カプセルの中には人間らしものが全裸で閉じ込められている。


不気味な雰囲気を放っており、思わず後ずさってしまう。
フキは、思わず目を背け、ティファも辛そうにしており、とても見てはいられなかった。
すると、クラウドが、静かに話し始めた。


「これが、神羅の裏の顔だ。……っ!」


クラウドが壁に手をかけながら、カプセル越しにその中身を覗き込んでいると、呼吸が速くなりだす。そして、そのまま倒れてしまった。

慌てて駆け寄り、容態を確認すると、息を荒くしている。顔色もよくない。
まるで病気のようだった。


ティファが、不安げに見つめる中、フキはクラウドを抱きかかえる。


「クラウド?」


ティファの呼びかけに答えたのは、クラウドではなく、壁からすり抜けてくるいつぞやのローブ姿のモンスターだった。
フキは、クラウドを抱えて、その場を離れようと試みるも、モンスターに押し流されてしまう。

必死に抵抗するも、モンスターの力が強く、振り払うことができない。
そこで、意識が飛んだと自覚した時には、シェルターの出入り口にいた。

どうやら、気絶してしまったらしい。
クラウドの容態を確認してみると、少し落ち着いたのか、先ほどの苦しさがなくなっているように思える。


「なんだってんだ……」


バレットは、目の前の出来事についていけていないようだ。
クラウド達も、状況が飲み込めずに、戸惑っている。

だが、尋人のウェッジだけは見つかってよかったと、クラウド達はひとまず安心した。


「安全な場所に移そう。他のことはそのあと」

「おお、そうだな」


ティファの提案にバレットは同意した。
ウェッジは、未だに目覚めないままだったが、クラウド達は、急いで七番街スラムを出た。





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