19
ティファの案内のもと、クラウド達は、七番街スラムにある支柱へと向かうことにした。
七番街スラム街の入口であるスラム駅に着いた頃には、すでに陽は落ちていた。
クラウド達は、駅舎の前で足を止めた。
目の前に広がるのは、支柱の内部と外部で銃撃音が響き渡る光景だった。
暗闇の中、激しい銃声が断続的に鳴り響いている。音の発生源は、おそらく、この先だ。
支柱や街中からは、時折、悲鳴のような叫び声も聞こえてきた。
「落とす気なんだ……本気で」
ティファは、息を呑んだ。
そして、何かを決意したように顔を上げる。
「絶対、ダメ!!」
「ティファ!」
走り出すティファを、エアリスが呼び止める。
しかし、ティファは振り返らなかった。
その表情から、決意の強さを感じ取ったのか、エアリスは何も言わずにティファの後を追った。
フキは、クラウドの顔を見た。視線が合うなり、クラウドは無言のままうなずいた。
二人もまた、ティファとエアリスを追いかけて駆け出した。
駅前の広場に入ると、ティファの足が止まった。
すぐ後ろにいたエアリスが、前方を見つめたまま見えない何かに声をかける。
「お願い!行かせて!!」
すると、四人の目前にスラムの教会で出会した、黒いローブの幽霊が現れた。
幽霊は、渦巻くように四人を取り囲む。
その中心に立つエアリスが、三人に向かって叫んだ。
「クラウド、ティファ、フキ。この壁、絶対に越えよう!」
同時に、クラウド達の周りを囲むゴースト達が一斉に襲いかかってきた。
クラウドは、バスターソードを抜き放ち、ゴーストに斬りかかった。
エアリスは、ロッドを振るい、魔法を放つ。
だが、ゴースト達の勢いは止まらない。
数体のゴーストが、ティファの身体に触れようとした瞬間、クラウドはバスターソードを振り下ろした。
刃が触れると同時に、ゴーストは光の粒子となって消えていく。
その様子を見ていたエアリスがつぶやく。
「ゴーストって、こんな簡単に消えない、よね……?やっぱり、わたしの魔力じゃだめなのかな……?」
エアリスは、唇を噛む。
そして、ロッドを握る手に力を込めた。
一方、フキは刀剣を構え、次々と襲ってくるゴーストを薙ぎ払っていた。
ティファは、背後からの攻撃をかわすと、カウンターで蹴りを叩き込んだ。
その動きに合わせて、クラウドがバスターソードを振るう。
三方向からの攻撃に圧倒され、ゴースト達はみるみるうちに減っていくかと思えた。
だが、倒しても倒しても増え続けるゴーストに、さすがに違和感を覚えたティファが叫ぶ。
「キリがない!!」
次の瞬間、ゴースト達は一斉に姿を消した。
クラウドとティファが辺りを警戒していると、モンスターが飛び去った支柱へとエアリスは、懇願するような眼差しを向けた。
「エアリス?」
エアリスの異変に気づいたクラウドが問いかけると、ハッとするも、気を取り直して「行こう」とまた呼び掛けた。
◆
クラウド達は、支柱へと向かった。
支柱内部では、激しい銃撃戦が繰り広げられていた。
バレット率いるアバランチのメンバーが、神羅兵に応戦している。
「バレットだ!」
ティファが、バレットの姿を見つけると、嬉しそうに声を上げた。
「うわぁあああ!」
しかし、男の悲鳴が響く。
神羅兵が放った銃弾が、バレットのすぐそばにいた仲間の一人に命中してしまったのか、支柱内の螺旋階段から爆発音とともに、コルネオに勝るとも劣らない体型の男が降ってくる。
ティファの表情が凍りつく。
「「ウェッジ!」」
ティファとクラウドの声が重なる。
二人は、ウェッジに駆け寄った。
フキとエアリスも続き、フキは苦しんでいるウェッジの肩に、手を当てた。
すると、ウェッジの傷口が淡い光に包まれる。
クラウドが抱き起こすと、ウェッジは、クラウドを見て笑みを浮かべた。
しかし、すぐに苦痛に顔を歪め、右肩を押さえてうめき始める。
「クラウドさん……大変ッス。神羅が、この柱を倒して……行かなきゃ。上でバレットたちが……」
「無理だ。ウェッジを頼む。俺は上へ行く」
「オレも行くッス。オレだけ休むなんて……」
「そんなこと、言ってる場合じゃないだろ!!」
フキが怒鳴ると、ウェッジはビクッとして押し黙る。
壱番魔晄炉の爆破以来、二人は顔を合わせていなかった。
ウェッジが、フキのことを覚えてなかったとしても仕方ない。
だが、今のウェッジは、クラウドの言う通り、そんなことを言っている場合ではなかった。
フキの剣幕に、ウェッジは怯んだが、「でも……」となおも食い下がる。フキは、ウェッジの前に膝をつくと、彼の目を見据えた。そして、低い声で語りかける。
「何に命を賭けるかなんて、そりゃあお前の勝手だ。けど、ソルジャーのクラウドでも、こんな大怪我したやつを守りながら、支柱の上に行けるわけないだろ?その方がよっぽど、上で戦ってる仲間に迷惑をかけることになる」
ティファが、二人の会話に割って入る。
そして、ウェッジに向かって言った。
「ウェッジ、上はクラウドにまかせよう?ガウナの言う通り、今は怪我の治療に専念した方がいいよ」
ウェッジは、自分の置かれた状況を理解したのか、悔しげにうつむく。
クラウドが、エアリスに視線を向けると、彼女は首を縦に振った。
クラウドは、ティファ達に向き直る。
ティファが、クラウドの顔を見た。
クラウドは、小さく微笑むと、ウェッジに声を掛けた。
「ウェッジ、いいな?ティファの指示に従え」
クラウドは、ティファ達に合図を送ると、走り出した。
クラウドの後ろ姿を見送り、ウェッジは自分の無力さを痛感していた。
クラウドを支柱内部へと送り出したあと、未練が糸を引いて切れない面持ちで、ティファは、階段の下から螺旋状の階段を見上げた。
フキとエアリスは互いに顔を合わせると、ティファに話しかけてきた。
「ティファ、ここは俺達に任せてくれないか?」
「えっ?」
「クラウドが心配なんだろ?俺もエアリスも、回復術に関しては、得意な方だし。ウェッジも受け身を取って落ちてきたから、打ち所は思ったよりもひどくない。だから……」
フキの言葉に、ティファが続けた。
「……気づいてたんだ」
「まあな」
「ごめん。私、上に行って良いかな?」
ティファが申し訳なさそうに二人に尋ねると、エアリスは笑顔で答えてくれた。
「うん、心に従って」
ティファは、しばらく考え込むようにしていたが、やがて決意を固めたのか、フキとエアリスに向き合うと、二人に礼を言う。
「ありがとう。二人とも、近くにセブンスヘブンってお店があるの。そこで−−」
「マリンが待ってる、でしょ?まかせて、必ず助ける」
「えっ?」
不思議そうな顔をするティファに対し、フキも彼女と同じく疑問を持ったようだ。
しかし、それを尋ねようとしたところで、新たに爆発音が聞こえ、二人はそちらに意識を向けた。
どうやら、支柱内部で何かが起こったらしい。
ティファが、エアリスの手を取り、優しく握る。
エアリスの目を見ると、ティファは大きくうなずいた。
クラウドの後を追って、ティファは階段を駆け上がって行った。
ティファを見送った後、フキとエアリスは、ウェッジの方へ歩み寄る。
「セブンスヘブン、案内するッス!」
「ウェッジ、待って!」
エアリスは呼び止めようとするが、ウェッジは聞かずに走り出した。
その様子に、フキは肩をすくめた。