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「ガウナ、……ガウナ!!お願い、もう少しスピードを緩めて!」


ティファは必死になって叫んだ。

彼女は今、フキの後ろをクラウドと挟む形で走っているのだが、その速度が尋常ではない。
フキも全力で走っているはずなのに、まるで風に乗っているかのような、軽やかな走りだった。

一方のティファは、そんな二人についていくだけで精一杯だ。
しかも、二人の走るペースはかなり速いため、足がもつれそうになる。

この速さだと、すぐに息が上がりそうだ。
だが、それを心配しても仕方がない。


とにかく二人は、自分よりもずっと速く走れるらしい。おそらく、体力的にもかなり余裕があるに違いない。
ならば、自分がやるべきことは、少しでも遅れないようにすることだけだ。

ティファは自分の心に言い聞かせながら、ひたすら走り続けた。


「いい加減にしろ!!」


突然、前方を走るクラウドが声を上げたかと思うと、フキに追いつき、彼の腕を掴むなり、強引に引き戻す。

フキがびくりとして立ち止まる。ティファも慌てて足を止めた。
クラウドは急停止し、フキの方を振り返る。

フキはまだ息を整えていたが、それでもクラウドに鋭い視線を向けた。


どうやら、怒っているようだ。
ティファも呼吸を整えると、ゆっくりと前に進み出た。


「ガウナ、エアリスがオバケに拐われて、心配なのはわかるよ?でも、もうちょっと落ち着いて……」

「わかってるよ!!これでも、落ち着こうとしてるだろ!?」

「ティファに当たるな!」


今度はクラウドが怒鳴った。
普段のクラウドからは想像できないほど厳しい口調だ。

それだけ頭に血が昇っているということだろうか。
フキは唇を噛み締めて俯いた。


「クラウド、そう怒鳴らないで……。エアリスはきっと無事だよ。落ち着いて、みんなでエアリスを探そうよ。ね?」


ティファが言うと、クラウドは少しだけ冷静さを取り戻したのか、軽く頭を振った。
それから改めて辺りを見回す。


そこは、七番街スラムの外れにある列車墓場の操車場だった。
周囲には廃列車が立ち並び、不気味な雰囲気を漂わせている。

空には月が出ており、青白い光で周囲を照らしていた。
フキ達は列車墓場を通り抜け、七番街スラムに向かう途中、エアリスがオバケに拐わられた後を追って、ここまでやってきたのだ。


あの時、エアリスはクラウド達に別れを告げる暇もなく、忽然と姿を消した。
だから、こうして追いかけてきたわけなのだが、エアリスの姿を見つけることはできなかった。

とはいえ、エアリスが消えた場所ははっきりと覚えている。この場所からそれほど遠くないはずだ。
クラウドはそう言って、フキ達を連れてその場所に向かってきたのだが、なかなか見つからなかった。


それで、フキが苛立って、こんな無茶な速度で走っていたというわけだ。
ティファはフキに歩み寄ると、彼の肩に手を置いた。


「大丈夫だよ。絶対、見つかるから。一緒に頑張ろう?」


ティファが微笑むと、フキはうなずいてみせた。


「ティファ、ごめん……。クラウドも。俺、どうかしてたみたいだ」


フキは素直に謝ると、クラウドと目を合わせた。
しばらく沈黙が続いた後、クラウドが小さく溜息をつく。そして、ようやく口を開いた。

それは、いつものようなぶっきらぼうな言葉ではなく、優しい口調だった。


「あんたが、エアリスのことになるとすぐ熱くなるのは、見ていてよくわかる。それだけ、エアリスを大切にしてるってことなんだろう?」


クラウドの言葉に、フキは照れくさそうに顔を背ける。


「うん。エアリスは……俺にとって、かけがえのない存在で、昔、友達とどんな事があっても、絶対に彼女を守るって約束したんだ……」

「……その気持ちは、理解できる」


クラウドは呟くように言った。
フキは驚いたような顔で彼を見た。

クラウドがそんなことを言うとは思わなかったのだろう。
ティファも同じ気持ちだった。


彼は今まで他人に心を開かず、自分以外の人間を信用しなかった。
だからこそ、仲間である自分達に対してもどこか距離を置いていた。だが、今は違う。

クラウドの瞳には、何かを決意した強い意志のようなものが感じられた。
それが何なのか、ティファにはわからない。
だが、少なくとも今のクラウドには、以前とは違う印象を受けた。

フキは嬉しそうな表情を浮かべた後、真面目な顔で続けた。


「ありがとう」


クラウドは無言のまま、首を横に振る。
ティファには二人の会話の意味がよく理解できなかったが、それでも二人の間に、確かな友情が生まれたことを実感できた気がした。


三人は再び歩き出そうとしたが、その時、蛍のような一粒の光が体の周りを旋回する。
三人が驚いていると、ついて来いというかのように、光の玉はふわりと浮かび上がった。

ティファは慌ててその後を追う。フキとクラウドもそれに続いた。
フキ達が追いつくと、光の玉は徐々にスピードを上げていく。



気がつくと、いつのまにか貨物保管区の前に来ていた。
そこには、山積みとなっているコンテナの陰に隠れるように、人影が見える。

フキ達は警戒しながら、ゆっくりと近づいていった。
すると、そこにいたのはエアリスだった。

エアリスは、まるで怯えているかのような様子で座り込んでいた。


「エアリス!」


エアリスを見つけた途端、クラウドは走り出した。
フキとティファもそれに続く。

エアリスの前に立ったクラウドは、彼女の両肩を掴んだ。
突然現れたクラウドに、エアリスは大きく目を瞬かせる。

それから、安堵の笑みを見せた。しかし、すぐに笑顔が消える。
クラウドの背後から馬と車が合体したかのような、下半身を持つ騎士のモンスターが現れたからだ。


クラウドは、エアリスを抱きかかえて飛び退くと、バスターソードを構えた。
フキとティファもそれぞれの武器を手に取る。


「行くぞ!」


クラウドが叫ぶと同時に、エリゴルは襲いかかってきた。
フキとティファは左右に分かれると、それぞれ剣と拳を振るった。
二対の刃と、一つの打撃が、同時にエリゴルを打ち砕く。

だが、エリゴルはその程度で怯むことなく、再び向かってきた。
フキとクラウドは、背中合わせになると、迫り来るエリゴルに意識を集中させた。

エアリスは、離れたところで援護魔法を放つ。
魔法の光を浴びた二人は、さらに力が増したように感じた。


「砕け散れ!絶破烈氷撃!!」


フキは雄叫びを上げて、エリゴルの懐に飛び込む。
クラウドもまた、冷静な眼差しを向けると、大振りの一撃を放った。

二つの攻撃は、見事に命中し、エリゴルを弾き飛ばす。
地面に叩きつけられたエリゴルだったが、まだ生きていた。

それでも、かなりのダメージを負ったらしく、動きが鈍くなっている。
そこへ、ティファが駆け寄っていった。


「いい加減、どいて!」


そして、渾身の力を込めて、バック宙をしながら左右の足を順に振り上げ、エリゴルを蹴り飛ばす。
ティファの攻撃は、見事にヒットし、エリゴルは煙となって消滅した。

ティファは荒くなった呼吸を整えながら、三人に視線を送る。


「行こう」


ティファが言うと、クラウド達は一斉にうなずき、先へと進んで行った。








投稿日 2022/05/17
改稿日 2022/11/13




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