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橋を渡り終えた一同は、目の前にある大きな排水装置を見つめていた。
どうやら、先に進むためには貯水槽にたまった水を抜く必要があるようだ。


フキ達は腕組みをして考え込む。
おそらく、パイプにつまったゴミを押し流せば、先に進めるはずだ。だが、その方法となると……。


「これ見て。店の貯水槽に、同じようなパネルがあったよ。流れる水の量を調節するの」


排水装置の近くにある監視制御室に皆で入ると、ティファが得意げに言う。


「なんでも屋さん、どう?」

「排水……これだな」


クラウドが制御装置を操作する。すると、メーターがマックスまで上がらず、エラー音が鳴る。


「失敗?」

「故障らしい」

「潔すぎだろ。故障じゃないって、これ」


フキは苦笑いを浮かべると、肩をすくめる。
ティファも、クラウドの操作不備に思い当たることがあるのか、壁面に貼られた取扱説明書のような紙の文面を読み上げる。


『赤いランプは、排水のつまり。手動ポンプでゴミを押し流してください』
最後まで読み切ると、ティファが手動ポンプの扱いに慣れていると三人に告げた。


「私、店でやったことがあるよ!」

「よし、俺かガウナがやろう」

「エアリス、ついてきてくれる?クラウドとガウナは他のエラーが出ないか、見ていて」

「いや、俺達が……」


クラウドが言いかけた言葉を遮るように、ティファが言う。


「力の差がありすぎると、ダメなんだ。すぐ戻るから」


エアリスは小さくうなずくと、二人で制御室の外に出て行った。

残されたクラウドとフキの間に気まずい空気が流れる。
沈黙に耐えかねたのか、クラウドが口を開く。


「あんた、七番街の件が片付いたら、どうするんだ?」


クラウドは壁にもたれかかりながら言った。


自分はこれからどうしたいのだろう?
自分のことなのに、答えを出すことができなかった。


「その時になってみないと、わからないかなぁ……」


フキは苦笑しながら言う。

別段、フキは、スラムの人々を救いたいわけではない。
ただ、自分とエアリスが生きやすい世界を維持したいだけだ。

スラムの住人やアバランチの仲間には悪いことをしているという自覚はあるが、だからといって改心するつもりはない。


ただ、このクラウド・ストライフという人物には興味がある。

クラウドは自分の意志を貫き通すため、神羅カンパニーに逆らおうとしている。
そうなれば、今まで通りの生活は送れなくなるかもしれない。

フキは、自分とは違う生き方をする彼に、ある種の憧れを抱いていた。
しかし、クラウドは、そんなフキの気持ちを知る由もなく、淡々と告げる。


「もし、面倒ごとがあるなら……報酬次第で、引き受けてやる」


クラウドの言葉を聞いて、フキは一瞬きょとんとした顔になったが、すぐに吹き出す。

ティファもエアリスもそうだが、クラウドもまた、お人好しのようだ。
フキは、自分の胸の奥がほんのり温まるような感覚を覚えた。










ティファとエアリスは排水装置のもとに着くと、二人で手動ポンプを動かす。
やがて、ゴボッという音がして、汚水が勢いよく流れ出した。

二人は貯水槽に溜まっていたゴミを流し終えると、制御室に戻る。
ティファとエアリスが戻ったのを確認すると、クラウドがレバーを引いた。

すると、川鳴りに似た低い音を立てて、水位が下がり始める。これでいいのだろうか。

四人は、じっと水位が下がるのを待つことにした。


「がんばったよね!」

「うん!」


ティファとエアリスは互いに微笑み合う。
排水が完了すると、一行は出口に向かって歩き始めた。



「俺が先に行って、出口を確保する」


クラウドは先頭に立って、慎重に歩みを進める。
しばらく歩くと、ようやく終点が見えてきた。

そこには、梯子があり、上に登れるようになっていた。
一同は梯子を登ろうと、一歩踏み出そうとする。
そのとき、ティファが声を上げた。


「クラウド!」


振り向くと、半魚人の水棲モンスター《サハギン》が、こちらに飛びかかってくるところだった。
クラウドが咄嵯にバスターソードを構えると、フキ達はクラウドのもとに駆け寄ってきた。


「先に行け」


クラウドがバスターソードを振るうと、飛びかかった数匹のサハギンが宙を舞う。
クラウドは、さらに襲いかかる敵をなぎ倒しながら叫んだ。

──ティファも行け! その言葉を聞いたティファは、エアリスの次に走り出していた。
クラウドは二人の姿を見送ると、敵に向かって剣を振りかざした。


「もう知ってるよな。俺達は強いぞ?」


フキもティファと同じように、格闘術で敵に応戦する。
狭い通路での戦いだ。大剣を武器とするクラウドは、思うように動けない。

だが、フキは持ち前の敏捷さを活かして、クラウドの死角をカバーするように立ち回る。
フキはクラウドに指示されなくとも、彼の動きに合わせていた。
それはまるで、長年連れ添った夫婦のような息の合い方だった。

クラウドの背中を守りつつ、フキは魔法でサハギンを怯ませる。


「切り上げるぞ!」


クラウドがそう叫ぶと、フキはクラウドの背後を守るようにして、後退を始める。
ティファ達はすでに地上に出ているはずだ。

クラウドが振り返ると、フキと目が合った。
クラウドとフキは、互いにうなずき合うと、梯子を目指して全力疾走した。

フキが先に梯子に辿り着き、クラウドに手を伸ばす。
クラウドはその手をしっかりと掴むと、フキと共に一気に上まで登り切った。そして、そのまま地上に出る。


地上では、すでにティファ達が待っていた。
クラウドとフキが戻ってきたことに気がつくと、ティファがほっとした表情を浮かべた。

しかし、その直後、ティファの顔色が変わる。
彼らの頭上を神羅のヘリコプターが通過していったのだ。
クラウドは上空に視線を向けると、舌打ちをした。


神羅のヘリコプターは、一行の頭上でホバリングすると、何かを探しているかのように、周囲を見回している。
サーチライトの光が地面に向けられると、一行は眩しさから目を細めた。


「ただの巡回だろう」


クラウドは呟くと、神羅のヘリが通り過ぎるのを待つ。
ティファは不安そうな面持ちのまま、じっとクラウドの横顔を見つめていた。







投稿日 2022/05/16
改稿日 2022/11/12




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