16

下水道には、モンスターの姿がちらほらあったが、襲われても対処できるレベルだった。
フキ達は襲ってくるモンスターを、サクッと倒しながら進む。

しばらく進むと、下水から流れる水の音が聞こえてきた。
音のする方を見ると、水門のようなものが見えた。


(あれは……)


フキ達はその水門の元へと急ぐ。
近づくにつれて、その水路の幅の広さがわかる。


(思ったより向こう岸との距離があるな……。でもまぁ、なんとかなるか)


そう思いつつ、レバーに手をかける。
すると、水門が開き、用水路の水面の高さが低くなる。


要するに水面を低くさせながら、向う岸に渡ればいいらしい。


(こういう仕組みなのか……。しかし、こんな仕掛けまで作るとは、この世界の技術力ってすごいんだな……。あっちの世界だと、もうちょっと複雑な装置が必要なはずだけど……)


そんなことを考えているうちに、エアリスが口を開く。


「におい、すごいね」


確かに酷い匂いだ。
だが、これくらいなら慣れれば大丈夫だろう。

そう思っていたのだが、エアリスにとってはきついらしく、顔をしかめていた。
クラウドも鼻を押さえて辛そうな表情を浮かべる。


「きれいとは言えないスラムの、その下水だからね」

「一度、何かしらの方法でしみついた臭いを落としたいよな……」

「フキ、一日一回はお風呂入らないと、おちつかないもんね」


エアリスの言葉を聞いて、フキは苦笑いを浮かべた。


「ん?ガウナ、他にも名前があるの?」


ティファが、不思議そうな顔をしながら言う。
彼女にはまだ、本当の名前を言っていなかったのだ。

フキは内心焦りながらも、平静を装いながら答える。


「言ってなくて、ごめん」

「謝らなくていいけど、ガウナの本当の名前、どこかで聞いたことがあるんだよね……。昔、私と会ったことある?」

「えっ!?」


ティファの問いに、思わず声を上げてしまう。
どう答えようか迷っていると、ティファは自分の記憶違いかもしれない、と言い始めた。


「わからないのなら、いいの。でも、なんで偽名を名乗ってるの?」


彼女の質問に、全てを話したわけではないが、ある程度事情を説明した。


「ふぅん。それで、名前と髪の色を変えてるんだ……」

「……とにかく、これからは俺のことは、引き続き、ガウナって呼んでくれると助かる」

「わかった」

「サンキュー」


ティファと話し終えたところで、クラウドに話を振った。


「ねえ、クラウド。コルネオの話が本当だったとして、その場合、神羅の狙いはなんだと思う?神羅の本当の目的。私たちを潰すためだけなら、代償が大きすぎるよね?」

「七番街の破壊と引き換えの利益か。俺には、想像がつかない」


クラウドが首を横に振る。

ティファはコルネオの言葉を信用していなさそうだ。
それでも、コルネオの話を信じざるを得ない状況になっている。


なぜなら、この世界では、神羅が絶対的な存在であり、逆らう者はいないからだ。
ザックスのようなソルジャーですら、神羅に太刀打ちできなかった。

世間では神羅という会社が、裏で何をしているのか誰も知らない。
ただ、圧倒的な力で市民を支配しているという事実だけが世間一般で知られている。

そして、神羅に逆らう者はいないというのが常識となっている。
そのため、コルネオの発言も真実味を帯びてくる。


ティファとクラウドの会話を聞きながら、フキは思考を巡らせていた。


(また、神羅お得意の隠蔽か……?)


フキの脳裏に、空爆で存在すら消されたバノーラ村が、浮かぶ。
今回のことも神羅が関与していたとしたら、説明がつくような気がする。

フキはあの時、これがソルジャーの在り方で仕事なのだと、自分にひたすら言い聞かせた。
だが、それは間違っていたのではないかと今になって思う。
自分の考えが正しかったかどうかなんてわからない。


ただ、一つ言えることは、この世界に−−ミッドガルに来てからというもの、疑問ばかり抱いているということだ。

ザックスやエアリス達との出会いによって、少しずつ変わってきたと思っていたが、結局は何も変わっていないのだろうか。でも、今は違う気がする。

ザックスと二人だけでモヤモヤしたものを抱えながら、神羅に反抗できなかったあの時とは、何もかもが違うのだ。









水路の反対側へと渡ったクラウド達は、広い空間に出た。
辺りを見回せば、ここにも水門があり、それが開いている。

ということは、別の区画へ行けるのだろう。


「ここ……、この大きな水路、知ってる!向こう側は七番街だよ」

「六番街との境目か」

「とにかく、七番街側の扉に入ろう。スラムに繋がってるはずなんだ」


ティファがそういうので、一同はその言葉に従い、七番街側の出口を目指す。
そして、水門の縁を渡り切ったところで、ティファは大きく息を吐いた。


「ダメ……。最悪の事態、考えちゃう」


ティファがそういうのを聞きながら、エアリスが口を開いた。


「気持ち、わかるよ」


フキも同じことを思っていたが、それを口に出すわけにはいかない。
ティファが今、どんな気持ちなのか察してやるべきなのだ。だから、フキは黙っていた。


「七番街の破壊なんて、タチの悪い冗談。もし、もし、もし、本当でも、ギリギリで中止になる。そうなる」

「うん……」


ティファの言葉に、エアリスはらしくない淡白な返事をする。


「エアリス、何か知ってるの?」

「え?」


その声につられて、エアリスはティファの顔を見る。
エアリスは真っ直ぐ前を向いており、表情を読み取ることはできなかった。

フキはエアリスの横顔を見ながら、思う。
彼女は一体、何を知り得ているのだろうと。

フキの視線を感じたのか、エアリスがこちらを向く。
すると、目が合ってしまった。


慌ててフキが目を逸らすと、ティファが怪しむように眉をひそめた。それに気づいたのだろう。


「ガウナ。あなたも何か−−」


ティファが問いかける前に、クラウドが言った。


「ティファ、エアリス、ガウナ。ひとりずつ橋を渡ってくれ」

「了解。先に行くね」


クラウドが先頭に立ち、ティファとエアリスはクラウドの後を追う。
そして、最後にフキが渡り始めたところで、彼の前を渡っていたエアリスがバランスを崩してしまう。

フキは反射的に彼女を抱き上げると、そのまま横抱きにして、クラウドのいる場所まで高飛びをした。
クラウドは少し驚いた顔をしたが、すぐに元の無表情に戻る。

フキはクラウドの前まで来ると、エアリスを下ろした。


「びっくりした……」

「俺もそう思う」

「ありがとう、フキ」


エアリスが微笑みかけると、フキもつられるようにして笑った。


「なら、全部が終わったら、報酬はデート一回だな~~」

「んー、フキには感謝の花束、ぞうていしてあげる!」


フキが余計なことを言い、エアリスが応える。
そんな二人のやりとりを見ていて、ティファが思わず吹き出した。







投稿日 2022/05/09
改稿日 2022/11/09




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