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とりあえず、この場は収まったが、問題は山積みだった。
まず、どうやってコルネオの部屋までたどり着くか。
フキ達は考えをまとめようと頭をひねっている。
すると、アナウンスが流れた。
「はい皆さん!まだ頭がボーっとしていると思いますが、オーディションをはじめます。左手の扉の先に階段があるので、あがってきてくださ~~い」
コルネオの部下と思われる男の声だ。
どうやら、この部屋を出て、上の階へ行けということらしい。
確かに、ここにいても何も始まらない。
上の階に繋がる扉から、ガチャリという音がした。
その音に反応して、全員四人は階段を登って行く。
「よーし娘ども、ここに整列!」
階段を登りきると、そこには数人の若衆が立っていた。
そして、目の前には、煌びやかな内装が施された空間が広がっている。
おそらく、ここがオーディション会場なのだろう。
フキ達は言われるままに並び、オーディションの開始を待つことにした。
すると、すぐに先程の声の主である男が傍から現れる。
ドングリ頭の男が、四人の前に立った。
男はクラウドとエアリスの顔を交互に見つめている。
二人の顔を見比べながら、男は言葉を投げかけた。
「あん?見た顔だな。どっかで会ったか?」
「ううん!」
フキと別行動の時に、二人は闘技場で男と会ったのだろう。
だが、男は面忘れた様子で首を傾げていた。
しかし、彼はそんなことを気にせず、話を進めた。
「まあ、いいか。よし、おまえたち準備はいいか、行くぞ!我らがウォール・マーケットのカリスマ、ドン・コルネオ様の登場だ!」
男の合図と共に、部屋の仕切りから顔を覗かせたのは、巨大な腹をした禿頭の男だった。
ほひ~~!と間の抜けた声を上げながら、男は四人の前へと歩み出る。
コルネオは、両手を広げながら、フキ達の顔を見てニタニタと笑い始めた。
「いいの~~、いいの~~。どのおなごにしようかな~~。ほひ~~ほひ~~!」
コルネオは下卑た笑みを浮かべながら、品定めを始めた。
まるで、これから食べる晩御飯を決めるかのような気軽さだ。
クラウドもエアリスも、コルネオのその言動に対して嫌悪感を抱いていた。
そんな中、コルネオの視線がフキに止まった瞬間、彼は思わず息を飲む。
「フンフン……、ん?おまえ……いや、貴女は!」
突如として、コルネオは態度を変え始める。
先程のまでの好色な態度とは打って変わり、真剣な眼差しでフキのことを凝視していたのだ。
これには流石に、クラウド達や当の本人であるフキも困惑するしかなかった。
一体何が起こったのかわからないまま、事態は進んでいく。
コルネオは突然、フキの前に片膝をつくと、そのまま頭を下げ始める。
その姿は、まるで忠誠を誓う騎士のような姿であった。
あまりの出来事に、クラウドやエアリスはもちろんのこと、周りの若衆たちも動揺を隠しきれないでいた。
すると、コルネオは満面の笑顔で口を開く。
その瞳は、まるで宝石を見つけたかのように輝いていた。
間髪入れずに彼の口から、フキを驚愕させる一言が放たれた。
「ガ、ガウナちゃん!!俺の為に、ミッドガルに帰ってきてくれたの~~!?」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
しかし、よく考えてみると、目の前にいる男は、女装した自分を亡き母と間違えているようだった。
つまり、この男は母の経歴や人柄を知っていることになる。
この男も、母の軌跡を辿る為の手掛かりに、なるかもしれない。
そう考えた途端、フキは不快感よりも興味の方が勝ってしまった。
クラウド達が止める間も無く、彼は今すぐにでも、この男に掴みかかりたい気持ちを抑えて、コルネオに話しかける。
「勘違いしないでよね、可哀想なおデブちゃん」
「相変わらずの辛口っぷり、たまらん!!ほひ~~、決めた。決~~めた!今日のお嫁ちゃんは~~」
「今日の?」
聞き捨てならない言葉を聞いた気がして、エアリスはコルネオに問いかけた。
コルネオの部下は、エアリスの反応を楽しむようにニヤリと笑うと、彼女の質問に答える。
「努力次第で、明日も明後日も奥さんでいられるぞ」
クラウドやティファも、このコルネオの悪趣味さには辟易としていた。
「ゲス野郎」
「クラ子に同意。チ◯コキック決めてやりたい…」
コルネオは、クラウドとフキの言葉に怒りを覚えたのか、彼らの悪態を聞き逃さない。
コルネオは二人に近づき、凄みを利かせるのかと思いきや、いきなり二人に向かって破顔した。
「おい、今の誰だ?おまえとガウナちゃんか?……いいね〜。いい。その跳ねっ返り、ガウナちゃんとまとめてへし折ってやるわ。今日はこの強気なおなごとガウナちゃんだ!」
そして、嬉しそうな声でクラウド達に語りかける。
クラウドは、コルネオの行動の意味が分からず、呆然と立ち尽くした。
今回は定員オーバーしているが、本来は三分の一から選ぶはずではなかったのか。
それに、本物の女性であるエアリスとティファを差し置いて、女装した二人が選ばれるのは、納得がいかなかった。
しかし、そんなクラウドとフキの考えなどお構いなしに話は進んでいく。
「ほひ~~、おれのテクニックがあれば、きっとお前達も互いに仲良くなれる!そして、この俺と三人でハッピーになれる!」
「……」
もはや、何を言っても無駄だとクラウドは悟った。
クラウドは諦めた表情を浮かべると、コルネオは満足げに鼻息荒くしながら、フキとクラウド以外の人間を下がらせる。
二人は更に奥の部屋へと案内された。
そこはベッドルームであり、クイーンベッドが一つ置かれていた。
部屋に入った瞬間、クラウドとフキは全身に鳥肌が立つ。
これから起こるであろう出来事を容易に想像できてしまったからだ。
フキは嫌悪感を隠そうともせず、コルネオのことを睨みつけている。
「さあ子猫ちゃん達、俺の胸へカモ〜ン!照れなくてもだいじょうぶ。誰もいないよ」
ベッドの上に座らされた二人は、背中越しにコルネオの荒い息遣いが当てられる。
フキは身の危険を感じ、クラウドの腕を掴むと、彼を自分の方に引き寄せる。
しかし、クラウドも負けじと腕に力を込めて抵抗する。
二人のやり取りを見て、コルネオはさらに興奮する。
「ガウナちゃん、ガウナちゃ~~ん!相変わらず麗しい~~!昔より、筋肉隆々になった気がするね~~?」
すると、フキはコルネオに背後から抱きつかれ、首筋に生暖かい舌が這う感触を覚えた。
「ひぃっ……!?」
コルネオがフキの胸元まで手を這わそうとした瞬間、その手首をクラウドが掴んだ。
不機嫌さを凝縮して、すごみさえ感じる低音が、クラウドの喉の奥から発せられる。
「薄汚い野郎だ」
フキからコルネオを引き剥がすと、クラウドはコルネオの顔面に思い切りバックスピンキックを見舞った。
そのままコルネオは吹っ飛び、ベッドのヘッドボードに激突した。
「おい、てめえら!今のはやりすぎだろうが。おい、誰か来い。この女どもに礼儀を教えてやれ!」
コルネオは部下を呼びつけるが、部屋に踏み込んだのは−−エアリスとティファだった。
「おあいにくさま。あなたの子分は、だれもこないみたい」
「なにこれ?」
エアリスとティファの登場に、コルネオはざわつく。
「クラウド、フキ。服!」
二人は言われるままにドレスを脱ぎ、服を着ていく。
コルネオは、目の前で起きている光景に唖然としていた。
「男じゃねーか!なにがどーなってる?しかも、ガウナちゃんまで!!」
「質問するのはこっち。七番街のスラムで、手下に何を探らせたの?」
ティファはコルネオを問い詰めるが、コルネオは答えようとしない。
「はあ。何の話だ?」
「しらばっくれても無駄。もう一度聞くね。手下に、一体、何を探らせてたの?言わないと−−」
「切り落とすぞ」
クラウドはコルネオに対して、一切の容赦がなかった。
クラウドはコルネオに向き直り、バスターソードを抜く。
コルネオの眉間にバスターソードの切先を突きつけた。
コルネオの額には冷や汗が流れ、彼は観念したのか、口を開いた。
「頼まれて、片腕が銃の男のねぐら探った」
「誰の依頼?」
「ほひ~~!しゃべったら殺されるぅ!」
コルネオは泣き叫ぶ。
今度はエアリスが、コルネオに歩み寄る。
「言いなさい!言わないと−−」
「ねじり切っちゃおうか」
ギュッとエアリスがコルネオの眼前で、拳を握る。もう逃げ場はない。
コルネオは恐怖のあまりクラウド達に依頼主の名前を伝えた。
その人物の名は、神羅の治安維持部門(旧ソルジャー部門だった)統括、ハイデッカー。
クラウド達は、この事実に驚愕していたが、フキだけはそうでもなかった。
神羅とコルネオが、癒着しているのはおかしくない。
だが、肝心のバレットをつけ狙うことになった、決定打となる要素がまだ少ない気がする。
バレットを消したいのなら、わざわざコルネオに依頼する理由があるのか?
フキは考えるが、やはりわからない。
バレットを狙うなら、スラムのゴロツキに、金を渡してまで、やらせるような仕事ではない。
それこそ、神羅カンパニーから、兵士を寄越して、対処させてもなんの問題もないはずなのだ。
フキは、クラウド達の顔色を見るが、ハイデッカーの企みよりも神羅の名前に食いついたのは、ティファの方であった。
彼女は、怒りをあらわにして、声を張り上げる。
「神羅?神羅の目的は?」
「それだけは、勘弁してくれ」
「言った方がいいんじゃないかな〜。言わないと−−」
「すりつぶすよ」
ダンっと、ティファがベッドに足を乗せて、コルネオを睨みつける。
ティファの本気の視線に、コルネオはガタガタと震え出した。
しかし、恐怖が一周しておかしくなったのか、クラウドの鋭い視線にも動じることなく、下卑た笑い声をあげる。
ティファが、さらに何か言おうとしたとき、コルネオが叫んだ。
「ねえちゃん、本気だな?しかたねえから、教えてやるよ。神羅は魔晄炉を爆破したアバランチとかいう一味を、アジトもろともつぶすつもりなのさ」
「文字通り、つぶす」と、両手を叩いてジェスチャーを交えながら、コルネオは続ける。
「プレートを支える柱を壊してよ」
フキは、コルネオの言葉に衝撃を受けた。
今、コルネオは確かにこう言ったのだ。
《神羅が七番街を崩落させる》と。
フキは、コルネオから目を離さないようにしながら、クラウド達の会話に集中する。
「ティファ、クラウド、フキ、行こう!」
エアリスの声に促され、三人が部屋から出て行こうとするのを見て、コルネオは慌てて引き留めた。
「ちょっと待った!」
「だまれ」
「すぐ終わるから聞いてくれ。俺たちみたいな悪党が、こうやってべらべらと真相をしゃべるのは、どんな時でしょ~~うか?」
コルネオは、ニタニタと笑う。
皆、コルネオの問いに沈思しているようだったが、フキは違った。
彼は、コルネオの笑みの理由を理解していたようだ。
フキは、呆れたようにため息をつく。そして、ジリジリとコルネオに攻め寄った。
「な、なんだい?ガウナちゃん!!」
「ここまで良いことを教えてくれた、コルネオくんにご褒美をやるよ」
コルネオの左手を掴み、自分の方へとグイッと引き寄せた。
コルネオは、何が何だかわかっておらず、されるがままになっている。
コルネオの手が、フキの胸元に触れた。
「この指、もーげろっ!」
「ぎぃやああああ!!」
コルネオは、思わず鼻の下を伸ばしていたが、フキに思い切り指をあらぬ方向にへし折られ、悲鳴を上げた。
コルネオは、痛みに悶え苦しんでいる。
「これで……勝ったと思うなよ。ガウナちゃん!!」
捨て台詞を残し、コルネオはそばにあったレバーを下ろす。
途端に、地に足がついている感触が無くなったかと思うと、四人は開いた床下の奈落に突き落とされていた。
投稿日 2022/05/08
改稿日 2022/11/06