13
──コルネオの館前。三人は、館の前にいた。
館の入り口には、相変わらず門番がいる。
フキ達は、それぞれ、三人の代理人から受け取った推薦状を門番のリーダー格、レズリーに差し出す。
レズリーは、眉間にしわを寄せて推薦状の束を見つめたあと、無言のままゆっくりとフキの手から推薦状を奪い取る。
「あんたらは−−」
レズリーは、フキとクラウドが女装していることに気づいている様子だった。
「マダム・マムとアニヤン・クーニャン、サムの推薦状を持って来たの。入れてくれる?」
エアリスに言われ、レズリーは一瞬だけ驚いた表情を見せる。
だが、すぐに平静を取り戻し、推薦状を読みはじめた。
ざっと読み終え、レズリーは顔を上げる。
「どうなってもしらないぞ」
そう言うと、レズリーは三人を通した。
三人は、館のエントランスホールへと入る。
すると、そこにはすでに二人の男が立っていた。
二人とも、タンクトップを着た筋肉質な男だ。短髪で、髭面と動物のような獰猛な顔である。
二人は、入ってきた三人を一睨みしたあと、それぞれの場所に立った。
「オーディションの参加者だな。階段を上がって、いちばん奥の部屋だ。あまりうろちょろするんじゃないぞ」
案内人は、それだけを言うと、さっさとどこかに行ってしまった。
残された三人は、お互いに目配せをして、同時にうなずきあった。そして、階段へと向かう。
階段の上には、扉が三つあるだけだった。
フキは、一番奥のドアノブに手をかける。鍵はかかっていないようだ。
ギイィッ……バタン! フキは、勢いよく部屋の中に入った。
続いて、クラウドとエアリスが入る。
部屋の中には、使われてない家具等が乱雑に置いてあるだけで、人の気配はない。
エアリスは、きょろきょろと見回してみるが、やはり誰もいなかった。
すると、その瞬間、背後の扉が大きな音を立てて閉まった。
フキは、驚いて振り返る。
クラウドも同じように驚き、視線を巡らせている。
しかし、扉は開かない。押しても引いてもびくともしないのだ。
エアリスは、慌てて壁際へ駆け寄る。だが、それも無駄な足掻きに終わった。
「この甘い香り、何?」
エアリスは、鼻を押さえながら言った。
クラウドは、目を細め、辺りの空気の匂いを嗅いでみた。
確かに、何か花の蜜のような甘ったるい臭いがした。
クラウドは、突然、膝から崩れ落ちた。そのまま床に倒れ込む。
「ガスだ!一度、出るぞ」
「クラウド……!もう、無駄だ……」
クラウドの言葉を遮るようにしてフキは声を出す。
クラウドも、エアリスと同じように床に倒れた。
フキも、意識が遠のいていくのを感じる。
(これは、まずいな……)
薄れゆく意識の中で、フキはそう思った。
◆
──コルネオの館・地下。
そこは、拷問部屋だった。
天井から吊るされた鎖や、手足の拘束具が壁一面に取り付けられている。
その部屋の中央に、フキ達はいた。
フキは、雑魚寝のように並べられたクラウド達と床の上で、気を失っていた。
フキは、意識を取り戻すと、自分がなぜここにいるのか、まったくわからなかった。
隣では、クラウドとエアリスも同じようにして転がっている。
フキは、なんとか立ち上がろうとした。しかし、身体に力が入らない。
それどころか、頭がボーッとして何も考えられない。
「あの、貴女もここに連れてこられたんですか?」
そのとき、どこからか不安そうな声が聞こえてきた。
フキの視界の端に、黒い影が見える。
そちらに首を傾けると、そこには、長い黒髪をした女性がいた。
フキは、なんとか首を縦に振る。
「いや、自分から志願して来たっていうか……ってか、ティファ!?無事だったのか!?俺だよ、俺!ガウナだ!!」
「ガウナ!?なかなか帰ってこないから、みんな心配してたんだよ!?」
ティファは、驚いた表情でフキを見た。ティファの姿を見て、フキはホッとする。
そんな二人をよそに、クラウドとエアリスは、未だに眠り続けていた。
「結構、無茶したな。ティファ」
「ガウナに比べれば、大したことないよ……。ここへは嘘みたいに、簡単に来れたし」
「バレット達には、ここに来る事ちゃんと伝えたのか?」
フキは、そう言いながら、力の入らない腕を使って上半身を起こした。
ティファは、困ったように笑ってみせる。
そして、静かにうなずいた。
クラウドも、ようやく意識を取り戻したようだ。
ゆっくりと起き上がると、キョロキョロと周りを見渡している。
クラウドは、ティファと目が合うと、素っ頓狂な声を漏らす。
「ティファ!?」
「はい?」
「無事か?」
「……うん」
「そうか」
クラウドは、安心して微笑んだ。
ティファは、クラウドが女装していることに気づいていないらしい。
「えーっと……もしかして、クラウド?」
ティファは、クラウドの顔を見ながら言う。
すると、クラウドはハッとしたような顔をして、すぐに視線を逸らした。
「お化粧してる?その格好!」
「感想はいらない。他に方法がなかった」
早口で捲し立てて、クラウドは答える。
ティファは、クスッと笑う。
フキは、二人のやりとりを見ていて、少し羨ましくなった。
自分も、こんなふうに、エアリスと会話できたなら。
フキは、心の中でため息をつく。
ふと、エアリスの方を見ると、彼女は呻きながら身体を起こしているところだった。
エアリスは、ぼんやりとしていた瞳を大きく見開き、自分の置かれた状況を理解しようとしているようだった。
「エアリス、大丈夫か?怪我とか、具合の悪いところは?」
「うん、ちょっとフラフラするけど。あ!こんにちは、ティファ」
エアリスは、ティファの姿を見つけると、慌てて立ち上がり、彼女に駆け寄っていく。
「わたし、エアリス。クラウドの友達。一緒にティファを助けにきたの」
「ありがとう……」
「話はあとだ。今すぐ出るぞ」
クラウドは、フキ達にそう告げたあと、ティファの手を引こうとする。
しかし、ティファはその手を振り払う。
クラウドは、怪しげな顔でティファを見る。
ティファは、真剣な眼差しをクラウドに向けると、ゆっくりと話し始めた。
「あのね、クラウドと別れたあと、七番街に戻ったらあやしい男たちがいて……気になって調べたら」
「コルネオの手先だったわけか」
「うん、アバランチのことを探ってたみたい。でも、それ以上はつかめなくて……」
ティファの話を聞いているうちに、クラウドの表情は険しくなっていった。
どうやら、クラウドは何か考え込んでいるようだ。
「オーディションに通りさえすれば、コルネオとふたりきりになれるから、いけると思ったんだけど……でも、オーディションの候補者は3人……」
ティファが人数確認をすると、気まずそうな顔をして黙り込んでしまった。
フキは苦笑いするしかなかった。
ひとり多い。
しかも、うち二人は女装をしている。
「たぶん、心配ないよ?人数、多いけど、残りの候補者ってわたしたちだもん。ねっ!」
エアリスはそう言って、クラウドの隣に立った。
クラウドは、複雑そうな表情を浮かべながらも、エアリスにうなずいてみせた。
そんな二人の様子をみて、フキはクスクスと笑っていた。
クラウドの女装は、かなり際立っているが、エアリス達と並んでもまったく違和感なく溶け込んでいた。
「まあ、人数だけなら、結果オーライだな……」
「ほら、全員が仲間なら、問題ないでしょ?」
「それはそうだけど……」
ティファは、困ったように呟く。
「ティファと、わたしと、クラウドと、フキ。誰が選ばれても、安心」
「でも、エアリス。あなたを巻き込むわけにはいかない」
ティファは、まだ納得していない様子で、首を横に振っている。
「でもよー、ここまで来ちゃったからには、今更お家に帰りますって、帰らせてもらえる保証はねーし。乗り掛かった船だと思ってくれよ」
「こいつの言う通り、そういう遠慮は、恐らく無駄だ」
フキは、クラウドの言葉に、ニヤリと笑ってみせていた。
クラウドは、小さくため息をつく。
「あ~~、クラウド!わたしたちのこと、わかってきた?」
エアリスは嬉しそうだ。
(わたし"たち"?俺も含まれてるの?)
フキは、微妙な表情を浮かべて、隣に立つ彼女を見つめた。
エアリスは、満面の笑みを浮かべている。
フキは、少し考えたあと、諦めたように微笑んでみせた。
エアリスは、満足げにうなずく。
クラウドも、観念したのか、大きく肩を落とし、俯いた。
投稿日 2022/05/06
改稿日 2022/11/03