11

フキとクラウドが七番街スラムに戻ろうとすると、ゲートが軋むように音を立てて開かれた。
七番街スラムから、チョコボが引く辻馬車が入ってくる。

辻馬車の小窓越しに中が見え、座っていたのは、長い黒髪が印象的な女性だった。
クラウドはその顔に見覚えがあった。


クラウドの幼馴染のティファだ。


「ティファ!」

「えっ、ティファ!?」


タイミングが悪いのか、クラウドの声はティファに届かず、彼女を乗せた辻馬車はそのまま走り去って行った。
慌てて追いかけるクラウドは、馬車のキャリッジに飛び乗る。
フキとエアリスは、クラウドの行動を見て驚き、お互いに顔を見合わせた。

クラウドは小窓から顔を覗かせて、ティファと何やら話をしていた。
何を言っているかまでは聞こえなかったが、彼女の表情を見る限り、どうもあまり良い雰囲気ではないようだ。


しばらくすると、クラウドの顔色が変わった。眉間にしわを寄せた険しい表情になる。

何かあったのだろうか?
フキ達は辻馬車を追いかけるような形で道すがら、ティファの事についてクラウドから聞き、ウォール・マーケットへ続く道を歩き始めた。


クラウドの話によれば、詳しい事情は聞けなかったが、ティファは何か思惑があって、自らコルネオのもとに赴いたのだ。
だが、エアリス曰く、コルネオは好色漢で気に入った女を無理やり、自分のものにしてしまうらしい。

もしそれが本当ならば、今頃ティファの身が危ないと踏んだエアリスに促され、クラウドはすぐに行動に移したのだ。
ウォール・マーケットに到着すると、すぐにティファの姿を探したが、見当たらなかったため、ひとまずチョコボ車が置かれた小屋へ向かうことにした。

そこで、フキ達三人は、チョコボ車の御者に声をかけた。
御者は、フキ達が冷やかし客だと勘違いしているようで、追い払うような仕草を見せたが、クラウドが喧嘩腰で詰め寄ると、小屋の中から凄みのある声と共に、チョコボ小屋のオーナーらしき男が現れた。


「なに、騒いでやがる!なんだ、見ねえ顔だな……って、ガウナちゃん!?」


男は、フキを見ると一瞬驚いた様子を見せ、目を丸くした。
フキは怪しげな視線を向ける男を睨みつけながら、問い質す。


「ちょっと~~、あんたとペアルックな見た目したお友達に、自分が馬車で乗せてきた女の子のこと聞いただけよ~~?それをさ、まだ"何にも"してないのに冷やかし客扱いして、殴りかかろうとすんのよ?この落とし前、どうやってつけてくれるわけ!?」


名前を知っているということは、この男が過去に母、ガウナと交流があったに違いないと思った。

それにしても、フキ自身、他者の声の再現率の高さに驚かされるばかりである。
精霊の加護があるとはいえ、一度聞いただけで、完璧に真似ることができたからだ。


クラウドとエアリスは、フキの豹変ぶりに戸惑いを隠せないようだったが、男とのやり取りを聞いているうちに、状況を理解したらしく、落ち着きを取り戻したように見えた。


「すまなかったよ、ガウナちゃん。でも、探してどうするつもりなんだ?」


ともかく、フキの言葉を聞いたオーナーは、顔面蒼白になり、すぐさま謝罪をし、必死に弁明していた。
その様子があまりにも滑稽だったため、クラウドとエアリスは思わず吹き出しそうになる。

そして、フキもまた、笑いを抑えきれずにいた。


「その、ティファっていう娘が、彼のタイプなんだって。だから」

「隣にガウナちゃんとそこの嬢ちゃん侍らせて、両手に花状態だっていうのに……兄ちゃんも好きだね。といっても、結構つれてきたからな。どの娘だ。特徴は?」


自然と皆の視線が、ティファをよく知るであろうクラウド一人に注がれた。
クラウドは、とりあえず思いついたことを言ってみた。


「ああ……蹴りが鋭い」


それは、特徴とは言わない。


「それ、特徴かなあ?」


エアリスにも指摘される。
ざまあ、とフキは心の中で呟いた。


「もしかして、ティファちゃんか?」


なぜ、通じる。フキは、そう言いたかったが、なんとか飲み込んだ。


「兄ちゃんも撃ち抜かれちまった口か。でも、残念だったな。あの娘は当分、出てこれねえよ」

「どういうことだ?」

「あの娘は特別よ。コルネオさんの屋敷に入って、オーディションを受けることになってる」

「オーディションって?」


エアリスは、首を傾げた。
男は、そんなエアリスの様子を見かね、代わりに答える。


「コルネオさんが嫁を選ぶ、オーディションさ」


そこまで聞くと、三人は表情を一変させた。
三人は、ティファが無事かどうか不安になったのか、互いに顔を見合わせる。


「ねえ、あんた。こんな美女二人に、あんたのお友達が、あたしらに難癖つけたんだから、今ここで落とし前つけなさいよ」


フキがすかさず男に詰め寄った。
男の態度は一変し、急に媚びへつらうような口調で、フキに弁解を始めた。


「ガ、ガウナちゃん……!でもよ……」


クラウド達は、その様子を見て、再び吹き出した。
フキは、クラウド達の様子を横目で確認すると、小屋の壁まで男を追い詰め、股の間に蹴りを入れて壁をドン、と突く。


「迷惑料よ、迷惑料。あんたも代理人なんだから、推薦状の一つや二つ、出せるでしょ?」


すると、男はひいっ、と情けない声を上げて縮こまる。
中年の男が、これほどビビるということは、母は昔から、こういう風に周りの人間を言いなりにしていたのだろうか……。それは、さておき。


「出すもん、出しな」


フキは、男に凄む。
フキの気迫に押され、男は慌ててズボンのポケットに手を入れ、用紙を取り出した。

男がサインを書き終えたその瞬間、フキは素早く手を伸ばし、奪い取る。
そこには、大きく"推薦状"の文字が書かれていた。
そして、その下には、ガウナとしての名前が記されている。


「これが、俺からの推薦状だ。ただし、これはガウナちゃんの分だ。本来なら、推薦状は代理人一人につき一枚しか渡さねえが、ガウナちゃんは特別だからな。着替えはすまねえが、自分で用意してくれ……」

「グッド・ボーイ」


フキにそういう趣味はないが、頬に口付けし、男を褒め称えた。

フキは、紙を大事に折り畳んで懐に入れると、クラウド達に向き直り、笑顔を見せる。
クラウド達は、先ほどまでの緊張した様子から一転し、ホッとした表情を浮かべていた。


「これで、大丈夫……だよね?」

「多分、ね」

「とりあえず、コルネオの館に行ってみるか」

「だな……って、なんだよ。クラウド」


フキは、クラウドの視線に気づいた。何を言おうとしているのはわかるが、あえて聞き返すことにする。
クラウドは、愉悦したように、言葉を続けた。


「フッ、よくもまあ、あんな三文芝居で推薦状取れたと思って」

「ああん?どんな方法だろーが、推薦状は貰えたんだから、いいだろっ!」

「貰ったんじゃなくて、強奪だろ。あれは」


しかし、フキの抗議の声を意に介することもなく、クラウドは平然と答えた。
クラウドの一言が気に食わなかったのか、フキはクラウドに詰め寄り、強奪した推薦状をひらひらと、フキはクラウドの眼前に扇ぎながら見せつける。


「ガウナちゃんってば、やるぅ~~!」


フキがクラウドを小馬鹿にしたような表情を浮かべていると、エアリスが二人の諍いを止めに、間に割って入った。
エアリスに褒められたフキは、まんざらでもない顔をしている。


「そ、そおかな……?」

「フキ、輝いてたよ!」


クラウドは、呆れた様子で、二人のやり取りを眺めていたが、ふと我に返り、コルネオの館に向かうことにした。









コルネオの館の門の前で、クラウド達は足を止めた。


コルネオの館は、巨大な城だった。
至る所にドラゴンの彫り物や置物があり、紺色の瑠璃瓦で覆われた荘厳な宮殿のような外観をしていた。
朱色の欄干に、長さ二十メートルほどの桁橋を渡れば、その先は正門になっている。

クラウド達が、二つ目の門の前まで近づくと、屈強そうなガードマン二人とリーダー格の男が立っており、クラウド達の行く手を遮った。


「おい、それ以上近づくな。男に用はない」


男の言葉に、フキはムカッときたが、クラウドに止められる。


「人を探している」

「おまえ、ウォール・マーケットは初めてか」

「だったら、なんだ」


てっきり、リーダー格の男に蔑まれるのかと思いきや、男は意外にも丁寧な態度を取った。


「屋敷は立ち入り禁止だ。とくに男はな」


そして、男の口から予想外な言葉が発せられる。


「代理人から推薦状を貰わないと、オーディションすら受けられない」


フキは、一瞬耳を疑ったが、すぐに理解した。

どうやら、コルネオの館に入るには、代理人からの推薦状の提出が必要らしい。
そして、フキ達の手元にある推薦状は一枚のみで、しかもガウナの名前で推薦すると認められている。

つまり、この場でエアリスがオーディションを受けたいと立候補しても、コルネオの屋敷に入ることはおろか、オーディションを受けることすらできないのだ。


「ウォール・マーケットには、コルネオさんの好みを熟知した、3人の代理人がいる。まず、チョコボ屋のサム。そして、手揉み屋のマダム・マム。最後が、蜜蜂の館のアニヤン・クーニャンだ。全員、ひとクセやふたクセもある連中だ。推薦状はおそらく、簡単じゃあない」


どうしても入りたいなら、代理人を頼れ、ということだろう。
フキは、チラリと横目でエアリスを見た。残念そうに俯いている。

クラウドは、何かを考え込んでいるようで、腕組みしながら黙り込んでいた。


「クラウド、フキ、どっちから、行く?」

「人伝いに遠いほうから、聞いてみるか」


クラウドの提案に、フキは賛同した。
三人は、チョコボ小屋のサム以外の代理人を探すことに決める。


「だな。あー……その、二人には悪いんだけどさ、俺ちょっと用事できたから、先に聞き込みしててもらってもいいか?」

「そんなに大事な用なのか?」

「まあ、避けては通れないって感じだな。数時間したら、さっきのジョニーとかいう奴伝いに、待ち合わせ場所を言うからさ!」


ごめん、と勢いよく顔の前に両手を合わせて、フキはその場を急いで離れた。









スラムの中でも、かなり奥まった場所にある建物へとフキは足を運んだ。

独特の店構えに、レトロさが印象的な赤提灯が醸し出す雰囲気が、そこはかとなく淫風を感じさせる。
フキは扉を開けて、店の中へと入った。

途端、こってりと濃厚な甘いエスニック系の香りが、彼を出迎える。
店内の目を引かれるような、艶やかな朱色に圧倒されるのか、客の姿もまばらだった。


カウンターの向こう側にいる店主らしき人物が、フキの存在に気づけば、こちらへ来いと手招きをする。
着物の片方をはだけさせた、遊び女のような中年増の女。マダム・マム。

ウォール・マーケットの商業地区を取り仕切る実力者でもあり、手揉屋の店主兼施術者でもある。そして……。


「あんたが自分からここに来るなんて、珍しいねえ。ずいぶんとご無沙汰だったじゃないか」


吸いつくように顎を掬い上げられ、口の中にマムの舌が押し込まれた。
唇と唇を重ねてわずかに蠢き、一度離れて、角度を変えてまた押しつけられる。

フキの頭を押さえつけてくるマムの手を振り払おうとすれば、逆に指を絡められて握られてしまった。
唾液と混ざり合うような濃厚なキス。

ねっとりとした、それでいてどこか甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐる。
ようやく解放された頃には、フキの息は、すっかり上がっていた。


乱れた呼吸を整えながらマムへ向き直ると、彼女は相変わらずの妖艶な笑みを浮かべていた。
フキと彼女がこういうことをする仲になったのは、かれこれ三ヶ月前に遡る。

ひょんなことから、本家のアバランチの仲介で、フキは彼女と知り合うことになり、今では彼女のジゴロとして副業する羽目になっていた。

アバランチでの活動がない時は、ジゴロが本業になっていた月もある。
マムの情欲の相手としてご指名されない限り、二人が決して会うことはなかったからこそ、あえてここには近づかないようにしていたのだ。


それなのに、どうして今日に限っては、わざわざ自らこの場所に来てしまったのか……。

ティファの件もあり、後にここを訪れるであろうクラウドとエアリスの推薦状集めが円滑になれば、とこの場に来たのだから。


「場所、変えてもいいか?マム」


フキがそう言えば、マムはにっこりと微笑んで、店の奥にある階段を上り、スタッフオンリーと書かれた小部屋に案内される。

小部屋に入ると、マムはその場で着物を脱ぎ捨てた。
下着姿になったマムが、壁に手をついて、フキに向かって尻を突き出した。

マムの着ている赤いショーツを下ろすと、彼女の割れ目から溢れ出ている愛液が、太股の内側まで伝っていた。
フキはベルトに手をかけて外すと、つなぎとパンツを同時に下ろした。


硬くそそり立ったペニスに右手を添えて、左手でマムの腰を掴む。
そのまま、一気に根元まで挿入すると、膣内がビクビクッと痙攣した。


「あぁん!いきなり、挿れるだなんて、あんたも人が悪くなったねぇ」

「こんな格好してるほうが悪いんだろ?マム」

「そうかい。なら……」

「ちょっ、おいっ!」


マムはフキの首に腕を巻きつけて抱きついてきたかと思うと、激しくピストン運動を開始した。
フキは我にも無くマムの両肩を掴み、その動きを止めようとしたが、彼女の動きに翻弄されて上手くいかないうちに、マムはフキを壁に押しつけた。


「ほらほら、どうだい?あたしの中は気持ちいいだろう?」


耳元で囁かれる声音。熱い吐息。肌から伝わってくる体温。
そして、膣内の肉棒を締めつける力。

全てが快感となって、フキの身体を駆け巡る。
気がつくと、フキはマムの中で果ててしまっていた。


「それじゃあ、エアリスとクラウドっていう男女が来たら、親切にしてやってくれ。マムが可能な範囲でいいから」

「あたしを満足させたからって、約束はできないよ?」

「話を聞いて、検討してくれるだけでいい」


マムはわかったと返事をしてから、フキにキスをして、店の中へと戻っていった。
彼は手揉屋を後にして、大通りへと戻る。


(……俺、何やってんだろ)


クラウドとエアリスに推薦状を書くのに、あんな女に頼った自分が許せない。

マムとの行為は確かに良かったが、そういう問題ではない。
コルネオのオーディションにエアリスやティファが選ばれてしまえば、きっと、今のじぶんたちと同じようなことをする羽目になる。
だからこそ、彼女達には、そんな思いをさせたくないのだ。


エアリスのためなら、フキは何でもできる。
それが例え、自分自身のプライドを捨てることになろうとも…………







投稿日 2022/05/05
改稿日 2022/10/31




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -