TOA×シリーズ


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05






本来ならばツオンの誘いを断って、俺は今頃、教会の花達の手入れをしている筈なんだ。
なのに、何故俺はこんなSF映画みたいな機械都市にいるんだろう。


スラムの上にある街まで連行された俺は、街の中心に聳え立つ歪なビルに目を奪われた。
街の人間から見たら、今の俺は都会に上京してきた田舎者みたいな顔をしてるだろう。


「早くしろ。人を待たせてるんだ」


ツオンに急かされ、止めていた足を再び進ませる。


(俺の意志でシンラに来るって、言ってないんだけど…)


雑草事件の事でツオンの怒りを買った俺は、秘奥義を奴にぶっ放された挙げ句、拐われた。
しばらくの間気を失っていたが、八番街に来て意識を取り戻したので、俺がスラムに帰る道は完全に絶たれた。

逃げ道を失った俺は、必然的にシンラへ入る事になった。
慣れない土地で逃げ回っても、体力が無駄に消費されるだけだしな。

追いかけるのは好きだけど、追われるのは嫌なんだよ。


噴水広場の小さい路地裏を抜け、俺とツオンはビルのエントランスに入る。
街とは違った雰囲気に変わり、その空間に戸惑う。
見たことのない景色に期待と不安の眼差しを送りながらも、ツオンから離れないように早足で彼の後を追いかける。

エレベーターに乗り、ツオンが49と書かれたボタンを押す。
超高層ビルなのは表から見ても一目瞭然だが、実際にエレベーターで移動するとその果てしない高さが伺える。
ソエルの木と良い勝負だろうな。


「こっちだ」


目的地にエレベーターが止まると、ゆっくりと自動ドアが開く。
ツオンに誘導され、エレベーターの近くにある部屋へと案内された。

中に入ると、正面にガラス張りの仕切りが視界に入る。
隅っこに小さく取り付けられたようなドアをくぐり、会議室みたいな所に出る。

かまぼこ場に配置されたデスクと椅子。
中央には大画面テレビ。
シンプルな内装だけど、造りや材質はその場にいる者の気を引き締ませるような空間だ。

こういう堅苦しい所、苦手なんだよな。
造りが全く違うけれど、ベルケンドとここの雰囲気は似ているような気がする。
どちらも息詰まるような所とか。


「少しだけ、ここで待っていてくれ。統括を呼んでくる」


統括?
単語の詳しい意味を即座に理解できなかったが、責任者を呼びに行ったのだろうという風に受け取れた。
会議室に一人だけで取り残された俺は、ただ突っ立っているしかない。
何かそこら辺をいじる訳にもいかないしな。
でも、退屈すぎる。


キョロキョロと視線だけを動かして、周りを見渡すだけしか今はやることがない。
せめて茶ぐらい出して欲しかった。



「君が、ソルジャー候補かな?」


後ろから声をかけられ、そちらの方へと振り向く。

眼鏡をかけた金髪の男が、俺を品定めするような目で見下ろしていた。
おそらく、ツオンが言っていた"統括"というのはこいつの事だろう。
そいつの方へ体の向きを変え、対面する形になる。
俺が姿勢を正すのを見計らって、握手を求めた手つきで俺に言った。


「ソルジャー部門の統括をしている、ラザードだ」


何か、食品名とかにありそうな名前だ。


「フキ・フォン・ファブレです」


彼に習い、俺は差し出された手を握って自分の名を告げた。


「話はツォンから聞いている。何分、ソルジャーの人員が不足しているのでね。素質さえあれば、誰でも大歓迎だよ」


そんな簡単な条件で、俺みたいなガキが容易くソルジャーになれるものなのか?怪しさ満点すぎんだろ。

訝しげな目で、俺はラザード統括を見つめた。
俺の不満げな視線に気づいたのか、ラザード統括は話を進める。


「だが、ソルジャーになってもらうには、君に魔晄を照射しなければならない」

「しょう、しゃ?」


健康調査みたいなものか?


「ソルジャーになるには、力を得る為の手術を受けなければならない」


ドーピング手術、受けんのかよ。
手術だけは受けたくないので、俺はソルジャーになる事を拒否したが、その意見は二人によってバッサリと切り捨てられた。



ツオンに力づくで引きずられるように連れられ、俺は配合ルームという場所に訪れた。
ここで魔晄を照射するらしい。

ラザード統括も立ち会いに来ている。


「ホランダー博士、この子が先程お伝えしたソルジャー候補の者です」


ホランダーとか言う奴の前に、ツオンは俺を差し出す。


「この子が…」


顎に手を当て、俺の顔を見つめる。
ご期待に添えるような顔してんのかね、俺。


「とりあえず、こちらへ」


ホランダーにシリンダーの中に入るよう、指示された。
シリンダーに入り、ドアが自動で閉まると今まで放出されていた空気の流れが止まる。
密封された所為で、空気が少しもあっとしていて息苦しい。

早く終わる事を願って、俺は余計な動きはせず、自然体でその場に立つ。



「では、始める」


ホランダーのこもった声が耳に入るのと同時に、機械音が鳴る。
カシャッ、とシャッター音がして上を見上げると、赤いライトが点滅しているのが見えた。

視線を正面に戻そうと、首を動かそうとして、俺は異変に気づいた。
体が動かない。そればかりか、勝手に腕があがる。
自分の意思とは反対に。


「なん、で……」


それに抵抗しようとしたが、無駄だった。


「あぁっ!?」


頭に激痛が走り、思わず奥歯を強く噛み締めた。


『この力は、お前に害を及ぼす。本来の力を我に見せてみよ……』


はっきりとした声が、頭の中に轟くように聞こえた。
その痛みに、俺は吐きそうになる。

伸ばされた手が、ガラス製のシリンダーに向けられる。
手のあたりで空気が震えるのがわかった。

それは徐々に広がっていき、自分の中から何かが噴出してくる。
パリン、と薄氷が割れるような音が頭の中に響いた瞬間、俺は意識が崩れていくのを感じた。


そして、大事な物が頭の片隅から消えていく。
世界が揺らぐのと同時に、何も見えない、聞こえない感覚に襲われた。








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