TOA×シリーズ


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04





「ここ、私の家」


そう言って、案内されたエアリスの家は童話とかに出てきそうな、可愛い外装をしていた。
ガラクタが積まれているだけの街に、こんな素晴らしい別世界あるとは思わなかった。

初めてこの場所を見る人間にとっては、大半の奴が俺と同じ気持ちを味わうだろう。
だって、花畑の所から滝っぽいものが見られるんだぜ!?


「エアリスの家って、俺が想像してたのと違うな」

「スラムの人では、こんな立派な家、珍しい方だよね」


エアリスの家は、トタン板やビニールシートで構築されてると思ってたからね。失礼な話ではあるけど。


「あっ、花畑!」


家の近くで咲いている花畑に、俺は駆け寄った。
よく見れば、教会で咲いていた花と同じ種類のものだ。


「ここでも、この花を育ててるのか……」


一輪、一輪を見渡し、庭の中央で花に囲まれながら俺はその場に佇んだ。


「この場所、気に入った?」

「……うん。 なんだか故郷に帰れた気分」

「なら、私の家で暮らす?」

「え?」

「フキが良ければ、ね」


できればそうしたい。
けど、思春期の女の子の家に野郎が入り浸るというのは……どうなんだろう。
一般常識的に、不味くはないだろうか?


「い、いいよ、エアリス。 見知らぬ人間が、居候するわけにはいかないし!!」


さすがに、気が退ける。


「でもフキって、どこか行く宛、あった?」

「……ない」


エアリスの勘の鋭さに、俺は返す言葉が無かった。


「遠慮、しなくて良いんだよ?」

「……」


遠慮はしてない。
だってこんな上手い話、どこに行っても、この先は無いだろう。


エアリスの申し出に、首を縦に振りたい所ではあるが……。


「誘ってくれたのに、悪いんだけど、エアリスの家に住むのは、遠慮しておくよ」

「……フキ」

「それに教会の花達が気になるから、俺しばらくの間は、教会で暮らすよ!」


何かを言われる前にエアリスの言葉を半ば強引に遮り、俺は教会に住むと告げた。
やべぇ。野宿生活、決定だ。


「……わかった。 けど、ご飯は一緒に食べよう?」


どうやら、エアリスは俺の意見に賛成してくれたようだ。
渋々だけど。


「じゃあ、また明日ね。 エアリス」

「送ってくれて、ありがとう。 朝、ご飯持って行くから」

「うん、ありがとう。 よろしくね」


お互いに手を振り、別れの挨拶を交わす。
俺は、今まで歩いて来た道にゆっくりと足を進ませた。


エアリスと約束してしまったからには、伍番街スラムから離れない方が良いよな。
って言っても、今の俺じゃスラムの中を迷わないで、色んな所へ出歩くのは不可能に近い。
特に行きたい所もないから、俺は真っ直ぐ教会へ帰る事にした。


教会の近くまで行くと、見知らぬ人間が教会の扉の前で佇んでいる。

誰だろう?この世界に知り合いなんて全くいないから、気にしないけど。
俺に対して人畜無害なら、なんでも良いや。


「ちょっと、失礼しますよ〜」


謝りながらそいつの脇を通り、教会の扉に手をかける。


「待て」


教会に入ろうとしたら、そいつに肩を掴まれた。


「のわっ!」


急に肩を掴まれた反動で横転しそうになる。
次の瞬間、トンッと背中から何かにぶつかる衝撃が伝わった。
後ろに振り向けば、俺が転ばないように支えてくれていた。

後方からのホールド体勢なのが気になるけど。


「突然、呼び止めてすまなかった」


そいつは俺に謝ると、ホールドを解いてくれた。


「あの、俺に何の用があるんですか?」


自分の衣服を正しながら、俺はそいつに話しかける。


「本来は、君ではなくエアリスに用があった」

「エアリスに?」


見るからに全身黒づくめで怪しい格好をしたコイツが、エアリスに何の用なんだろう?


「ああ。だが、公園での君の活躍を見て、君にも用事ができた」

「俺に?」

「そうだ。君ぐらいの歳で、あんな上級魔法を使える人間は数少ない」


つまり、コイツは俺の力量に目をつけたって事か。


「俺にどうしろと?」


「神羅に来てほしい。できればな」


選択肢を与えているような口振りだが、黒真珠の目は拒否権を与えないという意志を込めていた。


「もし、断ると言ったら?」

「エアリスへの監視の目は厳しくなり、君の行動範囲も制限せざるおえないだろう」


俺の顔を見つめたまま、絶望的になるような言葉を、そいつは淡々と吐き捨てた。
それよりも気になったのは、"エアリスの監視"という言葉だった。

彼女のような明るい性格の何処に、監視と言う物騒な単語が結びつくんだ?
彼女が悪い事をしでかすような人間には見えない。


「エアリスから、我々の事を聞いているか?」

「彼女からは何も。ただ、ソルジャーに対して悪い印象しか持てないって…」


エアリスの家に向かう途中、彼女自信から聞いたのはソルジャーという存在があまり好ましく思えない、という事だけ。
それ以上の事は、聞いても曖昧な答えしか貰えないだろうと判断した。

彼女がそれ以上追及される事を拒んでいるようだったから。


「なら、私の口からは何も」


どうやら、エアリス自身が言わない限り、自分の事を話す気は無いようだ。


「シンラだっけ? お宅がいる所」

「ああ。何だ、着いてくる気にでもなったのか?」

「少し違うかな。その話、保留にしといてくれないか?今すぐに決断するのは、無理がある」


多分、拒否した所でコイツが素直に諦めてくれるとは思えないけどね。


「保留にするのは構わない。 だが、早めに答えを出してほしい」

「わかった。 明日のこの時間に、今と同じ場所で待っててくれ」

「良いだろう……私の名はツォンだ。君は?」

「フキ・フォン・ファブレ」


良い返事を待っている、それだけ言うとツオン(こんな感じの名前)は去っていく。

エアリスに何て説明しよう……。
確かソルジャーだけじゃなく、シンラっていう組織も嫌いって言ってた気がする。
俺がシンラに行くって言ったら、確実に怒られるよな?




× × × ×



「ダメ!絶対、ダメ!!」

「やっぱし?」


教会まで朝食を持ってきてくれたエアリスに、シンラに行く事を告げてみた。
案の定、反対された。


「でも、このままずっと、エアリスのお世話になりっぱなしっていうのは…」

「だったら、神羅以外のとこ、働いて!」


まいったな……。今日はツオンと会う約束もしているし、俺はシンラに行くつもりでいるんだけど。


「今日、シンラの人と会う約束があるのに?」

「トンズラ、すればいい」


頬を膨らませて、エアリスは言った。
シンラやソルジャーに対し、彼女が毛嫌いしているのは知っていたが、彼女の口からここまで言わせるとは思ってもみなかった。

どうやったらこんな明るくて温厚な彼女に、これほどの嫌悪感を抱かせるような事ができるんだろう。
だんだんシンラに対して、不信感が募ってきたぞ。


「とにかく、神羅の人と関わっちゃ、ダメ!」


母親が子供を叱っている時の様な言い種で、エアリスは俺に念押しする。
同い年の女の子に叱られるなんて、何だか恥ずかしいな。


「わかった。シンラの人に、何を言われてもノーしか言わないって!」


これ以上エアリスに反論しても無駄だと悟り、素直に降参の意を示す。


「ホントに?」

「エアリスには嘘ついたって、無駄でしょ?」


ね?っと言って、俺は首を傾げながらはにかんで笑う。


「フキがそこまで言うなら、信じる」


どうやら、俺の意見に納得してくれたようだ。



あの後、エアリスを家に帰し、刻一刻とツオンと約束した時間が迫ってくる。
答えが何であれ、自分の意思を言わなきゃいけない時が必ずくるんだ。

その事をちゃんと受け入れなきゃ。
時の流れがやけに遅く感じて、エアリスを帰したことを今更になって深く後悔した。


一人になった時の不安感や焦燥感が半端なく、襲ってくるからだ。
もうイヤだ。逃げたい。



「フキ、答えを聞きにきたのだが………お前は一体、何をやっているんだ?」


ツオンがいつの間にか教会へ訪れていた事に気づかず、俺は現実逃避の為、花の周りに生えていた雑草をブチブチと引っこ抜いていた。
引っこ抜いていたものが花じゃないっつう所、俺偉くね?


「見て、わかんねぇ? 今、ガーデニングの最中なんだけど」

「それは、わかった。だが、人が喋っている時はちゃんと目を見ろ」

「あいよ」

「おうっ!?」


目を見る変わりに、雑草(土つき)をツオンの顔面にクリーンヒットさせてあげた。
そしたら、土の塊を人の顔に目掛けて投げてはいけないと、おもっくそ怒られた。

怒られるのを承知の上で、やったんだけどね。








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