03
俺とエアリスで訪れたスラムストリートは、思っていたものと違っていて、意外と人気がある事に驚いた。
教会前の通りは、人なんて全くいなかったのに。
何なんだ、この差は。
「あっちが、スラムマーケットに繋がるゲート。 そっちに真っ直ぐ行くと、公園」
分かりやすく道案内をしてくれるエアリスの話に、俺は胸を弾ませていた。
「公園とマーケット、どっちに行きたい?」
「迷うなぁ。 エアリスのオススメは?」
「両方!」
それ、スッゴい困るよ。エアリス。
中途半端な提案に、俺は頭を悩ませる。
「じゃあ…公」
「うわぁーん!!」
公園、とエアリスに言おうしたところで、急に上がった悲鳴に俺のリクエストはかき消された。
俺が公園に行っちゃ、ダメだった!?
「公園からだ!」
エアリスは、即座に公園の方角へ顔を向ける。
「うわぁあん!!」
よく耳を澄ませると、確かに悲鳴が聞こえてくるのは公園からだ。
「ってか、悲鳴じゃなくて泣き声だよな!?」
二回目ではっきりと悲鳴ではなく、子供が泣いている声に聞こえた。
「……」
「……」
俺達は無意識にお互いの目が合うと、それを合図にして公園がある方角に走り出す。
公園へ足を踏み入れると、ひやりとした風が肌を撫でた。
一見、簡素で無人化に近い公園だが、人の気配はする。
ついでに魔物の気配も。
「フキ、あれ!」
「えっ」
エアリスの焦った声に、俺は気を引き締める。
「子供が……!」
彼女の視線を追った俺は、血が氷つくような感覚を覚えた。
8歳ぐらいの少年が、魔物に囲まれている。
怯えていて、その場に立ち尽くしているようだ。
「危ない!」
エアリスは、少年の方へと駆け出そうとする。
「待って、エアリス。ここは俺に任せて!」
武器を持っていない人間に、魔物の相手をさせるわけにはいかない。
こういう時こそ、俺の出番だ。
「ヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ…」
辺りに微かな歌声を響かせ、俺の足下に巨大な譜陣が出現する。
直後、それは発動した。
目標を中心とした広範囲に、16発の雷が落ちる。
俺が放ったジャッジメントは、魔物にちゃんと当たっていたらしく、少年の周りは綺麗な粒子が空へ舞い上がっていた。
「兄ちゃん、すげーなぁ!もしかして、ソルジャー!?」
「別にすごくはないよ…? それにソルジャーって何?」
「ソルジャーを知らねえの!?」
そんな当たり前の事も知らないのかと、助けた少年に馬鹿にされる俺。
エアリスの頼みじゃなきゃ、親切にこの生意気なガキんちょを家まで送るもんか……!
俺達は少年を助けた後、またモンスター(とこっちの世界では言うらしい)に襲われるといけないので、エアリスと話し合った結果、家まで送り届ける事になった。
スラムストリートを行ったり来たりしたおかげで、俺はスラムの道を大体覚えられるようになった。
「俺、いつかソルジャーになるんだー」
だからソルジャーがなんなのか、分からないんだって。
夢を持つのは良いけど、俺にソルジャーについての説明をしてください。
ゲートを潜り抜け、露店が建ち並ぶ通りに出た。
これが、エアリスの言っていたスラムマーケットなのだろう。
案外、通りが狭そうで安心した。
迷わないで済みそう。
「ここまでくれば、俺帰れるよ」
どうやら、少年とはここでお別れのようだ。
どんだけ近場に住んでんだ、コイツ。
「気ィつけて帰れよー」
俺は棒読みで挨拶を告げ、ヒラヒラと手を降りながら少年の帰宅を見届ける。
「そうだ、兄ちゃーん」
5mぐらい進むと、少年は立ち止まって俺達の方へ振り返る。
俺とエアリスは少しだけ見つめあうと、首を傾げて少年の方に視線を移す。
「兄ちゃんさぁ貧弱そうだけど、見かけによらず強いから、エアリスとのこーさいを認めてやるよ!」
「なっ!?」
「!」
少年の爆弾発言に、俺とエアリスは言葉を失った。
じゃあな!と俺達に告げ、少年は走り去っていった。
「……」
「……」
ヤバい、エアリスの顔を見ることができない。
恐らくエアリスも、同じ気持ちだろう。
俺は、顔を赤らめているのをエアリスに見られないよう、少年が去った方向を見つめる。
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別に、エアリスと恋仲にあるわけじゃない。
互いに、その気があるわけでもない。
なのに。脈打つ鼓動と共に、体が熱を帯びていくのは何故なんだ。