TOA×シリーズ


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ザックスと師匠の調査隊がニブルヘイムに行ってから七日目。
俺とエアリスが危惧していたことが、現実となってしまった。


片田舎の小さな村だというのに、悲鳴が村の外れまで木霊する。
全ての建物から炎が噴き上がり、暗い夜空を明々と照らし出す。


「何なんだ、これは−−!?ザックス……セフィロス師匠!!」


ヘリでニブルヘイムの出入り口まで送ってくれた、タークスの調査員の制止をはねのけて、俺は村の広場まで突き進んだ。
身動きもできないほどの高く上がった炎の海の中にいるというのに、不吉な予感に、全身を冷たいなにかが駆け抜けていく。

どこからかやってきた悪寒が背筋を走り抜け、村のあらゆるところに目を向けると、一ヶ所だけ火の手が上がっていない建物が目に入る。
村から少し離れた山の上に聳え立つ、魔晄炉。


−−あそこか!


村の中の混乱と騒ぎは、並大抵のものではなかったが、それよりも先に優先すべきものがあると俺の直感が告げていた。
反射的に俺は、魔晄炉へと駆け出していた。

翼を持たない俺にできることは、この混乱の極みにある通りを走り抜けることだけだった。
何人もの人間とぶつかり、弾き飛ばす。
その中には女子供、怪我人や老人もいたかもしれないが、それは俺の知ったことではない。
ようやく魔晄炉内の培養ポッドが沢山置かれた部屋にたどり着いたときにはもう、クラウド以外の皆が致命傷を負い、床に崩れ落ちていた。


「クラウド!その子は−−!?」

「幼馴染なんだ!助けてくれ、フキ!!」


クラウドが抱きかかえているカウボーイの女の子に近寄り、治癒術を施す。
細かい傷は綺麗に消せたが、深い傷は止血が精一杯だった。あとは、この子の生命力次第としか言えない。


「ごめん、クラウド。俺にはここまでしかできない」

「いや、いいんだ。ティファを助けてくれてありがとう。ザックスの治療もしてくれないか?ティファと同じくらい、酷い怪我をしてて……」

「ああ!」


クラウドの幼馴染だという女の子の治療を終え、階段の途中で突っ伏すザックスのもとへ駆け寄ろうとしたが、俺の足は階段下で止まってしまう。


「セフィロス、師匠……」


別の部屋から出てきた師匠に、理屈を超えた怖さを感じる。
負傷しているのに、人の頭部のようなものを大事そうに小脇に抱えた姿が、普段とは違った近寄りがたさがあるからだろうか。


「おまえごときに−−」


師匠の目には、クラウドしか映ってないのか、ひたすら睨み続けていた。


「クラウド、セフィロスにとどめを−−」


ザックスは致命傷を負いながらも、その声に秘められた力の強さは、従わせるには十分すぎるものがあった。
すっかりザックスの言葉に飲まれ、彼の愛剣を片手で握ると、師匠の名前を一喝して斬りかかる。
だが、師匠とクラウドの剣が切り結ぶと、師匠は力技でクラウドを弾き飛ばした。
俺は階段を駆け上がり、炉心部で倒れているクラウドに長刀を突き刺そうとする師匠の前に割って入り、師匠の愛剣・正宗の刀身を俺の愛剣で叩き落とす。


「おまえ−−!?」


俺の介入に師匠は唖然とし、次は不快感に顔を歪めた。


「貴方までこんな事をしないでください!セフィロス師匠!!」

「おまえまで、俺を裏切るのかっ!?」


師匠は長刀を掲げ、師匠の憤りに呼応するかのように、残像を散らしながら凄まじい加速で俺に急迫する。
振り下ろされた刃は一振り目はかわせたが、二振り目の突き上げられた光刃はかわせなかった。
師匠の剣に貫かれた胸よりも、父のように、兄のように慕っていた彼に裏切りに、俺は深い打撃を受けた。

理解がおとずれた次の瞬間、顔がくしゃっと歪み、目に涙が滲む。


「せんせ……ェ……、痛いよ……じに、だぐ……ないよぉ……」


うめきながら、俺は師匠に訴えた。
あふれた涙と血が混ざり合い、床にぽたぽたと落ちる。

俺を剣で貫いたまま、後ろ……師匠からしてみれば前進しているだけだが、表情は不敵な笑みを浮かべたまま歩み続ける。


「大丈夫だ。おまえの抱えている恐怖も、痛みも、これから感じなくなるさ。……二人で母さんの望みを叶えよう」


ポンッと軽く突き飛ばされるように、剣の刀身は俺の体から引き抜かれ、セフィロス師匠との距離が急速に遠のいていく。
背面から痺れるような痛みにぶつかると、全身が深い海に沈んだ。
魔晄炉のプールに、俺は落とされたことに気づく。

視界が一気に魔晄の、蛍光色のミントグリーンに支配されていった。


ミントグリーンの世界で鮮血の尾を引き終わると、魔晄の白や黄緑、グリーンのグラデーションが光る軌跡を俺は呆然と見つめた。
やがて、軌跡は黒一色になり、目が光を失うと、俺の意識は現在からなくなっていた。



−−手紙、渡せなかったな……。


未練から来る後悔の涙が、魔晄の海であてもなく漂い離れていくと、今度こそ、俺の五感と意識は完全に閉じられた。








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