TOA×シリーズ


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「フキ、いつもありがとう」

「むしろ、こういうことしかできなくて、ごめんな。エアリス」

「ううん、フキは花の育て方やお世話、上手だから、助かる」


花売りワゴン製作に取り掛かったはいいものの、一から材料を集めるところから始まり、ザックスは材料集めと製作担当。
俺はエアリスの護衛兼花の世話になってしまった。
ザックスと違って、日曜大工は不得手であるため、このような分担になったのだ。すまん、ザックス。


教会の中に咲いている花は、水はけがよく腐植質に富んだ土を好むタイプの品種らしく、排水の悪いところを盛り土をしたりしてレイズベッドをエアリスと作ったりしていた。
ザックスが資材を集め終え、ワゴン製作に着手すると、俺とエアリスは花を摘み、水揚げ作業に移行する。

数時間が経って、一通り、お互いの作業が終わると。



「なんか、かわいくないね」


花売りワゴンが完成し、シンプルなデザインを見たエアリスが発した一言。
腕を組み、声だけじゃなくその表情からも花売りワゴンの出来栄えに、難色を見せる。
エアリスの不満げな声をものともせず、ザックスは花売りワゴンの完成を喜んだ。

エンジニアでもないのに、こんなにも本格的な荷車を作れたザックスの腕前に俺はほとほと感服した。


「そうか?ま、いいじゃない。メインは花なんだから」

「俺も、ここまでザックスが作れるとは思わなかったから、この出来栄えはすげーよ……ザックス」

「それ、褒めてんのか?」

「納得、できない」

「ぜいたく言わない!」


やはりエアリスは素朴なデザインの花売りワゴンを享受できないのか、機嫌は損なわれたままだ。
親が子供に言い聞かせるように、ザックスは困った表情でエアリスに返す。


「ささやかな希望、言っただけ」


得意げにエアリスは、皮肉でザックスに意趣返しをした。相変わらず、エアリスは口が上手い。
二人の微笑ましいやり取りに、胸に軋むような痛みが時折走るけど、でも、二人と過ごす楽しいひとときの方が痛みよりも何倍に、俺を幸福で満たしてくれていた。


「ささやかだけど、たくさんあるんだろ?」

「あたり。聞く?」

「なん個あるの~?」

「うーん、ニジュウ、サン?」

「多いな……。ザックス、ファイト!」


俺は関係ないな!と、とびっきりの笑顔と両手のグッドラックサインをザックスに送っていると、エアリスは抜かりなく俺にも釘を刺してきた。


「フキにも、ささやかな希望、叶えてもらうんだからね!」

「えっ……」

「あっ、イヤそうにしたでしょ?フキはザックスより多めの、32個!」

「頑張れ~」


今度はザックスに笑顔とグッドラックサインをやり返された。こんちくしょう。


「紙に書けよ。忘れるから」

「うん」


ささやかな希望の数と内容をメモ取りしてもらうよう、ザックスが頼んでいると携帯端末から電話が入る。
どうやら、緊急を要するらしい。


「お仕事?」

「残念。フキはこの後も休暇を楽しめってよ」

「お前としばらく任務でデートできなくて、残念だ」

「言ってろ。メモ、ありがとな、エアリス」

「気にしないで。いってらっしゃい」


ささやかな希望が書かれたメモをエアリスから受け取ると、ザックスは頷き、エアリスと俺は微笑んだ。

その後俺達は一度解散して、ザックスが次の任務に赴く為、神羅ビルに戻るので、俺もザックスに便乗して一緒に帰った。




「じゃあな、ザックス」

「おう。フキも早く現場に帰ってこいよ」

「ああ」


エレベーターが目標階に止まると、俺達は馴染みのハンドシェイクをしてザックスだけがソルジャーフロアに降り、別れた。
変わり映えのない明日がまたやってくるんだろうけど、今日という日は二度と来ない。
俺はそれをちゃんと知るべきだった。


−−ザックスが任務から帰って来れば、またいつものように会えるさ。


取り止めのない些細なことでも、気を配らなければいけない事柄は無数に存在するのだから。








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