TOA×シリーズ


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モンスターになったアンジールさんの予想もしなかった形状と動きに、俺とザックスは反応が遅れがちだった。
野生の獣を思わせる敏捷さで、俺達に迫る。
そのスピードに、並の人間よりは幾分かマシな動体視力をもってしても、攻撃を回避するのが精一杯だった。

モンスター版アンジールさんに、いいように翻弄されて、俺はぎりっと歯を食いしばった。


「フキ、行けるか!?」

「やってみるけど、期待はするなよ!」


俺は身を沈め、襲ってきたモンスターアンジールさんを難なくかわし、振り返りざまグラビガで足止める。動きが止まったところをザックスが剣撃を打ち込み、俺は魔法で空中の一点から円錐状に氷柱を降らせた。
俺とザックスの連携技が勝敗を決したのか、モンスターアンジールさんの巨体が、妙に生々しい動作でくずおれる。
アンジールさんにとどめを刺したことで、モンスターとしての形を保てなくなり、夜光虫のような光の粒が四散すると人型に戻ったアンジールさんが、横たわっていた。

俺とザックスは挙措を失ったようにアンジールさんの傍に、駆けよった。
アンジールさんの姿は、ジェネシスさんと同じように劣化し、髪や目の色が白くなっていた。


「ザックス、フキ。よくやった。あとは、頼む」

「アンジールさん……!」


涙があふれて俺とザックスの視界は覆われる。


「誇りを忘れるな」


アンジールさんが差し出したバスターソードをザックスが受け取ると、満足したようにアンジールさんは静かに息を引き取った。

アンジールさんのようにバスターソードを額の高さまで掲げ祈るザックスの姿を見て、今にも『夢を持て。英雄になりたければ夢を持つんだ。そして誇りも』というアンジールさんの口癖が、聞こえてきそうだった。




× × × ×




モデオヘイムから帰ってきた後、気持ちを切り替えるまで俺はどうやって生活を送っていたのか、思い出せない。
ただ眠って、起きたら、隣に裸のシスネだったり、裸の知らない女の子がいたのはよくあった。

今日は、運良くシスネと淫らなことをした後の日だったらしい。
普段の仕事着からではわからないほどの彼女の大きめな乳房の谷間で、目が覚めた。

体を起こすと浴室に行き、シャワーで頭から何度も湯を浴びても、しばらくは先程のスレンダーなシスネの体に溺れた感覚が抜けずにぼんやりしていた。しかし、意識がはっきりとしてくると、モデオヘイムのことがついさっき起きた出来事のように感じられ、鬱屈とした気分に早変わりする。


ジェネシスさんとアンジールさん。
尊敬し、どこか家族のような付き合いをしていた身近な人間を、一度に二人も失った。
ザックスはもう前に進んだけれど、俺はまだ、進むための一歩を出せずにいた。進む事が怖かった。

二人がいない新しい日常に踏み込んでしまえば、簡単に二人のことを忘れ去り、楽観的に生き続けている自分を心の底から許せなくなりそうだったからだ。


「ちょっと。いつまで滝行してるつもり?私にもシャワーを使わせてくれないかしら」


さすがに呆けすぎたか、シスネが心配して声をかけてきて、やっと水の滴る髪を掻き上げた。


「良ければ、シスネも一緒に入る?」

「汚すのは寝室だけで十分よ」


シスネにバスタオルを投げ渡されるの引き換えに、俺は浴室を追い出された。

体を拭き、ソルジャー服に着替えているとシャワーを浴び終わったシスネとリビングで合流した。


「ねえ、フキ。何かその……気分転換でもしたら?」


ドライヤーで髪を乾かしていると、対面に座ったシスネが提案してきた。


「気分転換?俺達がほぼ毎日やってることは気分転換じゃないのか?」

「あれはあなたへの同情のセックス」

「……俺のこと好きでやってるのかと思ってた」


セフレ宣言のようなシスネの言葉に、俺は口に手を当て、衝撃を受けたような表情で落胆した。
同情のセックスって……。


「確かに、あなたのことは好きよ。でも、恋人関係は解消したいかも」

「なんで?」

「神羅の受付嬢から会社員、食堂で働いてる子にまで手を出したでしょ、あなた」

「タークスはそんなことまで調べるのか!?」

「必要とあれば」


彼女はタークス辞めて、探偵にでもなった方が世の中に貢献できるんじゃないだろうか。
タークスの仕事の早さに、改めて恐ろしさを俺は感じた。


「アンジールやジェネシスが死んで、あなたが情緒不安になるのもわかる。でも、もう、こんな……投げやりな生き方をするのはやめて。あと、浴室にある他の女が使ったであろうトリートメントとか置くのもね」

「情緒不安定なのと、その、他の女の子とやりまくってたのは認めるし……君の俺に対する誠意を裏切って、悪かった。でも、一つだけ否定させてもらう事がある」

「なに?」

「浴室のヘアケア用品は、セフィロス師匠と俺のだ。女性モノを置くスペースなんて、あの浴室にはない」

「……」


俺がヘアケア用品の持ち主が誰なのかを明言すると、シスネは冷却しきったような軽蔑した顔つきをした後、無言で俺とセフィロス師匠が住んでいる部屋から出て行った。
俺とシスネによる二年間の恋人関係は、俺の原始的で本能的な欲求の判断ミスのせいで、落っこちたアイスクリームみたいにダメになった。シスネにビンタされなかっただけでもありがたいと思おう。








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