TOA×シリーズ


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空気中に漂っているであろう元素を歌に乗せ、巡回していた兵を眠らせて一掃すると、俺は崖の上にいたザックス達に合図を送り、魔晄試験採掘施設へ誘導した。
施設に入って右手に進んだ先のエレベータに乗り、指定した階数に降りるとホランダーにレイピアを向けているジェネシスさんがいた。


「なにをする!おまえには私が必要だ。私がいなければ、おまえの劣化は誰が止める!」


その髪はほぼ白くなりかけ、何故かコートまで白い。
ジェノバ細胞。それがあれば劣化は止まるとジェネシスさんは考えているようだ。

ザックスがジェネシスさんのレイピアを弾き、俺はクラウドと一緒にホランダーを取り押さえる。


「クラウド!フキ!よくやった!」


ザックスに褒められたと思ったら、男二人がかりでしがみついてまでやっていた拘束を、ホランダーは勢いよく振り払って解いた。
床に叩きつけられたクラウドは、軽く伸びていた。

俺はよろけながらも立ち上がり、ザックスの加勢に向かう。
大人しくしてくれればいいものを、ホランダーは逃げ回るおかげで、ジェネシスさんと上手く交戦ができずにいた。もう、ホランダーをこの場で切り捨てた方が早いんじゃないか……?


「だがジェノバ細胞は、保管場所が分からない。宝条でさえ知らないんだ。見つかりっこない!!」

「だったらこのまま朽ち果てるさ。ただし、世界も道連れだ!!」


ホランダーの追跡をクラウドに頼み、数メートルの距離を挟んで、俺とザックス、ジェネシスさんの三人は対峙した。


「初めて手合わせしたあの時より、成長したな。フキ」

「貴方に半殺しにされかけた時から、セフィロス師匠に地獄のような鍛練に付き合わされましたからねっ!」


キン、と鋭い金属音が響いたような気がした。
それはもちろん錯覚なのだろうが、それほどまでに俺達を繋ぐ緊張感は高まりを見せている。


始まりは唐突だった。なんの前触れもない。互いに呼吸を合わせた訳でもない。
それでも、まったく同じタイミングで、三人の剣が交錯する。
三本の剣が人外の速度で空を斬り、打ちあい、炎をまき散らす。
振り抜けばそれぞれにとって必殺の間合い−−だが、どこにもそんな隙はない。

あたかもフェンシングの試合のごとく、必殺の一撃を打ち込む一瞬を探しながら、剣先同士で打ち合っている。
突き込まれるジェネシスさんのレイピアの刃を俺とザックスはかわし、振り払うとザックスが打ちかかる。距離を開けるとすかさず俺は魔法で火炎弾を二発放つ。
が、ジェネシスさんはそのすべてを鮮やかにかわしていく。
猛攻をかわしながら、俺とザックスに息もつかせず刺突の雨を浴びせてくるので、俺達は逃げまどうしかなかった。

ジェネシスさんに追い詰められ、ふと俺の意識が冷める。
太もものホルダーから小型のナイフを投げつけた。
ジェネシスさんは糸も容易く、それを弾き落とすが、俺はその瞬間を狙っていた。

ふっと身を沈めるようにジェネシスさんの視界から、俺は消えた。
ジェネシスさんが見る間に一筋の光条が下から射上げ、鳩尾目掛けて剣尖で突き飛ばす。

剣撃で建物内の隅まで吹き飛ばされると、ジェネシスさんは立ち上がれそうになかった。
それでも、ジェネシスさんは抗おうと息も絶え絶えに、LOVELESSの台詞を朗読し始める。


『明日をのそみて散る魂。誇りも潰え、飛びたとうにも、翼は折れた』


語り尽くしたところで、ジェネシスさんはどすんと地響きを打ってうつ伏せに倒れる。
敵対しても、ジェネシスさんのことが気がかりだった俺は、疑いもなく駆け寄った。
助け起こそうとしたが、振り払われ、後ろへ尻餅をつく。


「これが、モンスターの末路だ」

「俺たちはモンスターじゃない。ソルジャーだろ。誇りはどうしたよ」


ザックスの言葉に、胸を打たれたのか、ジェネシスさんは何かを諦めるように、ふふ、と笑った。
瀕死状態であるにも関わらず、立ち上がり、後退していく。


「『約束のない明日であろうと、君の立つ場所に必ず舞い戻ろう』この世界が俺の命をおびやかすなら−−道連れだ」

「ジェネシスっ!!」


黒い片翼を広げ、宙に飛んだと思ったら、漆黒の谷底へ落ちていくジェネシスさん。
フェンスの縁まで駆け上り、ジェネシスさんの手を掴めそうなところまで行ったのに。余計だ、と言わんばかりに最後までジェネシスさんは、俺の手を取ってはくれなかった。




× × × ×




さっきまでツォン達といた地点に戻ると、誰もいなかった。
もしかしたら、ホランダー追いかけているクラウドを目撃したツォンが応援に向かったのかもしれない。

俺とザックスも、ホランダーを追跡するべく、崖の近くで見つけたトンネルを進むことにした。


トンネルを抜けると集落に出くわす。
一つずつ、しらみ潰しに廃屋を回り、大きめの建物に入るとアンジールさんの顔を体の一部に象ったモンスター達と俺達は相対した。
階段を登ると、倒れているツォンとクラウドを発見する俺達。


「クラウド、しっかり!」

「だいじょうぶ……」

「今、治癒術かけるからな!」


最初にクラウド、次にツォンの順とザックスが声をかけて行き、俺が治癒術を施して二人の無事を確かめた。


「こ、この先だ……。ホランダーを確保してくれ」


タークスのツォンがやられるとは……予想外だった。
俺達はツォンの言った通りに、ボイラー室に入る。そこにいたのは、ホランダーじゃなく、アンジールさんだった。

とてつもなく、嫌な予感がする。
杞憂であってほしいと思いながらも、アンジールさんと会話を交わす度にそれは杞憂ではなく、決められた流れに逆らえないものなのだと、確信した。


「ジェネシスとは、本当なら俺が戦うべきだった」

「ったく、誰が仕向けたんだよ」


ザックスはいつものような、軽口を織り交ぜた歓談ができると思っているのだろう。それをさせまいと、アンジールさんは遮断するようにザックスの皮肉を跳ね除けた。

アンジールさんでは、ジェネシスさんと本気でやり合えないことは分かりきっていた。
幼馴染という関係が、どうしても覚悟をブレさせてしまう。

だから、第三者の立場にあった俺達にケリをつけさせた。


「だが、次はお前達自身の仕事だ」


向けられたバスターソード以上に、アンジールさんの言葉が俺達の胸につき刺さる。
俺達がアンジールさんに攻撃するよう、じゃれたような剣筋で振りかぶり、打ってくる。
かわして間合いを取っても、アンジールさんの挑発は止まらない。


「待っている人がいるんだろ?」

「アンジール、本気かよ−−」

「アンジールさん、俺は貴方を尊敬しています。これからもずっと尊敬していたいんです。だから、どうか……これ以上俺の信頼を裏切らないでください」


この機を逃したら、二度と俺の思いはこの人に伝わらないだろう。
みっともないと受け取られても構わない。俺は、僅かな希望でも逃したくなかった。


「何故だろうな……フキ。お前の持つ、無視できない何かに……わかりきった言葉が俺の胸を突き刺し、ざわめかせる。お前は脅威だ」


悔しそうな顔をして、諦めの色をアンジールさんは浮かべた。
アンジールさんのその反応を見て、俺も涙ぐみそうになり唇を噛みしめる。

もう、彼は"こちら側"に戻ってきてはくれないのだ。
俺の中で、迷いを振り切り、心を決めるしかなかった。
それはザックスも同じで、レイピアを鞘から抜き、二人してアンジールさんと斬り結ぶ。



「いいぞ、アンジール!我々親子の恨みを今こそ晴らすのだ!」


突如として現れたホランダーが、とんでもない発言をかましてくる。


−−親子!?ホランダーとアンジールさんの容姿からでは似ても似つかないぞ!?


「黙れ!俺の父は死んだ!」

「ならば母の恨みを晴らせ」

「母は過去を恥じ、自ら命を断った」


ザックスはここでようやく、バノーラ村でジリアンさんの死の真相を知った。
驚きと戸惑いのあまり、俺の顔を見るが、事実をザックスに伝えきれていなかったことに申し訳なく思い、目を伏せた。


ホランダーは聞きもしないことをベラベラと喋ってくれた。

プロジェクト・Gとはアンジールさんの母親、ジリアンさんの名前からとったもので、ジリアンさんにジェノバ細胞を埋め込み、胎児期のジェネシスさんにジリアンさんの因子を移植したが、失敗に終わったこと。
けど、アンジールさんはジリアンさんの胎内で細胞分裂を繰り返したから、成功作品だと言うこと。

そこまで聞くと、アンジールさんは苛立たしげにホランダーを突き飛ばし、一旦黙らせる。


「ザックス、フキ。俺は完璧な−−モンスターだ。俺の細胞は他者を取り込み、それを分けあたえることができる」

「双方向コピー−−ジェノバの力を正しく継承したというわけだ」

「ザックス、フキ、覚えているか?世を苦しめるものをすべてと戦うと約束したよな?」

「うん。でもあんたは違う」

「俺自身が、俺を苦しめる」

「でも、そんなアンジールさんに、俺達はいつだって救われてきました……!」


俺の視界から逸れようとするアンジールさんの姿を、俺は必死に追いかけた。
互いの瞳がかち合っても、同じ志を持つことは叶わない。これが、俺達にできる全力の向き合い方だった。


「俺はもう、お前たちを導くような高潔な生き方はできない。ザックス、フキ。見せてやろう」

「やめろ!取り返しのつかないことになるぞ!」


慌てた様子で、ホランダーがアンジールさんに追い縋って懇願するが、有無を言わせぬ態度で近場にいたモンスター達を取り込み、巨大なモンスターにその姿を変えた。
童話に出てくるようなケンタウロスのような体躯に、鎧と翼を与えたような出立ち。

目にも留まらぬ速さで、モンスターと化したアンジールさんの槍がザックスの頬を掠めた。
いよいよ、ソルジャー大量脱走事件に決着をつける、幕開きとなった。








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