TOA×シリーズ


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目の前には版画じみた冬景色。
後ろには不時着……墜落した神羅のヘリが、崖か何かで激突した時に破損した箇所から、火を吹かしていた。


−−なんでこうなったよ……。


遡ること数十分前。
モデオヘイムにヘリで向かっていた俺達は、モンスターの襲撃にあった。
鳴り止まぬ警報音と遊具よりも回転して落下していくヘリの中から飛び降り、ミンチになる運命からは逃れられたわけだが。


「いきなりモンスターのお出むかえとはね。フキ!ツォン!兵隊さん!!」


ヘリから飛び降りた衝撃で、俺達は皆、気を失ってたり、負傷者への治療を行っていた。

ったく、だからカ◯コン製のヘリは乗りたくなかったんだよ……!!
今回の墜落体験で、二度と空飛ぶ乗り物とか、乗りたくなくなった。


俺はまず自分の治療をしてから、他の負傷者の手当にあたる。
回復魔法をかける人間が、残り一人になった頃。


「電波が入らないようだ」

「ま、みんな怪我とかはフキが治してくれたし、なんとかなるだろ?」

「さすがだ。不便な土地では頼りになる」


楽観的なザックスに、ツォンからの揶揄が入る。
いくら近くに村があるといっても、連絡手段がないんじゃ、この寒さを長期間凌げるとは思えないしな。
慣れない土地じゃ、ツォンが神経質になるのも無理もない。


「どーせ田舎もんです」

「さて、落ちずに進んでいれば、モデオヘイムに着いたはずだ。つまり、このまま進めば村がある」

「よーし!俺についてこい!」


この寒さを気にも止めず、ザックスは張り切って先頭を歩き出す。
ザックスが一番薄着なのにな……。




「おーい!あんまり遅れるなよ!」

「これでも歩く速度、緩めてねーんだけど!?」


慣れてるとは言え、久しぶりに雪山で俺は足を取られる。俺の後ろにいるツォンと一般兵の一人もそうらしい。

ザックス、一般兵A、俺、ツォン、一般兵Bの順で歩いているが、前方のザックスと一般兵Aとはどうしても距離が開けてしまう。


ザックス達にようやく追いつくと、はしゃぎ倒したザックスが勇ましく声をかけて来た。


「よろこべフキ、ツォン。俺と−−」

「クラウド」

「俺とクラウドいれば、辺境の地は恐いものなし!」

「ああ、任せる」


ザックスの隣にいた一般兵A……クラウドがヘルメットを脱ぎ、素顔を露わにする。
金髪のツンツンヘアに、深い青の瞳。

恐らく母親似なのだろうか?輪郭の整った女のような美男子だった。


「じゃあ、恐いものなしのザックスとクラウド君に、花売りワゴンの一つや二つ、作ってもらうとするか!」

「なに、花売りワゴン作りから逃げようとしてんだよ!フキは強制参加だって!!エアリスから、ご指名されてるんだぞ!?」


ツォンみたく、ザックスを野次ったら、お返しにサイド・ヘッドロックを決められた。
クソ、ザックスの新しい友達のクラウドも、ワゴン作りの生贄にしようと思ったのに……。




モデオヘイムの村が見渡せる崖のところまで到達すると、俺達は身を潜めながら建物の周りの様子を打ち見る。
一応、警戒はしているらしく、決められたルートを巡回している兵士が複数いるのを見かけた。


「魔晄の試験掘りに使われた施設だ」

「我々の本来の任務はモデオヘイムでの調査だ。ここで戦力を減らすわけにはいかない。かといってジェネシス軍の動向を見逃すこともできない。つまり……」

「つまり、できるだけ戦闘を避けて潜入しろ。ってことだろ」

「そういうことだ。入口はあの倉庫の裏手にある。施設内に入ってしまえば、好きに暴れてかまわない」


作戦会議はこれでお開き、となりかけたところで俺は挙手する。


「ツオン、警備の目を逸らすの、俺にやらせてくれないか?その間、ザックスに内部へ行ってもらったほうが早いと思う」

「正気、か?いや、正気か」


本当に驚いたと言う声を出すツォンだったが、途中から冷静になり、合点がいくように頷いた。
俺とツォンだけが勝手に納得していることに、ザックスは疑問を口にした。


「ちょっと待てよ、俺が陽動なんじゃないの!?」

「ザックス。この場合、フキに陽動を任せた方が早い」

「はぁっ!?」

「まあ、見ておけ。フキ」

「おう!」


ツォンの呼び声を合図に、俺は崖を飛び降りて着地する。
ある程度深く、雪が積もっていた場所に降りれて良かった……。柔らかいし、音も吸収され、敵に気配を察知されずに済んだからな。


俺は、ゆったりとした歩調で施設の周りを巡回している警備兵に、近づいた。




× × × ×




フキが崖の下までダイブした後、残されたザックスは業を煮やしながら、単身で陽動作戦に赴いたフキの後ろ姿をずっと眺めていた。
フキの実力を疑っているわけではない。だが、自分が陽動になっても、なんの問題もなかったのではないか?と心配と承認欲求がザックスの中でせめぎ合っていた。

なんとか心の平穏を得ようとザックスはスクワットをしたりしていたが、落ち着きのなさをツォンに気取られていた。


ため息をして面倒くさそうな口ぶりで、ツォンは要領よく説明する。


「ザックス、少しは落ち着け。フキとて、おまえと同じソルジャー・クラス1stだ。簡単にはやられない」

「そうだけど……でも、フキ一人だぞ!?」

「たった一人では任務を完遂できないと考えていること自体、お門違いだ。……例えば、おまえはエアリスが弱々しくて、もろくて、守ってあげないと死んでしまいそうだと考えているだろう?」

「そりゃあ、まあ……。ってか、なんで今、エアリスの話なんだ!?」

「いいから最後まで話を聞け。エアリスのように、可愛くて弱いものは守らないとと思いがちになる」


ザックスは、ツォンの口から可愛いという単語が出て来たことに衝撃を受けた。
ツォンはザックスの考えていることが、手に取るように察したが、時間が惜しいので話を進めた。


「当の本人には守ってほしいか聞きもせず、具体的にどう守るのかも教えないで付き纏うのは特に問題だ。勝手に弱者だと決めつけるのも、もちろん問題でもある」

「俺が、フキのことを弱者として見てるって言いたいのか?」

「フキと何度も同じ任務についているなら、あいつがどんな戦い方をするのか、理解してると思ったのだが……」


ツォンに指摘され、ザックスは考え込む。
ツォンの言ったことが、思い当たらないわけではない。

フキの剣術は神羅の軍事訓練で身についたものでもなく、ましてや、師であるセフィロスに叩き込まれたものではないのが、共闘しているザックスには窺えた。
詳しい仔細をフキから聞いたことはなかったし、ザックス自身も人の粗探しをするようなタイプではない。

ただ、フキの戦い方は随分と変わっていて、どこか熟練めいたものがあるのをザックスも感づいていた。


フキは攻撃力に長けていた剣術を使い、無手でも戦えるようにすることを念頭に置かれているためか、多くの格闘技を用いることもある。
それだけでなく、魔法を行使した戦い方もジェネシス並みに優れていた。

戦闘スタイルだけなら前衛、中経、後衛、どの部隊にフキを置いても目覚ましい活躍が期待できるだろう。
だが、そんなフキにも不得手があった。

技の精度は非の打ち所がないくらい優秀だったが、会得していた剣術に比例するほどの物理的な攻撃力を、フキ自身が有していなかったのだ。


パワータイプでないことに関しては、フキから事前にザックスへの申告があったし、フキと協力して戦っている最中にザックスも無意識に感じ取っていたことだった。
だから、ザックスは前衛に。フキは中経か後衛に身を置いていた。
その配置とフキが弱者のように、逃げ場のない状態で至近距離からパワータイプの敵に押さえつけられれば、なす術がないという力の差に、フキへの侮りと気がかりが自然とザックスの中で生じてしまっていた。


「ザックス、もう一度思い返してみろ。フキは弱者で、おまえがどうしても守ってやらなきゃいけない対象だったか?」


ツォンはそれをザックスに気づかせる為、もう一度、フキの戦い方を見るように告げる。

空から小雪が舞い散り、いたずらのようにあたりを白くする中、そよ風のような歌声がかすかに聞こえてくる。
それほど多く聞いたことはないが、聞き慣れたフレーズにザックスはフキの方に目が行った。


『トゥエ レイ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ−−』


フキが歌い終えると、巡回していた警備兵は皆、黒っぽい渦に包み込まれた後、バタバタと卒倒していった。
一見、ソルジャーにしては地味な戦いではあったが、それでもフキがその一帯を制圧したことに変わりはなかった。

フキの戦いぶりを終始見ていたザックスは、これを機に目を覚ますような衝撃を受けた。


フキを弱いと決めつけ、危険なことから遠ざけることが、良いことだとザックスは妄想に囚われていた。
だが、今日この時からその考えは改めねばと、これほど猛省したことはなかった。


頼まれてもいないのに、守るという口実でフキにつきっきりでいるのは、フキの努力に対して失礼だとザックスは恥じたのだ。








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