TOA×シリーズ


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26



教会を出て、三人で談笑しながらスラムを歩いていたら、出来事に遭遇した。
ザックスが財布をすられたり、モンスターと戦ったり、ザックスがエアリスにピンク色のリボンをプレゼントしたりと。

そして、今はエアリスの提案でスラムの公園に俺達は訪れていた。
公園を散策する中、ふいにエアリスがソルジャーについて聞いてくる。


「ソルジャーって会ったこと、ある?」

「多分」


俺達がソルジャーだとは明かさずに、ザックスはエアリスの返答を待つ。
ザックスの考えを妨げるわけにもいかず、俺もただ見守った。


「幸せなのかな」

「どういう、意味?」

「子供たちの憧れ。世界を守るヒーロー。でも、普通じゃない。よく知らないけど、特別な手術、受けるんでしょ?」

「らしいな」

「普通がいちばん幸せ。私、そう思う。ソルジャーって、なんか、変」

「そうか、変か」


ザックスは今、どんな気持ちでエアリスの話を聞いているんだろう。
俺は、正直、心が折れそうだった。


「それに、恐い。戦うこと、大好きなんだよ」


エアリスが留めの一言を言い切った時、とうとうザックスが正体を打ち明けた。


「俺、ソルジャーなんだ」

「ごめん」


エアリスは驚き、息を呑む。
ザックスと俺が気まずくなってしまった雰囲気をどうしたものか、とアイコンタクトで話し合っていると、


「きれい」


エアリスがぽつりと呟いた。
すかさず、ザックスが茶目っ気な顔で顔が?と問い返す。
エアリスは首を振り、ザックスの瞳を見つめる。


「瞳」

「気に入った?だったらもっと見てよ。魔晄を浴びた者の瞳。ソルジャーの証だ」

「もう」


長年連れ添った夫婦のような、二人のやり取りに、俺は苦笑しながらも、内心はドス黒いものが乱気流を起こし、それを抑えるのが精一杯だった。
ソルジャーの証の色が出なかった、この赤い瞳を抉り出したい衝動に駆られそうにもなった。


−−なんで俺の瞳は、空色にならなかったんだろう。


ないものを強請ったって、どうしようもない。
俺は二人から視線を外し、全身を背けた。傾けているのは耳だけだ。


「空みたいな色だろ?」

「うん。この空なら恐くない」

「確かに、俺のまわりは普通じゃないことばかりだ。エアリスは?なんか問題あるか?」

「今日は穏やかな一日かな?そう思ってたら−−空からソルジャー、降ってくる」

「そんなに悪いことじゃない」

「うん」


二人の会話に僅かに間があくと、ザックスの携帯端末が鳴った。
どうやら、電話の相手は師匠らしい。


「わかった。行くところ、できちまった」

「じゃ、私行くね。また、会えるよね?」

「もちろん」


ザックスは胸を叩いて、エアリスにまたなと挨拶を告げた。


「助かるといいね、お友達」

「え?」

「うなされてたから」

「うん、大丈夫さ。今はそんな気がする」


俺とザックスはエアリスと別れ、プレート上層部へと駆ける。




× × × ×




ザックスとの劇的な巡り合いに、顔を綻ばせるエアリス。
そして、ザックスだけでなく、一度、自分の前から去ってしまったフキとの出会い直し。

この邂逅を運命と感じてしまって良いのだろうか。
期待に胸を膨らませながらも、先行きが気がかりでたまらない。


エアリスが思案に暮れながら帰路を急ぐと、細い小道から黒いスーツを身に纏った男が彼女の前に忍び出る。
男の髪と目の色はスーツがそれに合わせたと言わんばかりの、黒。
全身黒づくめの男が視界に入ってきて、エアリスは一瞬たじろぐが、顔見知りだと認識すると構えていた両手を下ろし、警戒心を解いた。

エアリスから敵意が削がれると、男は鼻を鳴らし、だが満足そうに薄笑いを浮かべた。
対してエアリスは、知り合いだからといって好意どころか、何かに激昂しているように目を輝かせていた。


「エアリス、あいつらに何かされたのか?それとも誰かにいじめられたか?」


揶揄と心配の感情が同時に存在し、上手くまとめ上げたような男の物言いがエアリスの鼻についた。


「フキに何、したの?」

「何も」

「嘘。フキ、お人好しなところあるけど、私のこと、簡単に忘れないもん」


彼の頭は悪くないと、エアリスは言いたいのだろう。
エアリスの口調には確信めいたものが込められていた。

男はエアリスの機嫌を損なわないよう、ちょっとずつ情報を小出しにしていくが、肝心なところは言う気がないことを会話の中に含ませ、彼女に弁明していく。


「フキをソルジャーにスカウトした」

「神羅に無理矢理、連れて行ったの?それとも、フキの意思で?」

「意思がニ割、無理矢理が八割」

「ソルジャーの手術、受けさせた?」


エアリスの鋭い指摘が、男の逃げ道を塞ぐ。
彼女の相手は、どんな危険な仕事よりも男の骨を折らせた。

まず、言い出したら聞かない。エアリスが幼少の頃より、彼女のその性分と男は付き合ってきた。

今回も彼女の押しの強さに自分は譲歩してしまうのだろうと、男は見切りをつけていた。
案の定、普段の自分らしからぬ口の軽さに、呆れてはいたが、こんな醜態を晒すのは彼女の前だけだと、腑に落ちた。


「受けはさせてみたものの、事前の検査で魔晄に拒絶反応を見せてね、麻酔の段階で手術を行わなかったも同然さ」

「じゃあ、どうしてソルジャーになってるの?」

「君に関する記憶も失っていたし、タークスで引き取ろうにも、セフィロスが先手を打ってしまい……いつの間にかソルジャーに」

「今すぐ、ソルジャー、やめさせて」

「できない」


きっぱりと言うエアリスに、タークスの男も間髪入れずに断言してやり返す。
エアリスも男の立場を考えているのか、譲歩しつつも自分の意見を押し通そうと男に気概を見せる。

それほど、彼女はフキを保守的な位置に居させたかった。
できることなら、誰よりも安全なところにいてほしい。
そんな願いを込めながら。


「なら、フキを戦わせないで」

「それもできない。第一、戦わなきゃ、ソルジャーでいる意味がない。それに、君がそこまでする価値があいつにはあるのか?」

「あるよ。うん、ある」

「それはなんだ?」


その確信めいた瞳と、言葉はなんなんだ?
男は、興奮して饒舌になりそうになるのを堪える。


確かに、男、ツォンの目から見ても、フキの持つ能力は魅力的だ。
でも、だからといって、本人にその力を誇示する素振りはなく、むしろ出し惜しみをしていることから神羅内でのフキの立場は、非常に扱いづらいソルジャーという評価だった。
セフィロスの庇護を受けていることもあり、不用意に手は出せない。

英雄の弟子、英雄の次期後継者と銘打って宣伝したくとも、セフィロスと本人が一切首を縦に振ってはくれなかった。



「ツォン、お願い。何がなんでも、フキの命を優先、して」

「ザックスよりも、か?」


自分の知りたいことに、彼女は結局答えてはくれなかったが、ツォンはあの手この手を使ってエアリスに鎌をかけてみる。
だが、彼女の方が上手だったようだ。


「ツォン、ずるい!でも、ザックスを先に助ければ、ザックスがフキ、助けてくれるから」

「……わかった。約束しよう」

「ありがとう」


ずるいのはどっちだ。
エアリスに必死で懇願されれば、断れないのをツォンは見抜かれていた。


−−それぐらいの頼みなら、お安い御用だ。


ツォンはエアリスから少し離れると、彼女の護衛と監視を再開する。

今はただ、どこにでもいる普通の女の子のように振る舞えるようになった、エアリスのささやかなひとときをツォンは静観していたかった。








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