TOA×シリーズ


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「そういえば、ここってどこなんだ?」

「スラムの教会だってさ」

「君たち、降ってきたの。びっくり」


俺たちが落ちてきた教会の天井を指差す、エアリス。
吹き抜けとなった天井を見ながら、よくあの高さから落ちて無事だったなと我ながら感心した。


「あんたが助けてくれたんだ」

「別に~。もしも~し!って言ってただけ」

「ハハハハハッ−−本当にありがとう、エアリス。俺、ザックス。なんかお礼しなくちゃな」

「いいよいいよ」

「そうはいかない。な、デート1回ってのは?」


ザックスの突拍子もない提案に、今度は俺とエアリスが笑った。
デートがお礼なら、ザックスと同じくエアリスに助けられた俺もしなきゃいけないのか?そんなことしたら、シスネにどやされる……。

ザックスのデートの誘いをエアリスが笑い飛ばしていると、何気なく歩き出したザックスが花畑を踏みそうになる。
それに気づいたエアリスと俺は、思わず声を尖らせる。


「「ストップ/ザックス!お花、踏まない/を踏むな!」」


ハモった俺達に注意され、ザックスは降参をするように両手を軽く上に挙げた。
ザックスを注意するタイミングが重なった俺とエアリスは、きょとんとした目つきで見交わす。
互いの顔がなんとも面白く映ったのだろう。俺とエアリスはまた笑い合った。


「なんだ?」

「花、あったら気をつけるでしょ。普通」

「悪いな、普通じゃないんだ」

「開き直るなよ……ザックス」

「へへッ、あれ?花なんて珍しいな。ミッドガルじゃ高級品だぜ」

「そうなのか?」

「フキは知らなかったのか?」

「まあ、な」

「そっか」


この世界での常識はある程度身につけたつもりだが、こうしてたまに墓穴を掘ってしまい、事情を話していないザックスに後ろめたさを感じて、会話を途切れさせてしまうのがすごく申し訳ない。それでもザックスは、そっとしておいてくれる。
ザックスのそういうところに、俺はいつも救われていた。

俺の事情をなんとなく察してくれたであろうエアリスが、心良く説明してくれる。


「ここだけ咲くの。うちのまわりに植えたのも、元気に育ってる」

「俺なら売って金にするね。ミッドガルは花でいっぱい!財布はお金でいっぱい!」


力説するザックスに、度肝を抜かれる俺。なんという、荒稼ぎ精神なのだろう。

俺もエアリスと一緒に、ザックスが言ったことを復唱する。頭の中に刷り込み終わると、エアリスが顔を上げる。


「考えたこと、なかった」

「ザックスは普通じゃないからな」

「なあんだとぉ~!言っとくけど、フキも俺と同類なんだからな!!」

「ちょっ、痛えよ!ザックス!!」


エアリスの疑問に肩をすくめながら答えると、ザックスは俺の頭を脇に抱えて締め上げる。
普通じゃないって言い出したのはザックスのくせに!


俺たちが戯れあってるように見えたのか、エアリスがキレのいい一言を口走る。


「ふたりって、仲、良いんだね」

「「……」」


ただ同意するような人懐こい笑い方をするエアリスに、俺達は瞬き一つせずに、見惚れた。途端に戯れあっているのが恥ずかしくなった俺達二人は、耳元まで赤面しながら距離を取る。
ザックスも俺も、長年探していたパズルの最後のピースを見つけたようなエアリスとの出会いを、こうして果たしたのだ。





俺とエアリスは花の様子を見、一通り教会の中を見て回ったザックスは出入り口の方まで向かっていた。


「いつもここにいるのか?」

「うん。ね、どこ行くの?」

「うーん、わからん」


いや、神羅ビルに帰らなきゃだろ。この場合。
取り留めのない会話をしながら出入り口に向かう俺達三人。


「送っていく、ね?」

「でも、普通は俺達がエアリスを送って行くんじゃ……」

「いいから、いいから!」

「でも、行くって言ってもどこへ?」

「うーん、わからん」

「俺ともっと一緒にいたいんだろ!」

「うん」


即答するエアリスに、ザックスだけでなく、俺まで胸の高鳴りが抑えられそうにない。


「俺は教会の外で待ってるから、二人で行き先決めといてくれよ……見てて、熱いっつーの」

「「それはダメ!!」」


二人きりの世界を展開しそうなザックスとエアリスに、巻き込まれないように逃げようとしたら、二人から両手を左右から掴まれる。
いや、なんでだよ。粋な計らいをしてやろうと思ったのに。


「とにかく、ここを出なきゃな!」

「素直に、私に案内、されてね!」


捕まった宇宙人の如く、左手をザックス、右手をエアリスに掴まれ、俺達は教会の外に出た。




× × × ×




スラムと聞くと殺人が日常的に行われ、ドラッグが当然のように飛び交う風景なんかを想像していたが、古き良き下町社会のような、和気あいあいと連携しながらの生活が営まれていた。
エアリスが言うには、住民から自警団が生まれ、治安は維持されているらしく、割と平和らしい。


「スラムって、ちゃんと街っぽい形してんだ」

「でも、違法建築のオンパレードだけどな……」

「そんなこと、言わない!みんな、ずっとここで暮らしてるんだから。あのゲートの中、マーケットなの。いろんなお店出てて、楽しいよ。プレートの上にもあそこから行けるの」


いくら自警団がいても、プレート上層部の街と比べれば、無法地帯寄りなのは確かで、法が無いということは、ちょっとの盗みで殺される可能性もあるし、住む場を求めた結果居付いたのに、何か悪さを犯したらここにいれなくなることは明白。だとしたら和を乱さずに暮らす方が得策ってわけだ。

法は犯されまくってるけど……。


建設基準法も当然、スラムではスルーされており、杭打ちはなし、最初は3階まで鉄骨で建てて、その後段々と階を重ねていく手法などもあったようで、まさに行き当たりばったりな建築様式。
でも、高さ規制はなんとか守られてるみたいだった。

プレートを支えている柱があって、それと接触したりすると不都合が起きるんだろう。
ビルもペンシルビルという棒のような建物が林立し、間がほぼ無く、お互い支えあってる状態でよく崩れなかったと俺は感心していた。


狭い敷地に建物がひしめき合い、積み重なっている為、スラムには太陽の光が入るところがほとんど無かった。
ザックスもそれに感づいたのか、うんざりしたように不満を漏らす。


「なぁんか、息苦しい」

「まあ、スラムだし、いったん足を踏み入れれば、日の光は見えないしなぁ……プレートが空みたいなもんだろ」

「そうだ!空がないんだ!!」


思い出したように、ザックスが俺の言葉に閃きを感じた。
そんな俺達の考えとは裏腹に、エアリスが沈んだ表情で口を滑らせる。


「空なんて、なくていい」


俺達はエアリスの言葉を一言一句、聞き逃さなかった。


「年中プレートに覆われてたら、空が恋しくなるだろ?普通」

「ごめん、普通じゃないの」

「わけあり?」

「空、恐いんだ。吸い込まれそうで……変、だよね」


自分が人と変わってることを認めざるおえない、とエアリスは諦め切った目で俺達を見やるが、俺とザックスはそんなことないと首を振った。


「普通なんて、つまらないさ」

「そう……かな」

「そうだ!俺とフキでいつかキレイな空を見せてやる。恐くなんかない。エアリスだってきっと気に入る。な、フキ!」

「お、おう。ザックスの言う通りだよ、エアリス。それに恐いものは、ライフストリームが全部やっつけてくれる」

「ライフストリーム、が?」


少し、驚いたようにエアリスが小首を傾げる。
その反応に、俺は勝手な憶測をする自分に不自然さを感じながらも、今、自分が言ったことに後悔はなかった。

エアリスも奇想天外な俺の言葉を馬鹿にして笑うようなこともなく、満足げに微笑んでくれた。


「ライフストリームの前に、"俺たち"がエアリスの恐いもの、やっつけてやるよ!!」

「ザックス!?」

「うん、ザックスとフキに期待してる」


後ろから俺の首に手を回し、飛びついてくるザックスに同意して、俺とエアリスは再び笑い合う。








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