TOA×シリーズ


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「観念しろ、ホランダー!!」


スイーパー達を掃滅し、俺とザックスでホランダーを追い詰める。


「あんた、自分がやっていることわかっているのか!?」


地べたに這いつくばってまで逃げ回るホランダーの出方を見ながら、じりじりと俺達は詰め寄った。
区画の境目に差し掛かると、鉄柱から身を潜めていたアンジールさんが現れる。

バスターソードを俺達に向けたということは、もう覚悟を決めて、俺達と敵対するというアンジールさんの意思表示なのだろう。
それでも、ザックスはブレない。


「ホランダーの言いなりか−−何がしたいんだよ!?」

「世界征服」

「つまんない冗談はやめてくれ」

「では、復讐か」

「誰に。アンジール!」


ザックスの厳しい追及に耐えかねたのか、アンジールさんは背中から片翼の白い翼を俺達に見せた。


「俺はモンスターになってしまった。モンスターの目的など、復讐か世界征服くらいしか思いつかん」


歪んだエゴの延長線でしかない。
俺達は誰もそんなこと、アンジールさんにしてほしいと望んでないのに。


「違う−−翼はモンスターの証じゃない」

「では、これは何だ?」

「天使の翼」

「なるほど。ならば天使はどんな目的を持てばいいんだ?どんな夢を見ればいいんだ?」


アンジールさんは泣きそうになりながら叫んだ。
人間とそうでないものの間にいて、まだ迷い続けているんだろう。


モンスターと人。
その境界線がどこにあるのか。

生まれか、あるいは心か。
それはアンジールさんだけでなく、俺達ソルジャー全員にずっとつきまとう問題だ。


「アンジール−−」

「天使の夢はひとつだけ」

「教えてくれ」

「人間になりたい」


バスターソードを床に突き刺し、俺達に迫ってくるアンジールさん。
最後の方で、苦しそうな本音を吐露してくれた刹那。五,六メートルほど殴り飛ばされ、腹部の痛みを我慢しつつ、俺達は立ち上がった。

反射的に拳を構えるが、ザックスはそれを下へ振り下ろし、俺は未だに痛む腹を押さえた。


戦う意思のない俺達にアンジールさんは業を煮やして、投げつけるように云った。
俺と戦え、と。


「どうして……!どうしてなんです!?アンジールさん!どうして、ジェネシスさんのお見舞いに行った、あの日から……こんなに俺達の心の距離は遠くなってしまったんですか?」

「俺にも、わからない。おまえの言うように、あの日以前に戻れたら、どれほど良かったのだろうな」


もう聞く耳すら、持ってはくれないのだろうか。

アンジールさんは俺達から視線を外し、やけくそに地面に拳を突き立て、地を這う衝撃波を放つ。


−−クソ……!何か攻撃をしかけてくるだろうと予想してたのに、バリアを張るタイミングを見誤った!!


俺とザックスはもろに、アンジールさんの放った技を喰らい、フェンス状の足場板ごとプレートの下まで墜落した。
俺もザックスも、落下中に意識を失ったのか、次に目を覚ますまでの間の記憶は無かった。




× × × ×




−−今、眠ったら、次はちゃんと起きれるだろうか?


物心がついた時ぐらいだろうか。
夜、寝る前に、次の日のことを考える。そして、自分は"無事に"明日を迎えることができるのだろうかと。

病気になった時、大怪我をした時、事件事故に巻き込まれた時、その考えは過るのだ。


もし、目を覚ますことがてぎなかったら?
もし、寝ている間に、自分は死んでいたら?

殺す、殺されるではなく、何気ない唐突な死の方が、昔から恐怖に感じていた。
自分の生き死にが賭けられているような気がして、ダメだったのならば、潔く諦めたかった。長時間の痛みにすら、耐えられる度胸も自分にはないのだから。
生殺しの目に遭うくらいなら、さっさと息の根を止めて欲しいぐらいだ。



「−−……!−−フキ……!」


聞こえるか聞こえないかの音が耳に届く。
まるで、別の世界の入り口から聞こえてくるような、小さなかすんだ呼び声。

聴覚だけが先に鋭敏になっていき、俺の意識はまだ深いところまで沈んでいた。


「頼む……!……お……きてくれ、フキ!!」


強い光によって、くらんだ目の網膜には閃光と点滅する星が飛び交うが、誰かに手を掴まれ、水中から引き上げられた魚のように、水圧に抵抗できなかった体が一気に起こされるような感覚を受け、俺は目を覚ました。


−−俺はまた、明日を迎えることができるのか……!


死の恐怖から解放されたことを実感し、ザックスや見知らぬ人間がそばに居るのもお構いなしに、俺はザックスの胸にすがって赤ん坊のように泣いた。




しばらくザックスの胸の中で泣いた後、涙よりも羞恥心の方がどっと溢れ出し、泣き顔と赤面で見るも当てられない顔を見られたくなくて、俺は蹲っていた。


−−頼む、誰か数分前の俺を殺してくれ。


後悔したようにうなじを垂れていると、長いこと俺の回復を待っていてくれたザックスが軽く肩を叩く。


「フキ、もう大丈夫だからさ、そろそろエアリスに挨拶しようぜ?な?」


火照りが抜けない顔を上げ、ザックスの隣にいる女の子に目が行く。
柔らかい感じの美貌から目が離せない、全体的に神々しい雰囲気の女の子。

恥ずかしさとは違った意味で、俺の顔はまた赤くなる。
目が合うと、ここに存在しているだけで偉い、と褒めてくれそうな寛容度の高い笑みを向けてくれる。


「おかえり、フキ」


容姿と比例して春の日差しのような、柔らかい有紀君の声に、思わず俺も彼女につられて破顔する。
けど、彼女からかけられた言葉に、俺は一瞬で冷静さを取り戻す。

だって、彼女とは初対面なのだから、この場合は"おかえり"じゃなくて"はじめまして"のはずだ。
彼女に合わせて取り繕った笑みが、若干引き攣る。


「えと、君と会うの、初めてだよね?俺は、フキ。フキ・フォン・ファブレ。よろしく、エアリス?」


俺はよそよそしく、尋ねて、自己紹介をする。
俺の挨拶の仕方にエアリスの中で引っかかるものがあったのか、彼女の顔から喜色は消え、悲愴な面持ちだけが残った。


「ごめん、ごめん!今のなし!よろしくね、フキ」


元の愛嬌あふれる顔つきに戻ったものの、一度でも彼女を傷つけ、悲しませてしまったことに俺の胸は痛んだ。








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