TOA×シリーズ


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ジリアンさんが息を引き取ってから、数分後。
この場で起きた出来事をリセットするかのように、ガチャリとドアが開けられ、陽の光が差し込んでくる。

俺はジリアンさんを抱えたまま、半身だけを出入り口の方に向けた。


本来だったら、再会した嬉しさで頼りになるがっしりした体つきに飛びつきたかった。でも、それが出来なかった。


酷い泣べそ顔の俺と一度目が合い、そして、ジリアンさんの亡骸と室内の状況を見渡す。
事態を把握し終えると、もう一度、俺の目を今度はしっかりと意識して見た。
大股で俺達に歩み寄ると、アンジールさんはジリアンさんの亡骸を抱いた俺ごと、強く抱きしめた。

弱音を吐くように、すまない、とだけ言って、アンジールさんは俺の肩で涙を流した。



ジリアンさんを床に寝かせ、俺とアンジールさんは一ヶ月ぶりの対面に感じ入るものがあったものの、今の状況下では手放しに喜べなかった。


「母の最期に付き添ってくれて、ありがとう。本来なら俺の役目なのに、こんな形でお前に看取らせてすまなかった」


なんとも、奇妙な謝礼をしてくれるものだ。
看取るとはいっても、他人の自死を目撃し、結果的には手助けまでしてしまったというのに。

訳が分からなかった。この親子の考えや行動が。
人を救えなかった無力さに、何処をどう感謝される謂れがあるというのだろう。


俺は腑に落ちないジリアンさんの行動が、さもアンジールさんへの遺言だと当て付けるように伝える。


「好きな地獄を選んだ、と、ジリアンさんは言ってました。許しを請いたい相手もいないって」


これがどういうことなのか、あんたにわかるのか!と非難の怒気が俺の声にはこもっていた。
知らないとは言わせないと、意趣を込めてもいた。

俺の言動を見越していたのか、アンジールさんは丁寧にジリアンさんの真意を語り出す。


「母は悟っていた。償いきれない過ちを犯したからこそ、どう生きようと、地獄にいることに変わりはないと。自分が好きなように選べた地獄が、これだったんだ」


納得できるか。そんな話。
悲しみとも、怒りともつかない形に俺の顔が変わるのを感じ取った。

どんな気持ちで、堪え難いこの話を聞いていればいいんだ……!
俺は、我慢ならなかった。

死ぬことが、償いへの近道だと思っているジリアンさんにも。母親の間違いを甘受するアンジールさんにも。


「死ぬしか方法がなかったなんて、言わないでくださいよ!償うことから、逃げたようなものでしょう!?」

「母は……母は、自分の過去を恥じ、自ら命を絶ったんだ!!」


アンジールさんの胸ぐらにしがみついた俺を、彼は強引に引き剥がしてその辺に投げ捨てる。


「けど、正しい行動っていうのは、価値がある分しんどいものでしょう!?過去に対する悲しみや悔しさをアンジールさんとジリアンさん、二人でしか分かつことはできないんですよ!?だって、この世でたった二人だけの家族なんですから……!!」


アンジールさんを説得している最中、どうしても、涙が止まらない。
なんとしてでも、アンジールさんにはジリアンさんの後追いをして欲しくなかったからだ。

アンジールさんの胸を両腕で殴りつけるように、俺は取り縋った。
それでも、アンジールさんには譲れない信念があって、俺の懇願ははねつけられた。

言葉とともに肩を打ち叩かれ、俺は尻餅をついた。
上手く受け身を取れなかったこともあり、アンジールさんも咄嗟の自分の行為に悔恨の色が表れる。


そんなタイミングの悪い状況下で、更に不運が重なる。ザックスだ。


「なんてことするんだ!おい!!それが−−それがお前の誇りか!!おふくろさんを殺して!フキを痛めつけて!!」


アンジールさんの胸ぐらを掴んでは、思いきり壁に叩きつけてザックスは迫った。
ザックスの咎めを否定するわけでもなく、アンジールさんは自分が殺したような口ぶりをする。

何を言われても否定しないことが、アンジールさんの誇りなのだろうか。


とりあえず、アンジールさんへの誤解を解かねばと思い、俺はアンジールさんの胸ぐらを掴み続けるザックスの手を避けさせようと二人の間に入る。


「母は生きてるわけにはいかなかった。息子も同罪だ」

「アンジールさん、もう自分を追い詰めるようなことはやめてください!!」

「フキまでなんだよ……わけわかんないこと言うなよ!ちゃんと説明してくれよ!」


家の外にアンジールさんを投げ飛ばすザックス。
これ以上、乱暴を働かれては困ると思った俺は、ザックス抑えにかかる。


「どけよ、フキ!俺はアンジールに……」

「言っただろ?もう、そっちでは生きられないのさ」

「ジェネシスさん!?」

「久しいな、フキ。クラス1stになった気分は、どんな気分だ?」


どこからともなく、突如現れて、冷やかすジェネシスさんに、俺は何も答えなかった。
それどころか、軽蔑と非難の眼でジェネシスさんを見た。


どんな気分でクラス1stになったかだって?

今は、嬉しくも、誇らしくもない。
あんた達と敵対するための足枷になっただけだ。


思いをなかなか口に出せず、悔しくて俺は歯噛みする。


「アンジール!!」


アンジールさんを追いかけようとするザックスの足をジェネシスさんが引っ掛けて転ばせ、行手を阻む。


『君よ、飛びたつのか?われらを憎む、世界へと。待ちうけるは、ただ過酷な明日。逆巻く風のみだとしても』


ザックスがLOVELESSの一節を読み上げるのをやめろ、と口々に言っても、ジェネシスさんは続けた。
どうしても、この状況をLOVELESSの物語と重ねたいらしい。
これのどこが、LOVELESSと一緒なんだ!?

どうやら、今のジェネシスさんは、ソルジャーの精神と対極にいるみたいだ。
この人にとって、世界や延いては友人さえ、LOVELESSのシュミレーションなのだろう……!!

俺達ですら、ただの玩具にすぎないのか!?


俺が怒りをこめて睨みつけると、ゲームの誘いに乗ったとでも受け取ったのか、ジェネシスさんは悦に入る。
左手でマテリアを掲げると、魔法陣を展開させた。


「今日はセフィロスがいないようだが−−どうかな?それと、フキ。クラス1stになった祝いだ。お前にも受け取ってもらうとしよう」


魔法が発動し、バノーラ村の長閑な風景が殺伐とした異空間のものへと変わる。
ひどく澱んだ空。ゴツゴツとした岩肌の地面が果てしなく続いている足場。
そして、俺とザックスの目の前には、バハムート……幻獣のドラゴンが飛来した。



「マジかよ……。ジェネシスさん、尊敬するの、もうやめようかな」

「そうしろそうしろ!あのいじめっ子め!!」








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