TOA×シリーズ


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18



アンジールさんが神羅を脱走してから、一ヶ月が経った。
ソルジャーの戦力の向上を目指して、(ザックスは予備軍だけれど)俺はクラス1stとして格上げされたというのに、入れ替わりでアンジールさんとジェネシスさんがいなくなった今、ソルジャー部門は前とさほど変わらない戦力のままだ。

俺もザックスも、セフィロス師匠も気持ちのおさまりがつかない日々を送っていた。
それでも、ソルジャーにはやる事が沢山あって、各々の得意分野で任務をこなしていた。


そんなある日。


俺の携帯に一本の電話が、かかってきた。
どうせ、ウータイやら神羅の魔晄供給とかに批判し始めた、反神羅組織アバランチとかの討伐任務だろうと気にも留めず、応答ボタンを押す。


「はい、もしもし」

『ソルジャー・クラス1st フキ』

「ああ、ツオンか」

『いい加減、人の名前を正しく言えるようにしろ』


ため息を押し殺すようなツォンの口気に、俺はいたずらっぽく笑う。

ツォンの名前の正確な発音が、聞き取れないわけではない。これでも、絶対音感は持ってる方だし。
ただ、何故かツォンの名前を音として発することができない……というか、ひどく難しいのだ。


検討は大体ついている。
ツォンのように、俺の世界にはない音の名前だからこそ、発音の難しさを感じているのだと思う。

だから、俺はなるべく会話でツォンの名前を小出しに呼びながら、話をしているのだ。
心がけてはいるが、まだ成果は出ていない。


「いちいちそんなことで、電話をかけにきたわけじゃないよな?」

『当たり前だ。新しい任務のことで、お前に電話をかけたんだ』

「へいへい……で、どこに行きやいーんだ?」

『バノーラ村だ』

「……」


次の任務先がよく知っている場所である事が発覚すると、俺は心が重苦しい苛立ちに襲われた。

こんなご時世でなければ、小躍りする気持ちが隠せなかっただろう。
でも、それはもうできない。


クラス1stの誰かが、休暇になると連れて行ってくれたバノーラ村は、俺にとって体を二つに割れるような苦痛を感じさせる、苦い思い出の地となっていた。


『受けたくない任務だと思ったのなら、セフィロスのように、命令拒否をしてもいい。お前も神羅にとっては、特別な存在だからな』


特別、ね。
超振動……ありとあらゆるものを分解し再構築する力。更には、その上の力、第二超振動はもっと凄い。
あれは、ありとあらゆる魔法を無効化し、大気すら消滅させる兵器並みの力だ。

幸いにも、魔法を無効化したり、大気すら消滅させる力だと言うことは、セフィロス師匠以外の人間には知られていない。教えるつもりもない。

知られてしまえば、化学部門にとっては面白みのある研究材料にされてしまう。それだけは何としてでも避けねば。


ツォンすら知らないことを自分だけが理解し、掌握して一方的に駆け引きに持ち込んでいることに、我ながら嫌悪感に酷く顔が歪む。
友達を裏切っているような感覚が、俺を卑怯者と罵っていた。


「いや、受けるよ。この任務」

『引き受けてくれて、助かる。今回もザックスが同行する。そして、俺も出る』

「わかった。よろしく頼むよ」


通話を切ると、俺は集合場所に向かった。




× × × ×




バノーラ村に到着すると、早速、特産品のバカリンゴの木が出迎えてくれた。
アーチ状のバカリンゴの林道を進んでいると、何回かジェネシスコピーと戦闘になったものの、村から人気が感じられず、調査のために俺とザックスはアンジールさんの家を訪ねることに。

バノーラ村はジェネシスさんとその親友でもある、アンジールさんの故郷だ。
親友同士の二人が神羅を脱走したのだから、生まれ故郷を真っ先に疑うのは正しい……のだろう。



「えっと、アンジールの家は……」


村の広場まで行くと、中央に噴水があり、噴水を囲うようにドーム状に民家が隣接して建てられていた。
俺はすかさず、ザックスの前に出て、アンジールさんの家に誘導する。


「ザックス、アンジールさんの家はこっちだ」

「フキ、アンジールの家、知ってたの!?」

「つっても、数回しか来たことねーけどな」

「へー……あれ?フキ、なんか……感じ変わったか?」


つい、素の口調でザックスと問答してしまう。気をつけてはいたんだけどなぁ。
俺の口の悪さは、父さんの若い時に使っていた口調を真似続けた結果、今の粗野なものになってしまっている。勿論、普段は猫をかぶって、穏やかな喋り方を意識してはいるのだけれども。

油断したり、気を抜いていい相手がそばに居ると、どうしても素行の悪い話し方になってしまう。


「気を悪くしたんなら、謝るよ。本当は今のが素なんだよ、俺」

「あっ、ああ、単純に驚いただけだから!フキの話しやすいようにしろよ」

「ありがとう」


ザックスの寛大さに、照れながら俺は礼を述べた。

いざ、アンジールさんの家のドアノブを引いて扉開けると、四足歩行系のモンスターが飛び出してきたが、撃退し、家にお邪魔する。


家に入ると、綺麗な姿勢で所々顔のパーツがアンジールさんの面影と重なる老女が、台所テーブルの備え付けの椅子に座っていた。
確か、この人は……。


「えっと、ジリアンさん?お久しぶりです」


彼女の名前はジリアン。ジリアン・ヒューレー。
アンジールさんの母親だ。


「あなたは……確か……」

「フキです。数回しかお会いしたことないと思うんですけど、アンジールさんとジェネシスさんによくお世話になってました。そして、こっちが……」

「俺は後輩のザックス」

「もしかして子犬のザックス?」


ザックスの名前を聞いた途端、ジリアンさんは始めに何かが弾けた反応をすると、ダムが決壊するように記憶の洪水が頭の中を駆け巡ったらしく、二回目でザックスの名前を鮮明に呼ぶ。


「息子からの手紙に書いてあったわ。集中力ゼロ。子犬のように落ち着かない」

「ハハッ、うまいな。アンジールさん」

「どこがだよっ!アンジールのやつ−−」

「あなた達は、ジェネシスの仲間じゃないのね」

「うん、ちがう。安心して」


ジリアンさんの質問に、ザックスは即答する。
ジリアンさんの手前ということもあるんだろうけど、アンジールさん以外のことにすっぱりと切り捨てられるザックスに、俺の胸は少し痛くなった。


「息子に何があったの?」

「俺にもわからないんだ」

「ひと月前にジェネシスが帰ってきた。大勢の仲間を連れてね。そして村人たちの命を奪ってしまったの」


−−ジェネシス、昔はいい子だったのに。

悲痛な面持ちで、ジリアンさんは語る。
アンジールさんも戻ってきたが、バスターソードを置いてどこかへ行ってしまったらしい。

壁に立てかけられたバスターソードは、静かに主人の帰りを待っているかのようだった。


「その剣は我が家の誇りなの」


ジリアンさんの言葉に、何かを汲み取ったのか、ザックスは閃いたように話し出す。


「あいつ、この剣、ぜんぜん使わないんだ。アンジールのこと、俺達に任せて。おふくろさんは、隠れてたほうがいい」


ジリアンさんの前で跪き、ザックスは誓う。
その姿が在りし日のアンジールさんと重なって見えて、俺の心が騒ぎ立った。


「心配いらないわ。ジェネシスは、私を殺せない−−」


ジリアンさんの声には、相手の抗弁を許さぬ響きがあった。
ザックスは首を傾げ、俺はジリアンさんの話ぶりに何か暗示らしいものを感じていた。

何の根拠があって、ジェネシスさんがジリアンさんを殺せないと確信できるのだろうか。

これ以上二人に関することを聞いても、ジリアンさんは何も話してくれないだろうと俺は踏んだ。



俺達はアンジールさんの家から引き上げようと、玄関のドアノブにザックスが手をかける。
だが、そこでジリアンさんが俺を引き止める。


「待って。フキ……だったわね?少し、年寄りの昔話に付き合ってくれる?」


思いがけない誘いに、俺はジリアンさんを見てから、ザックスにここに留まっていいのかどうか、アイコンタクトで窺った。


「おふくろさんの話し相手、してやれよ。いつジェネシスが襲ってくるか、わかんないし。俺からツォンに言っとくよ」


ザックスは快く、俺がアンジールさんの家に、もう少しだけ居座ることを承諾してくれた。


「悪りぃな、ザックス」

「謝んなって!お前も、アンジールやジェネシスが気がかりなんだろ?」

「うん……ありがとう」


ザックスの気遣いに、ありがたさで心が打たれる。
家を出たザックスの気配が、周辺からも完全に消えると、俺はジリアンさんの方に振り返った。

愛嬌のある微笑を口元に湛えて、何かを物言いたげにしていたが、俺が口を開くのを献身的に彼女は待っていた。


「それで……俺に話って?」

「前に何度か会った時は、そこまで気にならなかったのだけれど……今のあなたは、昔の知り合いに似てきている気がして……」

「知り合い、ですか」

「ええ、確か、タークスで。名前は……そう、ガウナ。ガウナ・ヴァレンタイン」


ジリアンさんが挙げた名前は、大いに俺を驚かせ、心の平衡を失わせた。

生まれ故郷の世界のオールドラントでも、この世界でも。同性同名なんて万が一にも、あり得ない。
唯一無二の名前だということを、俺は知っている。


まさか、こんなところで。この世界で、彼女の名前を聞くことになろうとは、思わなかった。




ガウナ・ヴァレンタイン。


俺を産んだ、女の名だ。








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