TOA×シリーズ


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「あった、あった」


十五回目の誕生日を目前に、俺は父さんが出払っている日を狙って、父さんの部屋からローレライの鍵を持ち出した。
誰にも見つからないように早足で屋敷内を抜けて、裏庭の木の幹にしゃがむ。
ここなら、屋敷の中から見ると死角になるし、使用人達には見つからないはずだ。

隠れる場所を確保すると、俺は早速ローレライの鍵を鞘から引き抜き、刀身から柄の部分までを眺める。
名称は鍵だが、見た目はどう見ても剣だ。

顎の部分に埋め込まれた赤い石が、鈍い光を帯びている。
恐らく、これが父さんが話していたローレライの宝珠なんだろう。
宝珠に軽く触れてみるが、大して何かが起こるわけでもない。


(何も起こらないじゃないか)


口うるさく触るなと言っていた連中に、この状況を見せてやりたかった。



十歳の折に突如として、俺はティアさんから受け継ぎ、学んだ譜歌を歌ってはいけないと言われ、父さんからは与えられるはずであろう、ローレライの鍵も触れてはいけないと念を押されてしまい、苦労して身につけたはずの剣術と譜歌は、俺にとってはあっけなく徒労に帰してしまった。

何故、関わってはいけないのか、それすらも教えてもらえない。
不服は募るばかりで、ダメと言われれば、それに逆らってでも関わりたくなるもんだ。

俺はローレライの剣のあちこちに触れ、何か起きるのではないかと確かめていた。
しかし、宝珠や刀身をなぞっても剣は一切の反応を示さない。
このまま反応が無ければ、せっかく父さんの部屋から死に物狂いで持ち出した意味がなくなっちまうじゃねーか。


せめて、何かが起きてくれればと額の前に掲げて目を閉じ、願ってみる。
けれど、俺の願いは天に届くことなく静寂な時が流れただけだった。ローレライと契約を結ぶ為の鍵なのに。


これじゃあ、単なる観賞用の剣ではないか。

期待はずれな鍵を鞘に収め、青く澄み渡るバチカルの空を見上げた。



× × × ×



『――見つけた……我が望みを叶えし、者よ』


誰かに呼ばれたような気がして、俺は目を覚ます。
真っ赤に染まった夕焼け空が、ぼやけた視界に滲む。
どうやら、俺は空を見ている内に寝てしまったようだ。

起き上がろうにも体の倦怠感が邪魔して、立ち上がろうとした足が覚束無い。
寄りかかっていた木を支えにし、なんとか身を起こす。

立ち上がった拍子に、木に立て掛けていたローレライの鍵が、ガシャンと喧しく地に落ちた。


(やべぇ、拾わなきゃ)


地面に片膝をついて鍵に手を伸ばすと一瞬、顎に填められた宝珠が煌めいた。


「今、宝珠が……っ!?」


宝珠に目を移した途端、頭の奥が痺れるような感覚に襲われる。
今までに、味わった事の無い感覚だ。

頭を中心に体全体が、支配されるような。
初めての痛みに体が着いていけず、俺はその場に両膝をついた。



『フキ……それに………かん……声に……』


痛みと共に、奇妙な声が頭に響く。


「うわぁーっ!」


両手で側頭を鷲掴むが、なんの気休めにもならず、頭痛が治まることはなかった。
止むことのない痛みに、俺は息急む事しか術がない。


「壮麗……たる、天……使の歌……」


藁にもすがる思いで、息絶えだえに習った第三譜歌を詠い、回復を試しみる。


−−ヴァ レイ ズェ トゥエ


譜歌を途中まで詠い始めた俺の体から、光が放たれる。


「な……なんだ!?」


急に、全身のフォンスロットで音素を感じることができなくなる。
思うように音素が集められず、俺は苦戦を強いられた。
頭は痛みを増すばかりで、どんどん視界が霞んでゆく。


(そうだ、ローレライの鍵なら……なんとかなるかも…!)


俺はあたりを見渡し、ローレライの鍵を探す。
どうやら足元に転がっていたようで、俺はそれを確認すると前のめりで鍵に手をかけた。

鍵に手をかけると、共鳴するかのように鍵が光を発する。


「これ、は…?」


地面に座り込むと、俺の体から光の渦が発せられた。
やがて光は俺を包みこみ、頭にはまたあの声が響く。


『ようやく……捕らえた……!……その力、 忌々しい古代種を滅ぼすのに……使わせてもらおう』

「フキ!?何をしたんだ!!どうしてこんな事に……」


不穏な言葉と共に、救いの手とも言えるべき父さんの声が降りかかる。
父さんも俺も、互いに手を差し伸べた。

だが、俺の体を構成してるのは光のみになっているらしく、父さんと手を取り合えたとしても、父さんの手は俺を掴むことなく宙を握りつぶしていた。


「いいか、フキ!あっちの世界に飛ばされたとしても、絶対に死ぬんじゃないぞ!!死んでしまえば、お前は……!」


父さんの言っていることは最後まで聞き取れず、鳴り止まぬ共鳴音と共に俺の意識は、闇に落ちた。









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